第40話 殺人的に甘い蜂蜜

 新たな住人が増え、更なる軌道に乗ったシアのアトリエ。

 定休日を覗き連日大賑わいであった。


 新たな商品として加わったはピンク色のポーションと共に大盛況であった。

 

 個数が作れないため、一部の大金を所持している主に貴族達の間にではあるが。


 

 「魔物の数が増えたですって?北東あたりが特に?」

 レティシアはぱぱんの使いから報告を受けていた。

 ぱぱんの使いと言っても実家の執事の一人である。


 南南東側、南側から円を描くように西側方面はレティシアが開発を進めている。

 そちら側は特に何の報告も受けていない。

 開発に伴い倒した魔物の素材は、その場で活用出来るもの以外はレティシア作魔法袋(中身の劣化防止機能付き)を貸し出しており、収納されている。

 

 報告書の中には魔物が多く存在していたというものはこれまで記載されていない。

 

 強いて言えば、クイーンハニービーの巣を潰しちゃいましたという報告は上がっていたけれど。

 極上の蜂蜜が採取出来るから討伐しちゃったエロフとオークには「ぶわっかもん。」と少しだけ叱った記憶があるレティシア。


 オーク達はヤっちゃったその場で魔法袋に入れて持って帰ってきたので、報告を受けたレティシアがダメ元で回復したら……

 クイーンを筆頭に殆どが息を吹き返した、それも魔法袋の中でである。


 袋を開けたらぶわぁぁっと出てきて大変な思いをしそうだと、その場に居合わせた者達の心に過ぎったが杞憂に終わった。

 回復したのがレティシアだと瞬時に理解したのか、蜂達は一斉に傅いた。

 地面にずらっと並んで羽の動きを止めて、人間が王の前で跪くように。


 「じゃぁ庭の木々に巣を作って良いから定期的に蜂蜜をちょうだい。」

 クイーンハニービーのクイーン以下兵隊に至るまでが、右前足を人でいうところのこめかみ付近に持って行き、敬礼のようなポーズを取っていた。


 レティシアの所のオークやエロフがおかしいのだが、自然界にいる魔物としてはクイーンハニービーは単体ではBランクまたはCランク上位だが、クイーンを中心とした群れとなるとAランク中~上のランクとなる。

 それをヤっちゃいましたと言う街道建設部隊のオークやエロフがおかしいのだ。


 ヤっちゃいましたはレティシアもである。

 死に立てほやほやとはいえ、劣化防止機能の魔法袋内で回復&蘇生。

 脅したわけでもテイムしたわけでもないのに群れでAランクとなる魔物からの唐突な忠誠。

 そして、庭の木々で巣……


 庭の木と言えばエロフから貰ったゆぐゆぐの木が植えてある。

 そしてラウネが基本は管理している。

 さらには、レティシアが用意した水……


 つまりは聖水で成長しているユグドラシルの木。

 その木に巣を作る蜂。


 普通なはずがないのである。


 「そういえば、そろそろ蜂蜜貰っても良い頃かね?」


 工房の全員は一度、そのとんでも蜂蜜を味わっている。


 その時は……

 「……はっ!?」

 全員一度昇天しかけていた。

 あまりの甘さと美味しさに、天から迎えがきたのでは?という程であった。


 そして今回、ちょうどひと瓶程が集まったので、ぱぱんの所にお土産として送ろうと考えていた。


 実家から執事が来たので丁度いいと考えていた。


 「少し待ってなさい。今ぱぱん達に渡そうと思っていたお土産を用意させてるから。」


 執事はそれに従い待つことになる。

 

 

 「じゃぁ、これをぱぱん達に。量があまり取れないからこれだけですが、原液のまま舐めたりはしないよう注意してください。」

 メイが瓶の入った包みをラウネと一緒に持ってくる。


 「ここにいる全員、一度昇天しかける程の甘さと美味しさでしたので、ぶっ倒れると思います。」


 商品名は「併殺蜜」にしようか「一発昇天蜜」にしようか「甘い誘惑」にしようか悩んでいた。

 現状では売る程採取出来ないので、今後の課題の一つではある。


 「Mielミエル asesinamenteアセシナメンテ dulceドゥルセ」という商品名が、工房の皆で行った多数決で一番票を集めたのは内緒の話だ。

 殺人的に甘い蜂蜜……である。

 



 執事が帰った後、レティシアは地図を広げた。


 北東部、叔父さんの治める「マルデヴィエント」の街近くが、件の魔物の量が多いという話である。

 叔父もまた武人であり、父より劣るが強者である事はレティシアも知っている。


 それでも魔物については殲滅したとかの情報ではなく、魔物が増えたという情報が流れている事に気を奪われていた。


 それだけ多くの魔物が森から出てきているのか、それとも叔父や領兵で手を焼くほどの魔物が現れていたりするのか。


 さて、どうするか。

 レティシアは情勢を自身の目で確かめるかどうか悩んでいる。


 自身の目といっても、自分自身で直接出向く場合とアトリエの誰かを向かわせるのかという場合と。

 通常こういう事を考えるのは領主であるレオナルドが行うべき政務である。

 レティシアが頭を悩ませる事ではない。


 「何かの前触れじゃなければ良いけど。」

 考えすぎかもしれないけれど、ここ数年森を出てくる魔物の報告は殆どない。

 殆どというだけでゼロではないのだが。

 フラベルの系譜に連なる者は、その全てが常人離れしている。

 遺伝子の問題と、流派ナンポウムソウを習うからである。


 「明日にしようかと思いましたが……今から行きますか。」



 「ユーリ!」

 ユーリを呼んで一緒に実家へと向かおうとする。

 しかし呼んでも来ないどころか返事すらない。


 「あ、そうだった。新装備の試し切りでダンジョンに行ってるんだった。」

 ユーリは新装備の試戦のためラッテ達数名とダンジョンへと朝から向かっていた。

 帰りは夕方の予定である。


 「じゃぁ……」

 レティシアは庭へと歩みを進める。


 「ラウネ、ちょっとお出かけする?」


 クイーンハニービーと戯れているラウネは、「にぱー」と笑みを浮かべ「うん。」と返事をする。

 その勢いのまま突進をしてくるが、レティシアはその小さな身体を抱き留めると遠心力を利用しくるくると回って突進力をいなした。


 ラウネが来ている衣服もラフィー製作、レティシア加護付のとんでも幼女服である。


 二人は親子のように手を繋いで、アトリエから実家までの少しの距離を歩く。

 

 実家に戻ったレティシアが見たものは……


 食道でのたうち回っている、どうみても瀕死状態の家族全員の姿だった。



―――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 瀕死の状態はわかりますね。 

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