第2話 回想

 元彼……ユータ・ベルンスト・キンジョウはパーティのリーダーであり、幼馴染であり親が決めた許嫁であり、婚約者でもあるわけで。

 幼馴染なのだから当然、小さい頃から良く一緒に遊んだりもしていた。

 親同士……正確には家同士の関係も良く、互いに異性が生まれた時には許嫁にどうだろうという約束が生まれる前に既になされていたそうだ。


 私の実家は……王都からは遠く、魔族とエロフ族の領と隣接するフラベル辺境伯領。

 魔族やエロフ族とは隣接してはいないけれど、フラベル辺境伯領と隣接するベルンスト伯爵領。


 同じ伯爵位ではあるけれど、辺境伯の方が実質的には一つ上である。侯爵とほぼ同等の扱いではあるはず。

 魔族との最前線であるが故に当然の位置付けだとは思う。

 


 フラベルとベルンストの領は同じ国であっても生産されるものはそれなりに異なる。


 フラベルが王国の領境故に戦闘に特化する必要があるため、どうしても工業系が盛んになる。

 食料の自給や商業は流通は出来てはいるが、自領だけでは心もとないのは否めない。


 寄子でもある子爵領や男爵領から賄えなくはないけど、立地の都合上生産される食物も偏りが出てしまう。

 それは土の問題や気候の問題があるため致し方ないのかも知れない。


 それ故に隣接する領の親同士が友人同士でもあった、ベルンスト領との交易は盛んだった。

 不足したものを補い合うのは物流と雇用の面でも潤沢していた。

 冒険者にしても護衛や素材確保で稼げるし、商人も商品と情報で潤う。

 

 互いの一族がお互いの領を行き来する事もあれば、王都にある別邸で会う事もある。

 

 物心ついた時には私とユータは一緒に遊ぶ事が多くあったし、両親から許嫁の話を聞かされた時はお互いに喜んでいたものだ。

 私の兄や姉達も幼心に喜んでくれたし、結婚先が既に決まっていて安泰だななんて言っていたものだった。

 家同士の繋がりも太くなるし、周辺の地盤もより固まるしお互いに理のある事だと大人達は話していた。

 当時は言葉の意味がわからなかったけれど、10歳にもなれば薄々と理解は出来ていた。


 7歳にもなると私達は学園に通い、15歳の時には卒業した。

 この世界では15歳の誕生日になると天職というものが啓示される。

 それは教会で神託という形で司祭により告げられる。


 胡散臭い話ではあるが、司祭は祈りによって神の言葉が聞こえるらしい。

 正確には司祭以上の天職を持った教会の者であるけれど。


 枢機卿や教皇はもちろん上位職にあたるため、もっと色々な事が出来ると聞いたことがあるけど今は知った事ではない。

 教皇が十二宮なんてものを最近建てたそうだけど、それが物語るように今の教皇は自分が一番な人のようだ。

 趣味だか娯楽だかでそのようなものを建設するなんて、傲慢にも程があるだろう。


 聖職者の風上にも置けん。そんな教皇なんて風下に置け。そして風上には肥溜めを置け。


 おっと、乙女が心の中とは言え思ってはいけない言葉だった。



 天職には唯一無二というものも存在する。

 伝説の勇者とか、伝説の聖女とか、伝説の魔王とか……


 私が啓示されたのはそんな唯一無二らしい「聖女」という天職。

 回復や防御、結界、浄化等に優れた能力を持つ。

 別に実家が教会に深い関りがあるわけでもないし、敬虔深い信徒というわけでもない。

 神に感謝を捧げる事はあっても、身も心も捧げたりなどという事はこれまで一度もない。


 本当になんでこんな天職になったのかわからなかった。

 わからなかったけれど、神託を聞いた司祭は即刻教皇に報告。

 私は拉致され……


 同じ唯一無二を引いた勇者のユータと共に教皇によりある指令を受ける。



 普通そういうものは王様とかに言われるものなんじゃ?と思ったけど、王には後程報告すると言っていた。

 わけのわからん十二宮なんておっ建てる教皇の言葉なんて信用に値はしないけど、後に本当に報告だけはしていた事がわかった。


 それは数日後、王城にも呼ばれたからだ。

 あの時はきらびやかで綺麗な建物だなと思ったけど、裏を返せば贅沢の限りだななんて考えてしまった。

 国民はこんな頑丈な建物に守られてはいない。

 

 こんなに多くの部屋のある家になんて住む事はおろか、尋ねた事も誘われた事もない。

 自分でも捻くれた性格してるなぁなんて思ってはいるけれど、正直こんな性格なのになんで私が聖女?って思ったものだよ。


 教皇と王からの指令・使命は、来るべき魔族との戦いに備えて冒険者としてランクを上げろというものだった。

 具体的には5年でBかAランクになれとの事だった。

 つまりは修行しろという事である。


 私達は学園で共に学んだ3人を加え5人パーティとして結成し、3年でCランクまで来ている。

 Fからスタートするランク付けで、3年でCランクなら早い方だとギルドのお姉さんに聞いた。

 例えるならスライムすら倒した事のない家政婦が3年で単身オーガを倒す域に達する事に等しいのだから、確かに凄いと思う。


 


