第1節「魔導検査と決意」2

 さあさあそういうわけでやってまいりました。こちらフィスィの実家です。彼女の父と母はどちらもとても優しいので好きです。(告白)


「父さん母さん!帰ってきたよー!」


「ご無沙汰しております、サロスです。」


「はいはい、フィスィおかえり。サロスくんもいらっしゃい。さっ、母さんも中で待ってるから入って入って。」


 それじゃあと家に入る。


「母さーん、ただいま!」


「お邪魔しまーす。」


「あら、お二人さんおかえりなさい。とりあえず…フィスィ、着替えましょうか。おしゃべりするにしてもそれからでいいでしょう?」


「はーい!じゃサロス、おとなしく待ってるんだよ。」


「別に暴れたりとかしないって。いってらっしゃい。」


 そんな感じでフィスィとその母が行ってしまった。つまり、今この場には俺と彼女の父だけが存在することとなる。…きまずっ。いやいい人なのは知ってるんだけどね?でも何が嬉しくて彼女の父親と二人きりにならなきゃいけないのか。ドキドキしてきた。もしかしてこれが恋というものか!(錯乱)


「元気にしていたか?」


「はい。前来た時以降も特に病気とかはしていないですし。もちろんフィスィも元気ですよ。」


「それは見たらわかる。」


 見たらわかるんだ、さすが父親だな。…あれだけニコニコしながら家に帰ってきたら誰でもわかるかもしれない。


「はい、私もそんな彼女からいつも元気をもらっています。」


「そうか、それはよかった。…君、少し大人になったか?」


「はい?まあ、成人しましたから大人と言ってもおかしくないですが…」


「いや、そういう意味ではなくて。そうだな、目つきが変わっている。何か悩みでもなくなったか?」


「…そうですね、悩みというか、ちょっと吹っ切れた感じはあるかもしれません。」


「そうか、内容は…聞かないほうがよさそうか。」


「…そうですね、そのほうがありがたいです。」


「ははは、気にするな。」


 申し訳ないが、今フィスィの父親に話すわけにはいかない。話す順番というものがあるから。それを察してか深く聞かないでくれるとか、やっぱり優しい。惚れた。




「はいはーい、着替えさせ終わりましたよー」


 そうこうしているうちにフィスィのお着替えタイムが終わったようだ。


「ふふーん、どうだ、かっこいいでしょ!」


 ドヤ顔をしながらフィスィが言う。なんだその聞き方。ものすごく褒めたくない。でもその服は彼女の父母が用意したらしいし、ここで褒めないのは失礼にあたるから褒めよう。ベ、別に素直に褒めるのが恥ずかしいとかそんなんじゃないんだからっ!


「うん、すごく似合ってる。」


「それだけですかぁー?」


 煽んな煽んな。大体人の親の前でそれ以上言えるかっての。何を求めてんだか。ほらほらあんたの母ちゃんもにやにやしちゃってるしこの状況でさらに褒められる男はきっとハーレム築いてる鈍感主人公だけだよ。つまりそんな男は存在しない。


「ほらほら、もっと褒めてもいいんだよー?」


 こいつ、止まる気がない…!ああそうかよやってやろうじゃねえか。俺の語彙力という語彙力をフル動員して照れさせてやる。俺は決めたぞ。褒めに褒めまくって何とも言えない空気にしてやる。


「すごく似合ってる。き、綺麗だよ?」


「あらあら、恥ずかしがっちゃってーまったくサロスったらー。」


 はい、無理でした。どうぞ罵ってください私が敗北者です。せめて何も言わなければいいものを、微妙に褒めるという一番やっちゃいけないことをした。ほれみろ母の方はまだしも父の方まで生温かい目でこちらを見ている。逃げ出したい。…そうか朝の全力ダッシュはこのための準備運動だったんだ。よし、こんなところにいてられるか俺は先に帰らせてもらう!(死亡フラグ)


「まあまあ、サロス君も困っているようだし、とりあえず全員座らないか?」


 彼女の父がそういうので席に着く。残念ながら逃げられなかったようだ。


「それにしても、二人とも本当に大きくなりましたね。」


「そうだな。二人はこのくらい小さかったのに、今ではこれだけ成長しているものな。」


 確かに俺とフィスィは幼馴染だしあなた方は俺の小さい時から知っているだろう。でもさ?このくらいとか言ってるけどそんな手のひらサイズの大きさだったことは一度もないよ?


「そこまで小さくはなかったと思いますけどね。でも成長したというのは正直自分でも感じています。身体的に大きくなったのはもちろんですが、精神的にも。」


「本当に成長しましたね。とても落ち着いていらっしゃる。それに比べてフィスィは…」


「母さん?何が言いたいの?」


「いえ、別に?」


「言っておくけどサロスだって落ち着いてないからね?今は猫かぶってるだけよ。」


「いつも落ち着いている必要はないんですよ。必要な時にそうできれば。」


「そうだぞ。必要な時にできれば、な。」


「わ、私だってできますけど?自分の実家でわざわざ猫かぶる必要はないでしょ?」


「まあまあ落ち着いて、私が成長できたのはフィスィのおかげですから。彼女が成長してるかどうかは…一度置いておきましょう。」


「置いとかないで!あんたも敵なら私の味方がいないじゃない!」


 すまないなフィスィよ。俺はまださっきの辱めを忘れていないのだ。せいぜい自分の過ちを深く後悔するがよい。


 自分が成長できたのはフィスィのおかげというのはちゃんと本心からの言葉だ。彼女がいなければ俺はきっと……。だからちゃんと心の中で感謝しておくから許して☆




 それからも、少しの間雑談を続けた。内容はほとんど俺たちの近況報告だったが、微笑みながら聞いてくれていた。本当にいい家庭だ。あったけぇよ。


「そろそろ出発される時間ですね。」


「もうそんな時間になっていたか。」


「そうですね。名残惜しいですが教会へ向かいたいと思います。」


 そう言って席を立つ。さて、これから魔導検査へ向かう。少し緊張してきた。別に数値がどうかに対してはもう気にしていないが。


 そうして外に出た俺たちを、二人は見送ってくれている。


「フィスィ、サロス君、行ってらっしゃい。」

「二人とも、行ってらっしゃい。」


「父さん母さん、行ってきます!」

「お見送りありがとうございます。行ってきます。」


「気をつけてな!」


 さあ、本日二度目の出発、今度はお見送り付き。温かさに触れた俺は、今日はいい日になるという確信をもって、フィスィと二人で教会へと歩みを進めた。

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