第55話 北と東からの来訪者。

 ユーリは右手に収まっているレティシアの左胸乳房を名残惜しそうににぎにぎと空を握る。

 レティシアから離れて悔しそうにしていた。


 レティシアは我に返ってメイの相手をしている。

 ベッドには一人分の人型が出来ていた。

 


 「お嬢様、お二人共応接室に通しております。」


 「わかりました。直ぐに向かうわ。」

 メイは簡単にレティシアの身だしなみを整える。



☆ ☆ ☆


 ノックをしてからメイは応接室の扉を開ける。

 そこには黒髪で短髪に長身で平たい顔だけどイケメソと呼んでも差し支えのない20代後半に見えるの男性。

 さらに長い茶髪を後ろで纏めており、同じく長身で彫の深い渋めの30代中頃に見える男性。 


 二人の所謂イケメソ男性二人が座ってレティシアを待っていた。

 服装は二人共冒険者が普段着るようなラフな格好であった。

 


 「お待たせして申し訳ありません。当アトリエの主人、レティシアです。ん?」

 お嬢様然としたカーテシーを決めて挨拶をする。

 実家で幼少から習わされた癖は抜け切れてはいないようだった。

 そしてレティシアは二人から何かを感じ取っていた。


 「お嬢様っぽい仕草とか似合わないな。」

 「まったくだ。お転婆姫はどこいった。」


 「わはははははははは。」×2 


 失礼な態度を取っているがメイは気にせず3人分の紅茶を用意するとレティシアの後ろに立った。


 「俺はエル・ラフレンツェ。」

 茶髪の男が自己紹介をする。立ち上がって一礼をした後に着席をした。


 「俺はリュウ・カゴシマだ。」

 同じく黒髪の男が自己紹介をする。立ち上がって一礼をした後に着席をするのまで同じであった。

 

 「ん?」

 レティシアはどこかで聞いた事のある名前だなと思っていた。

 記憶を漁ると、確かにその名前を持つ人物には聞き覚えがある。


 しかしそれらと目の前の人物とが結び付かない。

 レティシアは二人を観察すると、確かにどこかで見た事あるんだよなぁという感じは受けている。

 ただ、どうしても容姿が……と考えていた。


 「う~ん。これでもオシメも替えた事あるんだけどな。」

 「確かに、桶の風呂に入れた事もあったな。」

 恐らくは赤子時代の話をしている二人だけれど、当の二人以外には何の事かはわからないようだった。

 エルが話すと次いでリュウが続いて話しをし、何かを思い出させるかのように会話は進められていく。


 「まぁ俺なんて言い方してるのも随分と久しぶりだしな。」

 「の間違いじゃないのか?」

 にやにやしながらふたりの男はレティシアを見つめている。

 

 「それにしておここの姉ちゃん達は美人揃いで羨ましいな。」

 「そういや、勇者(笑)と婚約してなかったか?」

 この二人はレティシアが勇者ユータと婚約者である事を知っている。


 しかし破棄された事は知っていないようだ。

 余程世情に疎いか、情報は右から左へ受け流しているのか。

 ある程度の地位の者だとして、その手の情報は部下に任せっきりで気にもしていないのか。


 「庭にユグドラシル生えてるし、魔物っ子もいるし。」

 「可愛いものたらしは今も昔も変わらないな。」

 

 レティシアが言葉に詰まっていると、二人の男はアトリエの見えない部分も言い当ててくる。


 「何でわかるかって顔してるな。気を感じれば隠していても分かるさ。」

 「で、そろそろ俺達が誰か思い出した?」


 「いいえ。名前に聞き覚えはあるのですが……家族と学園絡み以外で生憎若い男性に心当たりが……」

 レティシアもお手上げだった。無論鑑定を掛ければ詳細が見れるはずなのだけれど。


 「まぁ、隠蔽してるからな。分からないだろ。」

 「まだ甘いな嬢ちゃん。期間も短かったから免許皆伝までは極めてなかったし丁度良いだろう。」


 「え?」

 その言葉に驚きを隠せなくなってくる。額から「まさかそんな」と汗が流れてきている。

 気付いたのか、メイはレティシアの額にそっとお高いハンカチを当てて汗を拭う。


 「そうだよ。随分と若返ってるけど、俺は北方不敵のエルだ。実年齢は61歳。」

 「同じく、東方不敗のリュウだ。実年齢は66歳。」


 「そんなんわかりますかっ!だって……二人共お爺さんだった……じゃない?」


 「まぁ今の俺は20代、東方は30代にしか見えないからな。」

 待ちゆくその辺の人に聞いても同じ答えが返って来るだろう。

 もしかすると、もう少し若く見る人もいるかもしれない。

 それほどまでに爺とは、似ても似つかない容姿をしていた。


 レティシアの記憶にあった二人の名前と、今の二人が結びつかなくても誰も責められるはずもない。


 「何を言う。西方に至っては40代にしか見えないが、あやつ最低200歳はいってるぞ。」

 「西方は本当に人外染みてるからな。俺達がまともに戦っても勝てない。」

 人外染みているのは強さだけでなく、年齢もであった。

 フラベルの屋敷やアトリエで雇われていた時に出した殺気等は、ほんの序の口でしかなかったという事。

  


 「それで、私は二人が何者かに倒されて行方不明と聞きましたが?」

 レティシアは率直な疑問を尋ねた。西方の事は今は置いておくことにした。

 エルは顎に手を当ててどのように話そうか考える。


 「そりゃぁ、若返った俺達を見ても誰も気付かないだろ。鑑定でも情報隠蔽してるから偽の情報しか読まれないしな。」

 エルは考えた結果、ありのまま答えていた。

 

 「それでな、俺達が揃ってここに来た理由だけど。」

 リュウが本題に入ろうと、話題を変えた。その瞬間空気が変わったように重くなる。


 「俺達が来た理由は二つ。」

 「再度の修行と……」


 「俺達を倒した者について。」×2

 


 「え?北と東の師匠が若返った事じゃなくてですか?」

 レティシアは二重の意味で驚いて、立ち上がってツッコミを入れていた。

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