聖女は万能過ぎたので追放されました。

琉水 魅希

第1話 ープロローグー 追放と婚約破棄はテンプレのようです

 「なぁ、シア。いや、レティシア・フラベル・ウェルアージュ 。お前このパーティを辞めてくれないか?」

 

 ダンジョンの最奥、最下層のボスを倒し終えたにパーティリーダーであるユータが突然言い出した。

 仮にもパーティとしてやってきた人物に、ボスを倒した後とはいえダンジョン最下層で言う事かなぁと思うわけだけど。


 「どうして?」

 ユータの言葉を信じられない私は直ぐに聞き返した。ここはボスを倒した後だしみんなでやったーって喜ぶところじゃないのかな?


 「お前、聖女という天職のくせに……」


 くせに……?

 なんだろう?


 「万能過ぎるんだよぉ。勇者の俺よりもな!大魔導士のアリシアよりもな!忍者のユーグよりもな!」

 声を荒げてユータは思いを口にしていた。私の能力ってそんなに万能だろうか。

 自覚はないんだけれど……


 「俺達さっきのボス戦ってなにかした?ただ見てただけじゃんか。俺も他のメンバーももううんざりなんだよっ。」

 「ギルドに戻って報酬を貰えても、国民から名声を得られても、経験値取得してレベルアップしても、強くなった気も偉くなった気も全然しねーんだよっ。」

 ハァハァと呼吸を荒げると身体によくないよ、若しくは憲兵さんの出番になっちゃうよ。

 私の加護があるから自動快復しちゃうけど。


 快復だよ。回復じゃないよ。動悸息切れは病に近いからね、多分。


 「みんなもパーティから抜けて欲しいの?」


 黒装束を身に纏ったユーグ・トンペティは黙って頷いた。

 彼は忍者という天職で主に斥候をこなしてくれている。

 学園に通っていた時の仲間の一人でもある。

 

 「私の魔法が活躍出来る機会が殆どないんだもん。」

 首を振り、長い髪を揺らしながらぷるぷると震えていた。

 彼女は王都で流行ってる魔女っ子なんたらちゃんのような可愛いローブを身に纏い、煌びやかな杖を右手に持っている。


 大魔導士という天職でかなりの上級魔法と多大な魔力を有している。

 ユーグと同様学園時代からの仲間でもある。 


 それにしてもアリシアってば、怒ってるのだろうか。

 ぷるぷる震えてるし眉間に皺が寄ってるし?


 それよりもアリシアが左手でユータの腕を掴んでるのが気になった。

 よく見てみると胸……当ててない?


 なんて考えていると、突然ユーグの声が木霊する。

 「ユータ!裏ボスが出現したぞっ。」

 ユータの左に控えていた忍者のユーグが前方を見て叫んだ。


 ユータの追放発言に動揺していたせいか、私は探知に気付くのが遅れた。

 正確には分かってはいたけれど、頭が回っていなかったため告知が遅れてしまった。



 どうもこのダンジョン、ボスを倒して15分以上ボス部屋に居続けると、リポップする代わりに裏ボスが登場するらしい。

 その情報は大昔からある書物に残されていた。

 私はそれを冒険者ギルドの書庫で読んで知っていた。


 もちろんそれはパーティ共通の知識として共有している。


 

 ちなみにこの最下層の元々のボスはオークロードと呼ばれる魔物で、駆け出し冒険者であればデコピンで瞬殺される。

 あくまでろくに下調べもしない、装備も最低限、戦い方もろくに磨いていない本当の駆け出しであればだけれど。


 オークのような魔物にとって、女の子は好みにあえば苗床一直線ルート。

 いくつかの種族は魔物であっても人間相手と交配も出来る。

 理屈はわからないけれど、出来るのだから仕方ない。


 ゴブリンやオークはその典型的な例だった。

 自ら冒険者をやる者は命も性も捨てはしなくとも、顧みない覚悟は持っている。


 一攫千金はともかく、生計を立てる上で平民で職がなければ良き着く先は冒険者。

 冒険者とは端的に言えば「何でも屋」でもある。


 修行のために冒険者になる奇特な人も一定数はいるみたいだけど。


 私達のように国や教会から力をつけるために冒険者をするというのは、それは修行のためともいえる。


 3年、学園を卒業してから3年組んだパーティ。

 勇者であるユータと、聖女である私。

 他に共に学園に通った友人でもある大魔法使いのアリシア・ポートマン、斥候の役割を持つ忍者のユーグ・トンペティ。

 そして主に荷物持ちのユーリ・プロケル。

 

