第1節「魔導検査と決意」3

「やってきました!教会ー!」


「やっとたどり着いたな!ここまで険しい道のりだった…たくさんの血と汗が流れた冒険がやっと終わりを告げたのだ!」


「サロス何言ってるの?はしゃぎすぎもほどほどにしておいたほうがいいよ?」


「急に素に戻るのやめて?」


「ちょっとよくわかんないかな。」


「おいおい人がのってやったのにそれを無下にしやがって!」


「やれやれ、いい年こいてぜーんぜん成長してないんだから。よちよち」


「くっ舐めやがって。お、覚えてろよぉぉぉー」


「早めに帰ってきてねー!」


 フィスィさんがはしゃいでたからのったんですよ?急に自分はまともでしたみたいな面しやがって、酷くない?酷いよね?


 30秒もしないうちに戻ってきた俺は今度こそ中へと入る。


「ようこそ、魔導検査を受ける方ですね。まずはこちらで受付します。」


「はーい」

「わかりました」


 シスターさんに言われたので受付へと向かう。


「お名前を頂戴します。」


「私はサロスで、こっちはフィスィです。」

「フィスィです!」


「サロス様とフィスィ様ですね。確かに承りました。こちら、お二人それぞれの番号になります。検査ではその番号順にお呼びすることになりますのでこちらの番号が書かれた紙をしっかりお持ちください。それではこちらの道をまっすぐ進んでいただいて突き当りを右に、そうすると別のシスターが見えるかと思いますのでその人の案内に従って部屋へとお入りください。」


「「わかりました。」」


「それではいってらっしゃいませ。」


 渡された番号は連続したものだった。フィスィのほうが1だけ小さいので、フィスィの次に自分が検査することになるのだろう。そして案内された部屋へと向かう。ここは礼拝堂の横にある多目的室のようなものらしい。すでにそこそこ人が集まっている。ここへいるということは全員同い年なはず。確かに同じ学校に通っていた気がする人もいる可能性が無きにしもあらず。




 雑談しながら開始時刻まで待っている。自分たちが来た時の二倍くらいの人数になったくらいで人が来なくなった。おおよそ百人くらいだろうか。たぶん来るべき人は全員来たのだろう。


 おっと、司祭服に身を包んだ人が前にやってきた。そろそろ始まるのだろう。話し声で騒がしかった部屋が静まりかえった後、その人が話し始めた。



「はいみなさんおはようございます。本日はお待ちかねの魔導検査の日です。これから検査の前に、魔法と魔導適正についての説明を始めたいと思います。


…正直みんな知ってると思いますが、一応検査の前に話さなきゃいけない決まりがあるんですよ。話さなかったらおじさんが上のひとから怒られちゃうので、どうか黙って聞いといてください。もしかしたら、知らなかったことを聞ける可能性がわずかながら存在するかもしれなかったりしますからね。そういうことです、いいでしょうか。


ごほん、それではまず魔法についての話から始めましょうか。この世には赤魔法、青魔法、緑魔法、黄魔法、白魔法、黒魔法の六種類があります。


赤魔法は、火や加熱。

青魔法は、水や氷や冷却。

緑魔法は、風や植物や土。

黄魔法は、電気や金属。

白魔法は、バフや回復や光。

黒魔法は、デバフや闇。


こんな感じで扱えるもの、できることが異なります。それぞれの細かい内容は…大体知ってますよね?省略しちゃいましょう。


六種類の魔法には一応相性というものもあります。火は水で消しやすいですし、植物は火で燃えます。加熱と冷却、光と闇、バフとデバフなどは打ち消しあうので、同時に発動すると強いほうの魔法だけが通常よりも弱く発動しているように見えるでしょう。一方で火と風を合わせると大規模な炎を作り出すこともできますし、風と水をうまく合わせると霧なんてものを作ることもできます。


