第3節「試験と狂気」4(SIDESTORY)
まえがき
主人公が登場しないのでSIDESTORY表記ですが、物語的にはむしろ重要度が高い回かもしれません。
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扉がノックされた。
「ディプラ、いる?」
「アダマスですか。今開けますね。おかえりなさい。」
「ただいま。これ俺からのお土産というかプレゼント。」
「プレゼントですか。」
「うん、今日サロスと会ってさ。二人で色々回ってたんだよ。」
「そうなんですか。なんか珍しい気がします。」
「…なあ、突然で悪いんだがディプラ、サロスについてどう思う?」
「突然ですね。そういえば、アダマスって結構嫉妬深いですよね?」
「ソ、ソンナコトナイヨ?」
「そんなことありますよ。私が他の男の人と話しているとなんか、相手の人を睨んだり話が終わった途端距離感が近くなったりするじゃないですか。」
「…うう、そうかもしれない。ちっちゃい男で悪うござんした。」
「別にそれが嫌とかじゃないですので気にしないでください。全く気にされないよりは良いかなと思っていますから。」
「でもな、俺が聞いてるのは嫉妬からじゃないぞ。」
「そうなんですか?」
「あ、やっぱり勘違いされてるわ。」
「ふふ。…冗談はこれくらいにしておきます。真剣な話なんですよね。」
二人の顔つきが変わった。途端に空気が重苦しくなった。
「察しがいいな。簡潔に言うよ。サロスはきっとフィスィに完全に依存している。」
「依存している、ですか。」
「うん。あいつらは付き合ってる。だからお互いを好きという気持ちは別におかしいことじゃない。そのはずだが、あいつはちょっと行き過ぎてる気がするんだ。」
「やっぱり、サロス君が突然学校に来なくなった日に何かあったんでしょうか。家族が亡くなったという噂もありましたが…」
「その噂の真偽は置いといて、何かあったというのは正しいだろうな。俺のこと全く覚えていなかったし。」
「そういえば、アダマスはサロス君と面識あったんですよね。」
「うん、別に親友とかそういうのじゃないけどな。学校で話すくらいで放課後に遊んだこともない。けどさ、そんな関係でも普通は忘れないだろ。最悪でもなんかいたなくらいには覚えているはずだ。
でも、あいつはそうじゃなかった。学校に来なくなって、それからもう一度戻ってきたときには俺のことなんて忘れていた。俺だけじゃない。あいつはフィスィとだけしか話さなくなっていた。他に人もいるのに、二人だけの空間を作り出していた感じだった。
その時俺は何もしなかった。それが正しかったのかもしれないけどな。でも少し後悔があって、ギルドに行ったときサロスとフィスィがいてびっくりした。それで、今回はせめて話しかけようと、そしてちゃんと友達になりたかったんだ。
結局話しかけるのはディプラに任せちゃったけどな。すまん。」
「大丈夫ですよ。アダマスのそういう所結構好きですから。」
「はは、ありがとう。
…サロスと出かけたって話までしかしてなかったよな。そこで色々話したんだ。あいつは明らかに異常だった。
「休息していない?」
「うん、休みの日はずっと訓練場にこもっているらしい。」
「ええ…それじゃ体壊しますよ。」
「俺もそう思う。でもそう聞いて納得したことがある。4人で初めて依頼受けたときに3種類の魔法を同時使用していた。あのときはフィスィの魔法への驚きが勝っていたが冷静に考えて3つも同時使用できるのはおかしい。俺たちまだ16歳だぞ。考えられるとすれば、異常なほどの、それも身を削りながらの努力。」
「なるほど。」
「だから今日無理やり遊びに連れ出した。魔法で体は健康に保てても心まで治せるわけじゃない。ディプラも、ちょっとでいいから気を使ってやってくれないか。いつどうなるかわかったもんじゃない気がする。」
「少し疑問に思っていたことがわかった気がします。アダマス、サロス君には一切嫉妬を見せなかったのはそういうことですか。」
「そんなことまで見られてたのか…。まあそうだな、あいつは他人に興味がない。今日も何かをしようと言うたびにフィスィがとか、フィスィのためとか。まるで自分の意志が介入していない、いや、行動原理のすべてがフィスィのためなんだろう。」
「愛が重いんでしょうか。」
「愛なんて生ぬるいものじゃないだろう。だから依存という言葉を使った。サロスが『フィスィがいなかったら自分は死んじゃうかも』とか冗談っぽく言ってたんだけど、俺はその言葉が本気だとしか思えなかった。」
