第1節「魔導検査と決意」4
司祭に案内されて、全員で礼拝堂へと向かった。
「それでは受付の際にお渡しした番号順に検査を行っていきます。こちらのボードにその時検査している人の番号を書いておきますのでそれを確認しておいてください。次の番号の方をお呼びしたときにどこにもいない、といったことがないようにお願いします。
それ以外の説明は先ほど致しましたので、さっそく検査のほうに入りましょう。それでは1番から、祭壇の方へお越しください。」
そうして魔導検査が始まった。流れとしては、祭壇へ行ってそこにある水晶に手をかざす。次にその水晶を機械で読み取る。そして一言二言会話をしてから祭壇を降りるといった形のようだ。結構サクサク進んでいる。
そうして次々と検査を行ううちに自分たちの番号が近づいてきた。
「次の番号の方ー」
「じゃ、呼ばれたからお先に行ってくるね。」
そう言って彼女は祭壇へと歩みを進めた。次は自分の番なので、自分も祭壇の近くへ行っておく。フィスィの様子も見たいからね。
「お名前頂戴いたします。」
「フィスィと言います!」
「フィスィ様ですね。はい、それでは水晶に手をかざしてください。」
「はい!」
司祭に言われた後に彼女が手をかざすと、水晶は強く緑に輝いた。とても綺麗だ。
「おお!ここまで一つの色に光るのは珍しいですね。それでは数値は、と。…はい、でました。」
*******
赤魔法:0
青魔法:2
緑魔法:113
黄魔法:1
白魔法:4
黒魔法:0
*******
「113ですか!一つの魔法が100を超えると
「ふふ、ありがとうございます。」
彼女は照れくさそうにそう言った。この数値がどのくらい珍しいのか具体的にはわからない。しかし、
「ちなみになのですが、就きたい職業などはありますか?いえ、別に答えたくなければそれでもいいです。ですが、
「大丈夫ですよ。…私は冒険者になろうと思っています。危険も伴うでしょうが、人助けをしたり平和を守るためにモンスターと戦ったりする冒険者に小さい頃から憧れていたんです。」
「冒険者ですか、いいですね。
「はい!ありがとうございます。」
「それではカード作成のための処理をいたしますので祭壇から降りてお待ちください。」
「はい」
そして祭壇から降りた彼女は俺のもとへと駆け寄ってきた。
「おつかれー」
「ただいま!ちゃんと見てた?聞いてた?」
「はいはい、見てたし聞いてたよ。赤と黒は0って凄いな、びっくりした。実に面白い。」
「いやいや、素直に褒めなさいよ。もっとすごいところあったでしょ。」
「…緑魔法が113だろ!?正直驚きすぎて言葉も出ないし意味わからんし怖くて触れたくないし。」
「怖くはないでしょ。」
「まあまあ冗談はこれくらいにして。おめでとう、よかったね。それだけの数値なら冒険者にぴったりじゃん。」
「うん!えへへ、ありがと。」
「次の番号の方ー」
そうこうしているうちに自分の番がやってきた。
「次は俺だ。いってくる。」
「いってらっしゃーい。」
祭壇へと上がる。さすがにちょっとは緊張してきたな。
「お名前頂戴いたします。」
「サロスです。」
「サロス様ですね。はい、それでは水晶に手をかざしてください。」
「わかりました。」
すると、水晶がカラフルに輝いた。六色どの色も見る限り均等に輝いていた。
「これまた珍しい光り方ですね。
*******
赤魔法:20
青魔法:20
緑魔法:20
黄魔法:20
白魔法:20
黒魔法:20
*******
検査をする前からある程度予想できていた。すべての色の魔法をほぼ等しく扱うことができる俺はやはり
「おお!全ての数値が20の
おっと失礼しました。せっかくなので、就きたい職業などはあるか聞いてもいいでしょうか。答えたくなければそれで構いません。しかし、興味というものは止められないですからね、ははは。」
自分もここまで均等だとは思っていなかったので少し驚いている。だが今はそれよりも…就きたい職業、か。
実は就きたい職業は存在する。しかし、それは自分に向いてない。でも、俺は…
「諦めたくない」
小さく、誰にも聞こえない声でそう呟いた。人には向き不向きがある。そんなことはわかっている。でも、目指したい道が自分に向いていないとわかっていても、諦めたくない。そう思ってここまで来た。『特に決まっていません』でこの場は乗り切れるだろう。それで何も問題ない。でも、そのまま逃げ続けるのか?それじゃ駄目だ。ここで言わないでどうする。勇気を出せよ俺、頑張れよサロス。
それでも足が震える。もうそこまで出かかっている言葉が、あともう少しが出ない。ふと目をそらす。その先には、最愛の彼女フィスィがいた。少し不安そうな目でこちらを見ている。そうだ、ここに来るまでに決めていたことだろう?
さあ、覚悟は決まった。俺は、フィスィを支えたい。一番つらかった時に、ずっとそばにいてくれた彼女を。優しい声が、明るい笑顔が、そしていつでも希望にあふれたその目が、その全部が大好きだから。ずっと、ずっとそばにいるんだ。
「俺は冒険者になろうと思います。」
サロスは前を向いてそう言った。とても力強く、透き通った目で、質問した司祭を見て言った。いや、彼に言ったのではなく”自分”に向けて宣言したのかもしれない。その目はフィスィを思わせるような、それはそれはとても澄んだものだった。
「…冒険者よりも向いている職業があると思うのですが、それでもですか?」
司祭はついそう聞いた。
しかし、言ってすぐにしまったと思った。夢を諦めないでといったのは自分ではないか。そして彼の返答など聞かなくてもわかっている。彼は止まらない。司祭はこれでも多くの若者を送り出してきた。その経験からわかる。いや、彼を見れば誰でもわかるだろう。それほどまでに覚悟というものを感じる目だった。
「それでも、です。それでも、頑張りたいんです。」
こいつは馬鹿だ。どこまで努力しても向いていないものは向いていない。自分が全てをかけた努力も他人に簡単に越えられてしまうだろう。自分の無力さを知り、世界の厳しさを知り、絶望してしまうかもしれない。
それでも、こういう馬鹿を見るのが大好きだ。そして、彼はきっと一人じゃない。先ほど検査をした子、名はフィスィと言ったか。おそらくではあるが彼が冒険者を志す理由は彼女だ。ここに来た時の仲の良さそうな様子と、彼女が冒険者になりたいと言ったことから予想がつく。仮にそれが正しいなら、彼女は彼の支えとなれるはずだ。彼女がそれを望んでいたかは知らないが、彼は彼女のために人生を賭けようとしている。だからそれくらいはしてやってほしい。
「そうか、なら頑張れよ。」
薄っぺらな言葉だ。ありきたりな言葉だ。でも本当に、心の底からそう思った。頑張れ、若人よ。
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