というようになっていますが、実際のところ相性を気にしている人はあまりいません。それよりもどのくらい魔法を強く使えるかのほうが重要です。火は水で消しやすいといっても、業火の前には水なんてすぐに蒸発してしまいますし、火に負けないよう植物を強化することだってできます。要するに力は正義。だから、究極魔導士スペシャリストは冒険者に向いていると言われているんですね。


そう!この、どの魔法をどのくらい強く使えるかということを魔導適正と言います。そして、それを簡単に調べられるのが本日行う魔導検査というわけです。」


 司祭さんはフリップを使い、身振り手振りを交えながら説明している。大体は知っていることだったけど、結構飽きない。正直途中で飽きたら何しようとか考えてたのに、褒めて遣わす。ふぉっふぉっふぉ。…この日のために練習とかしたのだろうか、それとも毎年のことで慣れてるのだろうか。そんなしょうもないことを考えつつ、説明は続く。


「この後全員で礼拝堂へ向かいます。そして、一人ずつ祭壇へと上がってもらいます。そこには魔導検査専用の水晶が置いてありますので、そこに手をかざします。すると、魔導適正によって光り方が変わるというわけです。


それで大体わかるんですが、光り方を読み取ってわかりやすいように数値に直す機械があります。それで出た数値があなたの魔導適正で、数値の合計は120になっています。その後は祭壇から降りてその数値を証明するカード、すなわちマジックナンバーカード発行までお待ちください。そしてカードを受け取った人から帰宅してもらって結構です。とりあえず、向こうで出す指示に順番に従っていってもらえれば問題ありませんので。」


 そんな感じでわかるんだ。数値が出るという漠然としたことしか知らなかったけど、その水晶と機械すごいな。


「最後、移動する前に伝えておきましょう。ここはよく聞いておいてください。例年勘違いしている人がいるようなので二点、認識を正しておきたいと思います。


まず一つ目、これはどうでもいいといえばそうなんですが、髪色の話です。成長につれて髪色が変わった人も多いと思いますが、これは魔導適正と関わりはあります。高い適性を持った魔法の色が髪色に表れやすいですし、適正ある魔法の色が混ざったような色が表れることもあります。


ですが、あくまで可能性が高い、だけです。全く使えない色が表れることは私の知る限りではありませんが…そうですね、例えばそこの緑髪の綺麗なお嬢さん。私が今見てわかることは彼女に緑魔法の数値が1はあるだろう、ということだけです。つまりほぼ何もわかりません。髪色がこうだから使える魔法はこうだろうというのは予想に過ぎないと注意してください。」


 おっとフィスィさんが当てられてちょっと照れくさそうにしている。そうだよな!フィスィの緑髪は綺麗だよなぁ!?


「二つ目に職業について。この魔法が使えないからこの職業につけない、ということは基本的にありません。例えば消防士を例に挙げてみましょう。


火が広がらないように火を操る赤魔法が必要です。

火を消すための水を用意する青魔法も必要です。

燃えているところに人が入れるように空気を用意する緑魔法も必要です。

家がつぶれないように緑魔法と黄魔法で家を強化する必要もあります。

負傷者がいた場合、白魔法で回復できるといいですよね。白は明かりも用意できますし。

逆に火で眩しすぎるときは黒魔法で調整できます。


このように、どの職業でもすべての魔法が必要とされる時があります。ついた職業で、自分ができることをどのように生かすのか、のほうが重要です。つまり私が言いたいのは夢を諦めないで、ということです。」


 熱い人だな。始めの緩い感じはどこへやら、熱意を感じる。急に真面目な話に変わったので少し驚いたがそれだけの思いがあったのだろう。夢を諦めないで、か。言葉で言うのは簡単でも、実際はそんなに簡単じゃなかったんだけど。それでも、応援された気がして心が軽くなった。


「さて、それでは話も終わったことですし、さっそく礼拝堂へ行きましょう。みなさんもそわそわしているようですし。」

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