第43話 18禁じゃなくなったすぷらっしゅ
森の中を斥候として、アルテの作った人形が先行していく。
「くじ引きではありましたけど、実際満遍なくバランスの取れた良いパーティとなりましたね。」
ユーリは周囲を見て話す。
冒険者ランクはともかくとして……構成としては前中後兼用出来る面子が多い。
前衛のユーリ。メイン武器は槍。ユータ達はろくにユーリに対して全面に押し出す事はしていなかったが、学園時代に得意だったのは槍だった。
自由気ままに戦う姿を見せてはいないけれど、回避タンクとしての役割を軸にしてからの一突きを得意とする。
戦闘スタイルとしては、ヘイトを集めるため、避けて薙いで逸らせてと攻撃をいなし、隙をついての一突き。
対人戦や二足歩行の人型魔物には特に有効であり、ウルフ等のような小型~中型四足歩行タイプにもほぼ同様に有効である。
所謂回避槍と呼ばれるスタイルである。
流石にドラゴンのような大型魔物に対してその役割具合は不明であるけれど。
そして殴り聖女と言っても過言ではない聖女レティシア。
立ちふさがる敵はその拳で砕く。もはや聖女とはなんぞや?と言われてもおかしくはない。
料理人のユキ・チャンも戦闘用の包丁を手に魔物を料理するスタイルであった。
狩ったその場で解体する事も可能であるため、一パーティに一人いると便利な存在でもある。
他にも前衛にはオークキングのガレフ。それを後ろから
ガレフは棍棒や斧が得意で、ミーシャの得意武器は勿論期待通りの鞭。
純粋な後衛である星屑の射手を天職に持つ弓使いのノルン姫。
前中後どこでも行けるSランクユーフォリア。
人形遣いのアルテもどこでもいけるスタイルだ。
基本的には人形を戦わせ、自らも人形術を自身に使い攻守に渡って動く事が出来る。
レティシアが殴り聖女として前に出てしまうので、唯一回復やバフに専念する者がいないくらいか。
戦闘時でなければ、料理人ユキ・チャンの料理が実は回復やバフがつくので、見方によってはレティシア以外の回復バフ要員でもある。
レティシアが半端ないものを持っているから掠れて見えてしまうだけである。
シンドラー町から歩く事3時間程。
警戒しながら進んだとはいえ、通常の行軍よりは断然早い。
森の奥に聳える山猫団がいると思われる山の麓に辿り着いた。
「さて、どこにいるのか……ってわかり易いわぁ。」
レティシアは直ぐにその違和感を察知する。
「認識阻害って、そこに何かありますよって言ってるようなものだよね。」
通常の冒険者や兵士にはその差異には気付かない。
気付くのは色々とおかしいレティシアだからである。
「いやそれ、シアがおかしいだけですからね。」
ユーリのツッコミが正常な意見である。
「……」
レティシアはその違和感の場所についてはまだ何も語ってはいないけれど、Sランクであるユーフォリアはある一点を見つめていた。
奇しくも、その後その違和感の場所へ目線を映したレティシアと同じ方向だった。
「とりあえず、中腹まで行きましょう。」
レティシアの号令に以下続いて行く。
開拓された山道ではないため、足元はおぼつかない。
本来であれば……
しかしレティシアのバフにより、全員の足腰は強化され、かつ地面の上には即席の舗装のようなものが敷かれていた。
未来の世界のたぬき型ロボットの足裏は、実はわずかに地面から浮いている設定であるが、同じ感覚である。
「敵の索敵の魔法や魔道具があったとして、それらを破る事無く侵入出来るように貫通のバフをかけといたわ。」
いつの間に?という目をレティシアに向けるが、これがレティシアクオリティかと即座に諦める。
「レーダーに触れても問題ないと思って良いわ。」
罠回避の能力・技術向上やそれらの勉強にはならない、元も子もないバフである。
「何でもアリね。」
ユーフォリアでさえ呆れている。
正直、斥候であるアルテの人形の役目とは一体……なんなんだろうなとツッコミを入れたら負けなのである。
とはいえ、ここに来るまでの魔物は殆どアルテの人形が斥候のついでに仕留めていた。
