第5節「暗中模索と急転直下」2

「この辺だよね。」


「多分そう。」


 フィスィが言っていたところに来た。


「ほんとに何も来ないな。なんでだ?」


「さっきまで大量にいたラットスウォームが一匹も見つかりません。理由がわからないのにこうだと少し不気味ですね。」


「襲っては来なそうだから、一回落ち着いて休憩、そしてこれからどうするかも話そうか。」


 あれだけ大変だったのにここだけ落ち着いた空間。何というか、嵐の前の静けさ?いい表現が思い浮かばないが不安な気持ちになる。それでも一度休憩できるというだけマシだろう。


「あー流石に疲れたわね。で、どうするの?」


「帰る方向さえわかれば無理やり突破はできると思うんだけど、わからないとどうしようもないよな。」


「助けとか来る可能性ってありますかね。」


「もちろんゼロではないと思うよ。でも冒険者が一日二日帰ってこないくらいそんなにおかしなことじゃないし、ここに来る人は少ないって受付の人も言ってたから。現実的に考えるとそこに頼るのは厳しいんじゃないかな。」


「そうですか…。」


「さっきはちょっとヤケになって言ったけどアダマスの火魔法で焼き尽くすっていうのもありじゃない?」


「俺の魔法で?危険だって言ってなかった?」


「それでも、火なら勝手に広がっていってくれるから何回も魔法を発動させる必要がない。自分たちがいるところを火から守るくらいなら何とかなるはず。もしかしたらその音で気づいてもらえるかもしれない。そこまで分の悪い賭けではないと思ってる。


なんか起こってもある程度なら許してもらえるでしょ。こうなるまで放っておいたギルド側が悪いんだし。」


 そうだよギルドのせいにしちゃえ。報酬とか上げたらもう少し人が来たんじゃないのか?増えすぎなんだよな。


「なるほどなぁ。うーん、最終手段はそれでいくしかないか。でもできればそれ以外の方法でなんとかしたい。地下にいるからやっぱり空気とか怖い。」


「わかった。何も決まらなかったらそれに賭けてみるとして、他に案はある?」


「そうなのよね。私も火を使うのは最終手段にしたいけど、それ以外にいい方法が思いつかないのよね。」



「…みなさん一度も触れないから私が触れることにしますね。この穴?かはわからないですけどこれって何ですか?」


「馬鹿お前みんなが全力でスルーしてるのに言うなよ!」


「だって明らかにおかしいじゃないですか!魔物が近づかない場所に一つだけある穴なんて。どこへつながってるんでしょうか?」


 気づいてしまったか。ただの穴ではなくどこかへつながっていそうという気配はある。気配がするだけで何の関係もないかもしれないが。


「気になるのは俺も同じだけど、興味で動ける状況じゃないからなぁ。」


「うん。アダマスの言う通りだと思う。不気味ではあるけど何か出てくるって様子じゃないし、スルーが安定かな。フィスィ、この中に魔物っていないんだよね。」


「さっきはいなかった。念のためもう一回確認してみるね。【サーチ】」


「どう?」


「…ねえ、ディプラが言うようにどこにつながってるか確認しに行ってみない?」


「フィスィまで?そんなに気になる?」


 こんな状況じゃなければ行ってみようぜ、みたいになるかもしれないけど。今は違うんじゃないのかな。


「気になるとかじゃなくて、出口につながってたりそうじゃなくても他の場所につながってる可能性もあるわけじゃない?この中の見れる範囲では何の魔物もいないから、戦う必要はないと思うの。」


「それなら行ってみる価値はあるのか…?でもこの中は人が通る用の明かりがないから暗いよな。」


「すぐに戻れる範囲で少しだけ進んでみますか?無駄足になるかもしれないですけど、何もしないよりはいいんじゃないでしょうか。戦う必要がないので私が光を確保します。」


「ここまで確実に戻ってこれるようにしながらゆっくり行ってみよう。」


「みんなが乗り気なら、わかった。そうしよう。」


 もし何もなければ最終手段でアダマスに頼るだけだ。






_______________________






「暗くてこわいよぉ。」


「アダマス気持ち悪いですよ。」


「辛辣だねぇ!?」


「あらごめんなさい。つい本音が。」


 ディプラとアダマスの会話だが、多分無理してる。できるだけいつも通りを装うことで平静を保っているのかもしれない。


「サロスはさっきから何してるの?」


「フィスィにもらった短剣で歩いている壁の右側に傷をつけてる。これで確実に戻ることはできるから。」


「なるほど。頭いいね。」


「どうも。」


 全部の会話がぎこちない気がする。辺りは暗闇で、それが一層不安を増している。それなら俺たちは暗闇に差す一筋の光だな、なんて冗談も言ってられない。


「フィスィちゃん、何か反応があったらすぐに言ってくださいね。」


「わかってるわ。」


「俺今何もしてないけど大丈夫か?」


「アダマスはここで成果がなければ戻って火魔法を放たなきゃいけないから少しでも体力温存しておけ。」


 そうして暗闇をディプラの光を頼りに進んでいく。




 変化があるまでそう長い時間はかからなかった。


「っ!なんかいる!?」


「本当か!人?魔物?」


「多分魔物。サーチにひっかかった。ここまで一切反応なかったから間違いとかじゃないと思う。数はそんなに多くない。どうする?倒しに行く?ラットスウォームだと思うけど断言はできない。」


「迂回しても気づかれるかもしれないし、俺は倒した方がいいと思う。ここまで来たのに何かいるからって戻るのはなんかもったいない気がする。みんなはどう思う?」


「先手必勝ってやつだな。俺は賛成するよ。」


「アダマスに同じく私も賛成です。」


「言っても多分ラットスウォームだからね。さっさと倒しちゃおう。ここにいるってことは他の出口から入ってきたのかもしれないし、それならここに来た意味があるわ。」


「じゃあ全会一致ということで。」



 恐らく俺たちは油断していたのだろう。ここまでの苦戦は数が多いことによるものでしかないと思っていたから。数が少ない状態では作業のように倒せていたから。






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あとがき

 ラストにこんな語りがはいるってことは…、察するものがありますね。

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