第5節「暗中模索と急転直下」5

「本当にきれいさっぱりいないですね。なんででしょう。」


「一応考えられる理由は二つあって、一つは長い時間ここを離れたから。俺たちがいたから集まってきていたってことも考えられる。


もう一つはさっきの強い魔物を倒したから。離れた場所にいたから関係ないとも思うんだけど、さっきもあいつを倒してから連携がなくなったし、何かしら関係がある気もするんだよな。」


「魔石を落とすレベルの魔物だしね。そういうのもあり得る気がするわ。」 


「気にはなるけど考えるのは後にしないか。これなら落ち着いて周囲の探索ができるし、出口も見つかるかもしれない。」


「うん、アダマスの言うことがもっともだね。帰ってから考えよう。」


 何はともあれ、これなら帰宅までの道筋も落ち着いて探すことが可能だ。ここへ来た時の記憶を全力で辿る。そして少しでも可能性が高い道を進む。もちろん、壁に目印をつけながらだ。




「ここ、見たことない?」


「何となく、あるかも?周囲を見てみるわ。【サーチ】」


「ど、どう?」


「うん、うん!ここ知ってるわ!帰り方もわかる!」


「本当ですか!」


「おお!よかった!」


 フィスィの案内で外に出ると、もう外は暗かった。むしろ明かりがあるだけ中の方が明るいのでは?一体何時間この中にいたのだろうか。いや、次の日になっていないだけマシだと思うか。ちゃんと戻ってこられたのだから。…それはそうとギルドには文句を言わなければならない。






_______________________






 ギルドにやってきた。一応24時間営業ではあるので受付は開いているが、夜中なのでほとんど人はいない。


「あの、すみません。」


「はい、依頼のご報告でしょうか。」


「それもあるっちゃあるんですけど、とりあえずこれを。」


「これは、魔石でしょうか…?」


「そうです。受けた依頼の場所に出てきました。それと、明らかに異常な量のラットスウォームが出現しました。それについてのクレームみたいなものです。」


「…少々お待ちください。上のものを呼んでまいります。」


 地下ではいろいろと感情が動きすぎていたが、帰宅しながら落ち着いて考えた。そして今の俺はギルドに相当な苛立ちを覚えている。ラットスウォームが増えているという俺の報告にちゃんと対処していれば良かったのではないか。こちらもちゃんと状況を説明していないとい非はあったかもしれないが、そもそも詳しい話を聞かれていない。そのせいでフィスィを危険な目に合わせてしまったのだ。




「すいません、依頼内容の相違があったようで、詳しい話をお聞きしてもよろしいでしょうか。」


 そういって、正社員?のような人が出てきた。その人にこれまでのことを全て説明する。ラットスウォームの異常発生、魔石を落とすレベルの魔物がいたこと、そしてそれを倒した後元通りに戻ったことを話した。ついでに今日以前に違和感があり、それをちゃんと話していたことも伝えた。




「…なるほど、わかりました。すぐに調査に向かわせます。この度はご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。」


「はい、それと倒してきたラットスウォームと、この魔石の買い取りをお願いします。ラットスウォームは持ってきたのと比にならないくらいは倒しましたけどね。」


「はい、わかりました。重ねて申し訳ないのですが、お支払い等を延期してもよろしいでしょうか。調査を終えてからまとめてお支払いという形になってしまうのですが。」


「別に構いません。」


「ありがとうございます。なるべく早く調査を済ませますので、二日後にまたお越しください。」


「わかりました。」




 どういう対応になるかは知らないが、適当に済ませようとしていたらぶち〇してやる。今怒ってもどうしようもないから穏便に済ませただけだということをわかっているだろうか。


「色々調査とかするから二日後に来いってさ。」


「まあ妥当だな。はいごめんなさいで終わらせられるものじゃないし。二日で対応できるのなら相当頑張ってる方だろう。」


「サロスもそんなに怖い顔しなくても大丈夫だよ。結局誰も怪我とかはしてないし何とかなったんだから、ね?」


「いやそうはいってもね。だってフィスィが…」


「私は大丈夫だから。ほら、ちゃんと今も元気でここにいるよ。」


 自分の言葉にフィスィが割り込む。彼女がそういうのなら仕方がないが、だからといって怒りが納まるわけではない。何とも言えなくなって目をそらす。


「今日はもう帰りましょう?色々あって疲れちゃいました。」


「俺も同じくって感じかな。緊張しっぱなしだったから、帰ってきたらどっと疲れが来た。」


「そうね、そうしましょう。」


「うん、わかった。次は二日後に来る時ってことでいい?」


 全員うなずいたことで確認が取れた。


「じゃあまた。」

「また二日後に会いましょう。今日はお疲れ様でした。」


「うん、お疲れ様。」

「バイバイ。」




「俺たちも帰ろっか。」


「そうしましょう。眠たくなってきたわ。」


 そう言って帰路につく。


「今日はお疲れ様。」


「そっちこそお疲れ。フィスィの魔法に結構頼っちゃった。ごめん。」


「だーかーらー、そういう時は“ありがとう”でいいんだってば。てかそういうサロスもカッコよかったよ。全体の指揮をとってたのあんたじゃない。それにあの魔物に一人立ち向かってさ、不安だったけど信じてよかった。」


「いや、俺にもっと力があれば倒せてたかもしれないよ。」


「おっと?その言い方だと力を求めて闇落ちしちゃいそうだよ?」


「はは、そんなことないって。フィスィがいる限り大丈夫だよ。」


 ちょっと冗談を言い合えるくらいには元気が戻ってきた。肉体的には疲労困憊だけど。


「…今日はありがとうね。サロスと冒険者になれて本当に良かったって、改めて思ったよ。」


 嬉しいことを言ってくれる。フィスィのために頑張ってきたことが、ちょっとは報われた気がした。今日はいつもより良く眠れそうだ。

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