第3節「試験と狂気」3

「ここは?」


「ボウリングってのをする場所。」


「ボウリング?」


「ボウリンって人が考えた遊びで、球を転がしてピンっていう棒みたいなの倒していくんだ。多くのピンを倒せば勝ち。」


「それって楽しいの?特に興味がそそられないんだけど。」


「まあまあ、フィスィと一緒に来ることがあるかもしれないわけだし。」


「それならやろう。」


「急に乗り気になるんだな…。わかりやすい。」


 受付へと向かう。近くにこんなところがあったとは驚きだ。


「2ゲームお願いします。」


「かしこまりました。6番レーンでどうぞ。」


「はい。


あっちだってさ。」


「6番って言ったら、あそこ?」


「そうそう、それと球も持っていかないといけないんだ。」


「へー。」


 知らないことだらけだ。


「準備はできたかな?あの白い棒みたいなのがさっき言ってたピンで、それをこの球で倒す。あ、もちろん魔法は禁止だぞ。」


「ほうほうなるほど。」


「それで10本並んでいるピンを二回で全部倒さなくちゃいけない。もちろん一回で倒せたら高得点だ。とりあえず説明はこれくらいにしてやっていこう。本当は得点のルールとかややこしいんだけど知らなくても楽しめると思う。」


「とりあえず倒したらいいわけか、わかった。」


 わからないけどわかった。


「そうそう、その認識でいいよ。じゃあまずは俺から。」






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「結構面白い遊びだっただろ?」


「うん。」


 なんやかんやで楽しかった。こう、魔法禁止というのがもどかしい。魔法で球の軌道を調整すればもっと倒せたと思うのだが、変な回転がかかったりしてなかなかうまくいかない。


「いいねいいね、初めてなんだよな。にしては上手だったと思うよ。もっと他にも回りたいけど、プレゼントの買い物を済ませておくか。」


「そうそう、確かにそれが目的だったな。」


「お?もしかして忘れてた?」


「ちょっと忘れてただけだよ。」


「それだけ楽しんでたってことだ。別にいいじゃん。それで、何買うかとか決めてるのか?」


「ここに来たのも急に決まったことだから何も決まってない。」


 プレゼントって何渡せばいいんだ?


「それもそうか。じゃあ二択で、実用性重視の武器屋か、装飾用のアクセサリーか。どっちがいい?」


「うーん、武器にしておこうかな。アクセサリーとか買うセンスないから。」


「オッケーわかった。武器屋へ行こう。それと、アクセサリーとか買うのはセンスよりも気持ちのほうが大切だぞ。最悪家に飾ってくれるんだから自分が思うように買っていいよ。」


「参考にしておくよ。」






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「二択から自分で選んでおいてなんだけど、プレゼントに武器を渡すのって正しいの?」


 武器屋へ来たはいいものの少し不安になったので聞く。


「普通なら論外だけど冒険者なんだから正しいと思ってる。」


「冒険者だから正しい、ね。なるほど。うーん、でもあんまり高い武器にはしないほうがいいか。主として使う武器は自分で選んで買ったほうがいいだろうし。」


「今日一で真剣に悩んでるな…。ちょっと色々聞いてもいい?」


「別に変なこと聞かなければいいけど。」


「フィスィと付き合ってるんだよな。どのくらい付き合ってる?」


「あーそういう感じの質問ね。えーと、4年?」


「なっが!そんなに?」


「えーと、うん。4年経ってて5年目だね。」


 アダマスがさらに驚いた顔をした。


「へえ。そんな前から付き合ってるってるんだ。どっちから告白した?」


「俺だよ。ちょっとばかしマセたガキだったから。」


「確かに12歳そこらで告白するのはマセてるかもな。」


「まあまあそんな感じ。」


「好きな所は?」


「全部。フィスィの全部が好きなんだよ。どんな俺でも一緒にいてくれたから、一生を捧げたいと思えたんだ。フィスィがいなくなったら俺死んじゃうかもね(笑)」


 ちょっと熱くなりすぎてしまっただろうか。でも彼女のことがそれくらい好きなんだから仕方ないよね。


「っ…、そうか。それならちゃんとプレゼント選ばないとだな。」


「もちろん。全身全霊をささげて考えてるよ。」






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「今日はありがとう。」


「こっちこそ付き合わせてすまなかった。で、どうだ、楽しかったか?」


「そうだね、ちょっと楽しかった気がする。」


「だろ?そうだよな?絶対息抜きは必要なんだよ。あー、なんというか、俺はさ、ちょっとは肩の力抜いてもいいと思うんだよ。万能魔導士オールラウンダーだから、とかあるかもしれないけどさ。」


「うん。」


「必死になりすぎても心が壊れてしまうよ。たまにはこういう日も作ってもいいと思わないか?」


「…そうかも、しれない。ありがとう。」


「おう!また遊びに誘うからな。ぜひとも次は自分で何をしたいかとか考えといてくれ。」


「善処しておく。」


「無理そうじゃねえか。まっ、今日のところはこれでいいや。じゃあな。」


「また明日。」




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「ただいまー!」


「おかえりなさい。今日も訓練場?」


「そのつもりだったんだけど、アダマスに誘われてちょっと出かけてた。」


「そう!楽しかった?」


「まあまあかな。」


「楽しかったんだ。良かったね。」


「それでさ、フィスィにプレゼント買ってきたよ!合格祝いみたいなもの。はい、これ。」


「杖か!」


「うん。それを持って魔法を放つと威力が上がるらしい。もっと強化率が高いやつもあるだろうけど、折り畳み式で持ち運びやすいやつを選んでおいたよ。持ってて困ることはないと思う。」


「嬉しい!ありがとう!大好き!


というか考えることは同じなのね。私からもプレゼントあるんだよ。」


「ほんと?」


「ほんとほんと。ちょっと待っててね。」


 フィスィからのプレゼントってマジ?嬉しいぜぐへへへ。…え、ほんとのほんとなのか?めちゃくちゃ嬉しいんだが。


「はいこれ。開けていいよ。」


「ありがとう。この形は武器系か?…やっぱり短剣だ。」


「あなたと全く同じ考えだよ。持ち運びやすいからとりあえず持っておけるでしょ。」


「うわあ、思考回路が完全に一致してる。」


「確かにね。なんやかんや一緒に育ったんだからそういうこともあるでしょ。」


「そうかもね。人の性格って環境で結構変わるから。」


「…うん。私も同じ考えだよ。」

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