「依存、ですか。…実は私も今日フィスィさんと話したんですよ。」
「その様子はそっちでもなにかあったのか。」
「あなたも察しが良いですね。実は…」
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「で、で、で?彼とはどこまでいってるのですか?」
ディプラがフィスィに問いかける。
「どこまでって何よ?」
「それはもちろんあれやそれやこれですよ、ね?教えてくださいな。」
「逆に聞くけどディプラは?あなたの彼とはどうなの?」
「わわ私ですか?私はですね、えーとその、いや違うんですよ、うん。ほらね、私達も成人してることですし、付き合いたてってわけでもないですから、そうなんですよ。さ、最後まではしてないですよ?でも、そのちょーっと前まではね?そう、そんであの…察してください///」
「…いいなぁ。」
「そう言うってことは?キスくらいはしたんですか?」
「いや、何も。」
「さすがに何もってことはないでしょう?幼馴染みから始まってもう何年も付き合ってるのは知ってるんですから。」
「本当に何もしてないよ。キスどころかハグもしたことないし、手をつなぐのも、というかスキンシップを取るのも全部私から。」
「それは…奥手すぎませんか…?」
「ちょっとね、昔に色々あったのよ。」
私はそれ以上何も聞けなかった。彼女は私を見て会話しているようで私を見ていない。目は合ってるはずなのにどこか遠い目をしていた。すべて仕方のないことだと、そう感じているかのようだった。慰めようとしても、その目を見ると自分がかけようとしている言葉が全て薄っぺらいもののように思えてしまう。せめて何があったのかを聞ければ…でもそれもきっと自己満足でしかないのだろう。
束の間の静寂、それを破ったのはフィスィの方だった。
「これでもマシになったほうなんだよ?色々あって希望もないような感じだったから。ずっと寄り添って全部世話もして。何があっても私はずっとそばにいると、行動で示したつもり。この前久しぶりに私のことを好きだと言ってくれたんだ。付き合い始め以来だったし嬉しかった。
けどサロスは
「…そんなことは、ないと思います。サロスくんはしっかりとフィスィちゃんを愛していると思います。」
「証拠は?ないでしょ?言葉でなんてなんとでもいえるのよ。好きなんて言葉も私が欲しがってるのを察して言ってくれただけじゃないの?辛いときに彼を支えたのは私。だから私への感謝は多分ある。でも感謝と愛情の違いは見分けがつく?無理でしょう?ねえ、サロスは本当に私のことが好きなのかな?感謝とか罪悪感とかからついてきているだけじゃないのかな?本当にサロスがやりたいことはこれなのかな?」
「そ、そんなこと…」
「っ、ごめんなさい。ディプラに聞いてもどうしようもないよね。ちょっと不安でいっぱいいっぱいになってて。気にしないでいいよ。」
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「その会話の後逃げるように帰ってきてしまって。細かいことは聞けませんでしたが私が知っている情報はこのくらいです。」
「行き過ぎた愛を持っているのに一切手を出していない、ねえ。サロスの話だと付き合って4年くらいは経つらしいぞ。」
「なっが。そんなに経ってるのに何もしないって相当ですよ。」
「恋愛関係でのトラウマがあったのかも?いや、過去にまであまり詮索を入れるのも良くないか。」
「そうそう、アダマスが言っていたサロス君がフィスィさんに依存しているという話、その逆も同じなんじゃないかと思ってます。」
「逆というのは、フィスィがサロスに依存していると。」
「サロスくんの依存度のほうが高いとは思いますが、おそらくフィスィちゃんも彼に寄りかかっている感じでした。」
「共依存みたいな関係か。片側依存よりマシなのかもしれないけど、やっぱり良くないと俺は思うんだよな。何が駄目とかははっきりと言葉にできないけど、なんというか健全じゃない。」
「同意見です。」
「俺たちはパーティーメンバーになった。他人に口を挟みすぎるのも良くないが、せめて手助けができるように頑張ろう。」
「そうですね。そういう正義感が強い所とかも結構好きですよ。」
「似たようなこと何回も言うなばーか。」
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