第5節「暗中模索と急転直下」1
「やっぱりおかしいじゃないですか!」
「倒しても倒しても探すまでもなく次のやつが現れてくるわ!」
「と、とりあえずアダマス、これだけ数が多いと火魔法禁止するべきかもしれない。これじゃ火の制御がしきれない。」
「でもどうするんだよ!多すぎるって!」
昨日よりさらに増えていた。問題ないと聞いていたがここまでくると明らかに異常だ。人の言葉を鵜呑みにしたことを深く後悔する。よくよく考えれば詳しい状況を説明していなかった。自分にも非があるかもしれない。まして一度後悔した後に同じ失敗だ。だが、とにかく今はそんなことを言ってられる場合じゃない。
「どうしようもないから一回全部倒すよ、いい?この状況じゃお金がどうとか言ってられないでしょ。」
「大丈夫!フィスィ、それでお願い!」
「わかった。細かい制御がしきれないから近くに集まって!
いくよ。【ウィンドブロー】」
その魔法が発動するまで少しの間があった。その時間で魔法の威力が相当なものだということがわかった。
吹き荒れる風。これほどの威力は見たことがない。これが
思考から戻るとあれだけいたラットスウォームが全て切り刻まれていた。原型はとどめていないので換金はできないだろうが仕方ない。
「ありがとう。でもこれからどうする?俺の火魔法を使わないとなると数を一気に倒せない。使わないならここにいても意味ないぞ。」
「来て全然時間たってないけど仕方ない。帰るしかないな。」
「その方がいいと思います。」
またこの依頼を受けるのかどうするのかについても話す必要があるだろう。一度戻ることに決まった。
「【サーチ】ねえ、残念だけどそんな簡単に帰れなさそうよ。」
「え、どういうこと?」
「大量のラットスウォームに囲まれてるみたい。」
「「は?」」
俺とアダマスの驚き声が響いた。
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「いつになったら途切れるんだよ!!!」
「【ウィンド】ちょくちょくサーチはしてるけどまだまだいる!あーもう!【ウィンドブロー】」
「【ウォーターカッター】どうしますか?こちらからも何かアクションを起こさないと終わらなさそうですよ。」
おかしいおかしい。どこまでが一つの群れでどこから別の群れなのかもう判別がつかない。途中から原型を残すことは完全に諦めて倒すことに注力しているのにむしろ増え続けている気がする。
「一匹一匹が弱いからピンチにはなってないけどこれじゃいつまでたっても帰れない。疲労がたまるとジリ貧だぞ。火を使えないせいで俺が全く役立ってない。みんなの体力は大丈夫そうか?」
「私は今のところ何とかなってる。けどサーチの頻度は落としてるよ。」
「同じく今のところはって感じです。」
「ライトの魔法切っても大丈夫か?これ維持し続けるのが辛くなってきた。」
「誰も懐中電灯とか持ってないよな…。わかったそれなら役割の少ない俺が火で明かりを維持しておく。そのくらいなら火を使っても大丈夫だろう。」
ここでも準備不足。あー、もう自分に苛立ちを覚える。なんでこうなってるんだよ。でも切り替え、反省は終わってからだ。
「無理やりでも帰るしかない。ええと、たぶんこの状況ならフィスィの魔法に頼るのが一番シンプルだろうな。行けそう?」
「いいんだけどさ。…どっちへ向かえばいいの?」
全員が息をのむ。戦闘に集中しすぎていたことに今更気づいた。つまり迷子というやつだ。
「ど、どうしますか?」
「一回アダマスの火魔法で全部焼き払う?もうそれから考えようよ。」
「落ち着けサロス。ヤケになるな。」
でもどうすればいいってんだよ。
「倒すの一瞬任せてもいい?私が一回全力でサーチ使ってみるわ。もしかしたらそれでわかるかもしれない。」
「わかりました。こっちは何とかするので絶対見つけてください。」
「ごめん、落ち着いた。フィスィお願い。」
こんな時でもフィスィなら何とかしてくれるかもしれない。そう思い直す。その手助けをしなければ。
「【サーチ】」
「ど、どうですか?」
「うーん…?まず戻り方はわからなかったわ。でも明らかにラットスウォームがいない場所がある。」
「それはどういう意味?」
フィスィに尋ねる。ラットスウォームがいない場所とは一体?
「私にもなんかわからないんだけど、まずここの周りは笑っちゃうくらい魔物がいるの。でもちょっと行った先に何もいないっぽい場所があるのよ。魔法が完璧じゃないから間違えてる可能性もあるけど。そんなに遠い場所じゃない。」
「行く当てもないし行ってみてもいいんじゃないかな。」
「うん。そうするか。」
フィスィが言う場所がどういうことかわからない。でもアダマスが言うようにとりあえず行ってみるのは間違いじゃないように感じる。もしそこが安全地帯のようなものなのだとしたら一度落ち着ける。
話している間にもラットスウォームが次々と来ているので疲労がたまっていく。一度落ち着けるだけでも全然違うだろう。せめてそんな小さな希望くらいは現実となってほしいな。
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