 さて、回想はこれまでにして。


 勇者であり婚約者であったユータは自ら私を突き放した。

 婚約破棄をしたのだから、家同士の関係も悪化するだろうね。

 私の聖女の能力では人間関係までは回復しない、修復しない。

 つまりは、家同士の関係も回復しないだろうな。


 もっとも悪化するのは私が帰宅してからの話になるだろうけど。


 さ、追放されたわけだし、自領でスローライフでも送りましょうかね。

 教皇や王の指令?使命?知らないよ。

 リーダーによってクビになったし。


 一応現場の指揮権は勇者であるユータが握ってるんだから。

 教皇や王がそう任命したんだから。


 私とユーリはクビ。解雇。退職金はないけど……この後お父様がたんまり貰ってくれる事でしょう。

 まぁ実際たんまりはともかく、慰謝料くらいは貰ってくる事になるでしょう。


 「ねぇユーリ、一緒にスローライフを楽しまない?流石に食っちゃ寝と言うわけにはいかないけど。」

 私はorzの体勢のままユーリに語り掛けた。

 自分の股の間から後ろにいるユーリの姿を捉える事が出来た。

 ユーリもどうして良いかわからず、ユータの言葉にきょとんとしたまま固まっていたようだった。


 私の言葉にユーリは目を少し見開くけれど、理解が追い付いていないように感じた。

 確かにみなまでは言っていないから仕方ないか。


 「私と貴女のにはいろいろなものがあるでしょう?お店か何かを開いてのんびり面白おかしく過ごさない?」


 「あ、うん。私は別にそれで良いです。実家には帰り辛いですし。」

 私の続いた言葉によって意識を取り戻したのか、ユーリは返答した。

 ユーリの実家はユーリの天職・すっぴんが唯一無二だと知って最初は喜んだものの、実際何物にも勝るものがない事がわかると放逐した。

 正確には勇者パーティが荷物持ちとして雇うとなると、あっさりと売った。

 ユーリの実家は子供が多くいるため、子供一人をお金に替える事に躊躇いもないのだろう。

 

 ばかだなぁ、でこんなに可愛い子を捨てちゃうなんて。

 本当にバカだなぁ。家族も、本当の有益さも見抜けない勇者ユータも王も教皇も。


 可愛いは正義って知らないのかなぁ。

 もっともすっぴんの真の能力はそれだけじゃないんだけど。


 「相変わらず同級生に対しても敬語なのねー。だから周りが調子こくのよ。」

 私は遠慮しない。下手な気遣いはかえって相手を傷つける。

 何度も言うけど聖女は万能ではない。

 治せないものは結構あるのだ。

 

 「拳で解決する聖女に言われると説得力ありゃりゃりゃりゃあぁぁ……」

 ユーリが大きな声で痛そうな声をあげる。


 「言ったなー。」

 私は拳で解決のあたりで立ち上がると、ユーリの真後ろに素早く移動した。

 そのままユーリのこめかみにウメボシでぐりぐりと擦った。


 「いたたたたたた。いたいです。痛いですってばー。」

 

 「痛い、は、ハゲ……ハゲるぅ。」

 あれ?思っていたより苦悶の表情になっちゃったよ、というか苦しんでるユーリ可愛い。


 「あ、ごめん。ヒール。」

 どうやら手加減したつもりがかなりの怪力だったらしい。

 ハゲるは言い過ぎだと思うけど、本気で痛そうだったので回復魔法で癒してあげる。


 「それにしても立ち直り早いですね。」


 「早いというか、もうなるようにしかならないし。変な使命的なものから解放されるなら前向きになろうかなって思ってさ。」

 さっき流した涙は本気だと思うし、きっとユータを少なからず想っていたのは事実だと思う。

 それでも前向きに考えられるのは、ユーリも一緒に解放された事かな。


 婚約破棄されておいて不謹慎だけど、一人だったらまだ沈んでいたんじゃないかと思うから。


 「それはユーリと一緒だから……かな。」


 なぜかユーリは顔を赤らめてもじもじしていた。なんで?



 「じゃ、帰りますか……と、その前にキングの死体は持って帰ってお金に換えますかね、っとぽい。」

 空間が開いたので片手で掴んだオークキングを無造作にそこへ放り込んだ。

 ユーグは大きな頭の角を切り落としただけなので、肉体はそのまま残っている。


 オーク肉はどういうわけか焼肉として優れている。

 上位種である程その肉の質と旨味は上がる。

 キングともなれば王族かそれに類する者くらいしか目にする機会はない。

 一部冒険者は自分で食する人もいるけれど、Bランク以上でないと討伐は難しいため早々市場には出回らない。


 そもそもBランク相当の実力では身体に傷が多くついているだろうし、場合によっては毒などの攻撃もするので可食部分は少なくなる。

 私は拳一発だけなのでほぼ全てが素材として役に立つ。


 歯とういうか牙も武器になるし、睾丸は精力剤になる。

 それと……おち……は女の人の夜の一人遊具の元にもなるそうだ。

 私にはよくわからないけれど。


 と、まぁそんな高級素材を放置するのは勿体ないというわけでお持ち帰りする。


 


 「今度こそ本当に帰りますか、帰還リターン

 私はユーリの手を握って帰還の魔法名を口にした。



――――――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。


 スローライフあるんですかね。


 シアのぱぱんがユータのぱぱんとどうなるかもあるし。

 隣接する魔族やエロフの事もありますし。


 

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