第6節「報酬とこれから」2

「この後って予定はあるのか?」


「特にないわよ?」


 アダマスの問いにフィスィが答える。俺は訓練場にでも籠ろうと思っていたが、何か用事があるなら変えてもいい。


「ちょっとどこかで集まって話さないか?今後のことについて色々決めたい。」


「それは俺も思ってた。そういうことならいいよ。」


「なるほどねー、それならうちの宿来る?」


「いいんですか?行ってみたいです!」


 別に自分たちの宿に面白いところなんてないと思うんだけど。ただ、例え聞かれて困ることではないとしても大事な話を公共の場でするってのもなんだしな。


「そういうことなら案内するよ。」






_______________________






「「お邪魔しまーす。」」


「邪魔すんなら帰ってー。」


「「はいよー。」…じゃないんですよフィスィちゃん!ってアダマス!?あなた本気で帰ろうとしてます!?」


 こいつら何やってんだ…。


「二人ともノリいいね。さあわが家へようこそ。借りてるだけだけど。」


「綺麗でいいですね。私の泊っているところより広くて羨ましいです。二人同部屋ならこれくらいないと駄目なのかもしれませんけどね。」


「ベッドはツインなのか。へー。ふーん。」


 アダマスの含みのある言い方には触れないでおこう。


「そのへんとか適当に座ってもらっていいよ。で、話し合いをしたいんだっけ。」


「そうそう、前置きなしで始めるか。このパーティーの戦い方とかについて色々決めといたほうがいいと思ったんだよ。」


「戦い方?」


 フィスィが聞く。


「うん。前の戦いでなんやかんやでピンチに陥っただろ?Dランクくらいならその場その場でやっていってもいいかって思ってたけど、冒険者という仕事柄何が起こるかわからない。流石に前みたいなことは早々起こらないとは思うけど、役割分担とかその辺を明確にしておきたいんだよな。」


「うんうん。それは俺も考えてた。」


「だからまずパーティーのリーダーを決めようと思う。それで、俺はリーダーにサロスを推薦したい。」


「なるほど、良いんじゃないですか?」


「私も良いわよ。」


「ええ…?まあみんなが良いっていうならいいけど、なんで俺?」


 やれと言われたらやるけど、自分では自分がリーダー向きの性格とは思えないんだよな。


「なんでって当然じゃないですか。作戦を考えてるのは基本サロスくんなんですから。ラットレギオンマスターとの戦いのときとかも、私たちへの指示とか良かったですよ。」


「あの戦いはサロスのおかげで勝てたといってもいいと思うわよ。」


「というか今の状態でもリーダーみたいな役割をサロスが果たしているしな。それを明確にしておこうってだけだ。」


「そんなに俺にリーダーになってほしいの?えへへ、照れるなぁ。」


 そういって茶化す。だが内心は動揺している。みんな思ったより俺のことを信頼してくれている。それが嬉しくないと言えば嘘になるが、自分は本当にそれだけの人間なのだろうか。不安になる。


「じゃあリーダーはサロスに決定ね!みんなーはくしゅー!」


 パチパチパチ。やはり自分が人の上に立つのに向いている性格はしていないと思う。それでも、決まったならば全力でやり遂げよう。今まではフィスィのことしか考えてなかったけど、少しはパーティー全体に目を向けよう。


「それともう一つ、戦いの中での役割分担の話をしたい。ある程度決めておいた方が、また強い敵と戦うことになったときにやりやすいと思うんだよな。」


「役割分担っていうのは?」


「前衛とか後衛とかそういう話。」


「はいはい、なるほど。えーと、フィスィが後衛なのは確定かな?たぶん固定砲台的な役割が一番じゃない?」


 ラットレギンスマスター討伐でもそんな感じの役割だった。


「うん、俺もそう思っていた。」


「後衛ねわかった。前衛の人たちはちゃんと守って頂戴よ。」


「で、他の振り分けとかは考えてる?」


「一応一通りは。ディプラは白魔法が得意だからある程度前衛の近くに置いておきたいけど、前衛を張るのはなんか違う気がする。だから間の中衛的な立ち回りでどうかな。


だから俺とサロスで前衛を張る。ただ基本前衛は俺で、サロスはどちらかというと遊撃的な感じの方がいいかなって思ってる。」


「大体は賛成するけど、前衛は逆の方がいいと思う。基本的に前衛、というかタンクみたいなのを俺が担ってアダマスの方を遊撃ポジに置いておきたい。」


「私が中衛なのはわかりました。でも前衛内の役割を変えた方がいいというのはなぜですか?」


「単純に俺じゃ火力が足りないから。自由に動けたところで俺の魔法じゃ大打撃を与えられない。だから必然的に手数で勝負する形になって、そうなら敵の近くにいないと何もできなくなってしまう。」


「理屈はわかった。でもサロスが前衛だと俺たちに指示とかできる?」


「フィスィがどうなってるかなら絶対わかるし、アダマスとディプラはある程度は近くにいるだろ?それなら把握することも可能。むしろリーダー役なら前衛の方がいいと考えてるんだ。


指示してから行動するとどうしてもタイムラグが発生するだろ?そのラグを後衛とかはごまかせるけど前衛はどうしようもない。だから、前衛をラグがない自分が担えば動きやすいと思うんだよな。」


「(フィスィがどうなってるかなら絶対わかる…?)」


「ん?アダマスどうした?」


 アダマスがなにか呟いたが聞こえなかったので聞き返す。


「い、いやなんでもない。サロスができるっていうのならできるんだろう。うん。」


「一応決まったけど、これを決めても実際戦闘になったらどうなるかわからないわよ?」


「もちろん、あくまでとりあえずだよ。あとは高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応していけばいい。」


 …ちょっとは決まっているからマシなのか?行き当たりばったりではないよな?


「結構な量のお金が一気に入ったわけだろ?だから各々の武器とか買った方がいいと思うんだよな。今持ってるやつって大体サブ用だから。それで、どんな種類の武器を買うのかって考えるときに、役割が決まっていた方がいいかなって思ったってわけだ。」


「なるほどね。そういうことなら納得だわ。」


「すぐに買うかは別として、せっかくなのでどんな武器があるかみんなで見に行かないですか?時間もあるでしょう?」


「良いと思う。俺としても見に行こうかなと思ってたしちょうどいい。」


 ディプラよ、お前良いこと言うな。


「俺も賛成。」


「なら決定ね。勿論私も賛成。なら我々のリーダーに就任したサロス君、音頭をとって!」


「無茶ぶり激しいな!?ごほん、それでは皆様ご一緒に、えいえいおー!」


「「「……」」」



「帰ってもいい?」


「帰る場所ここだよ?」


「なら逃げてもいい?」


「もちろんだーめっ。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る