 この国では一般人であってもファースト・セカンドネームを持つ。

 ミドルネームを持つ者は位の高い者。

 ユータや私は貴族の子供でもあるためミドルネームを持つ。


 長いから公の場以外で使う事はあまりないけどね。

 冒険者をやる貴族って嫌味にしか受け取られないだろうしね。


 それはさておき、裏ボスがご登場なさりましたよと。

 人が感傷に浸ろうとしたり回想したりしている時に出てくるなんて間の悪い…… 

 悪・即・打!に限る。


 「焼豚ぁッ!」

 私は登場したオークキング(鑑定してすぐにわかった。)の顎にジャンピングパンチを一発かました。


 「ブモモモッモォォォォォォォ!」

 数メートル上にかち上げられたキングは顎を砕かれ、そのまま頭蓋を砕かれ、ステータスなんてものを感じさせる事もなく一発KOならぬ一撃死。

 その証拠に数度のバウンドを繰り返し倒れたオークキングは数秒経過しても起き上がる事はなかった。


 「だーかーらー、そういうとこだって言ってんのー!」

 後方からユータがなにやら叫んでいた。


 ドロップ品というか戦利品でもある、オークキングの角と剣はそそくさとユーグが拾って自分の鞄に詰めていた。

 いつもならユーリに持たせてるのに何でだろうと思った。


 「それと、パーティ追放もだけど。婚約も解消してね。実は俺、学園に通ってる時からアリシアと付き合ってるんだよね、お前にはうまく隠してたけど。」

 後ろに立ったユータが私に向かって宣告してきた。


 私はユータが何を言っているのか理解するのに時間を要した。

 今ユータは何て?

 婚約解消?学生の頃からアリシアと隠れて付き合ってた?


 「シア、お前とは許嫁ではあったけど、実はまだキスすらしてなかったよな。悪いけどアリシアとはイくとこまで済ませてるんだわ。」

 「俺、3年前にはとっくにしてたんだわ。」


 ユータは大魔導士であるアリシアに身体を密着させ、そのまま蕩ける表情のアリシアへと熱い口づけをして私に魅せつけた。

 左手を腰に添え、右手を彼女の左手を握り締めて。

 左手は少し下がり尻のあたりを弄っている。


 裏ボス撃破直後に、こんなところで何やってるんだというツッコミは出て来なかった。

 その光景を目にした瞬間、私の瞳からは涙が零れた。

 親が決めた許嫁ではあったけれど、それなりにユータの事を想っていたらしい。


 パーティ追放にしても、魅せ付けの口づけにしても……

 いずれにしてもダンジョン最下層でする事ではないでしょうよ。


 天職が聖女であるというのに万能ではなかった。

 ユータはお前の天職・聖女が万能過ぎてなんて言っていたけれど……

 私のこの回復魔法というか能力、言う程万能ではなかったよ。

 もし本当に万能だったら、この壊れた人間関係も修復してくれるはずだもの。


 私は膝から崩れ落ちたのを実感する。膝が痛い、心も痛い。

 あと、オークキングを殴った拳は痛くない。


 ダンジョンはボスを倒すと奥に扉が現れ、その先には地上への転移陣が現れる。

 本当に便利だと思うけど、帰りに魔物と戦わなくても良いと思えば仕組みなんてどうでも良い。

 ユータ達が転移陣を使うため、戦利品をほぼ全て持って扉に向かって行くのを、少し見上げた事で確認する。


 「あ、ユーリ。お前もこのパーティ抜けてね。」

 最後に主に荷物持ちを担っていた、天職・すっぴんのユーリ・プロケルも、戦力外通告をされ置いて行かれていた。


 orzの形に崩れ落ち、涙する私とユーリを放っておいてパーティメンバーはダンジョンを後にした。



――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 追放系や俺TUEEEE系とかNTR系とかから離れたものにしようとしたのに。

 

 拳で語る聖女はどれも満たしてる気がするのはなぜだろう。


 可愛い女の子ときゃっきゃうふふなスローライフを目指してますが、出だしでコケました。

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