以前のアルテではそこまでの事は出来なかったけれど、レティシアの加護付人形衣装を纏った人形は……
チャ〇キー人形よりも恐ろしいまでの殺戮人形とも言えた。
ここに来るまでに斥候のアルテ人形が倒してきた魔物の殆どは、ユキ・チャンの魔法袋に納められている。
食べられるモノは後に食料とするためである。
「あの先に洞窟の入り口があるんだけど、認識阻害の影響で本来は見えないはずなんだけれど……」
「シアの看過が凄すぎて普通に入り口が見えてますね。」
「流石お姉さま。」
「流石我が主。」
エロ夫婦が続く。
「一応入る前に確認しておくけれど……」
「サーチ安堵デストローイ!」
シアの背中におぶられているラウネが元気よく右手を突き出して叫んだ。
「字が違うような……というかそんな事はしません。仮にも救出するべき対象がいるかもしれないでしょう。」
「いや、シアの作戦もあまりかわらなかったような気がするけど?」
ユーフォリアのツッコミではあるが、レティシアの作戦は見かけた敵は捕まえて情報収集したら捕縛して衛兵に突き出すかキルするかの二択だった。
「実際情報のために生かしておくのは数人で充分だけどね。人を殺すのが躊躇われるようなら私がやるよ。」
そのあたりは流石のSランク冒険者の気概であろうか。ユーフォリアは率先して汚れ役を買って出ると言う。
「私は気にしないよ。どうせギルドはランクアップさせたがってるでしょうし盗賊討伐はある意味では必要通過点でしょう。」
「シアだけにその役目は押し付けませんよ。ここにいる全員が同じ気持ちかと。」
「あ、でもノルンには……」
「私も気にしませんよ。自分の立場を鑑みれば、こういう現実を見て体験しておかないと、必要な場面での決断に影響が出ますから。」
だからこそ冒険者になったというのも一つの理由であった。
王にはならない立場だからこそ、その近い人間として必要な役を遂行する時が来ると。
蝶よ花よと過ごすのは幼少期だけで良いとノルンは考えていた。
「あ、見張りらしき人物が一人出てきましたね。」
汚らしい恰好の男が一人、穴倉から出てくると警戒しながらもレティシア達の方へと向かってくる。
レティシア達に気付いて出てきたのか、定期巡回なのかは不明ではあるが、このままだと鉢合わせしてしまうため向かい撃つ事に決める。
ラウネがレティシアの背から降りて穴から出てきた汚い男の方へ向くと両手を前に出して広げた。
「フラワーネクター・スプラッシュ!あくとツー!!」
以前はとても見せられないところから発射されていた蜜は、先程広げた両手から放たれていた。
レティシアの隠蔽によりこちらの姿は相手にはまだ認識されていない。
敵からすれば何もない叢から液体が飛んできたようにしか見えていないだろう。
そのためか、敵は全てのスプラッシュをその身に浴びる事となる。
「あ、溶けた。」
「溶けましたね。」
「でろんでろんに溶けた。」
「モンスターハンター?魔物ハンター?あ、あれは皮だけになっちゃうんだっけ。」
「あれじゃぁ料理も調理も出来ないね。」
「出会った時から劇的にパワーアップしてない?」
珍しくレティシアからのツッコミが入る。
ラウネはピースのポーズを取ってどや顔をしていた。
「凄い娘だな。流石シアママの娘だ。娘もハンパない。」
半ば神格化しているせいか、ラウネの蜜攻撃もえげつなさは常識では測れなくなっていた。
「情報収集どこいった?」
どうやら出だしは上々とは言い難かった。
脳筋の元には脳筋が集まり易いのか、語るモノが拳ではないだけで実力ごり押しスタイルは継承されているようだった。
若しくは、感化されていってしまうのか……
「次の奴は生け捕りな。セオリーは守ろうな。」
その頃、洞窟の奥では入り口でのギャグめいた一団の出来事とは裏腹に、極上の地獄の宴が行われていた。
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