第6節「報酬とこれから」4
その後も大きい店から小さめの店まで色々と見て回った。
「やっぱり始めの店で見たやつが一番良かったかな?」
「そういうなら買ってあげなよ。店員さんちょっとしょんぼりしてたし。」
「やっぱりある程度はお金かけた方がいいよな。」
「ギルドからお金おろしてもう買いにいく?今日は見るだけにしとく?」
「高い買い物を即決する勇気はなかなかでませんからね。」
「そうなんだよ。使うものだから早めに買ったほうがいいって気持ちとじっくり考えたいという気持ちがせめぎ合ってて。どうしようかな。」
「ある程度考えが付いてるだけ羨ましいよ。俺なんかなんの武器買うかすらまだ決まってないのに。」
「お前は早く決めろよ。」
そんなこと言ったって、優柔不断なんだもん。
「ねえ、次あの店に入ってみない?」
フィスィが指差す方を見ると、古びた感じの武器屋があった。良く言えば老舗、悪く言えばボロい見た目だ。
「なんか古くない?」
「こういう所にこそいい武器があるかもしれないでしょ?そもそもここって大通りに面してるわけで、ショボいもの売ってたらとっくに潰れてるでしょ。ということは掘り出し物が見つかるかもしれないわ。」
「ポジティブに考えるなぁ。そう言うなら行ってみるか。」
「今まで見た店と趣向が違いますから。ちょっと楽しみですね。」
次に行く場所が決まった。
「いらっしゃい。ゆっくりしてってください。」
入店すると店主と思しきお爺さんがいた。ゆったりとした話し方だ。中はあまり広くはないようだ。
「なんか結構いい感じじゃない?緻密に作られている感じがするわ。」
「そうだね。見た目の雰囲気から見てきたやつとは違ってて面白い。」
「お嬢さんたちは新人さんですか?」
飾っている売り物を見ているとお爺さんに話しかけられる。
「はい。」
「そうですか。ここには初心者用の安いものは置いてないですが大丈夫ですか?」
「ちょっと多めの収入があったので、ある程度いいものを買おうと思ってるんです。」
質問に答えたのだが、今のはただの確認なのだろうか。それとも、『ここにはお前らみたいな新人用の武器なんて置いてねえよ出ていけ』の婉曲表現だったのだろうか。優しそうなお爺さんだし前者だと信じたい。
「そうでしたか。どのような武器がいいか私に話してみませんか?この老いぼれも知識だけはあるんですよ。」
多分ただのいい人だったわ。よかった。
「私、後衛用の杖がほしいんですけどなにかいいものありますか?」
「杖ですか、お嬢さんは基本何色の魔法を使われますか?」
「緑です。というより
「なるほど、それなら…この店ですとそこにある緑の杖とかはいかがですか?」
「えーと、これですか?」
「そうです。緑魔法特化の杖で、他の色魔法を使ってもほとんど威力が上がりません。通常は使いづらいのですが、お嬢さんなら使いこなせると思いますよ。」
「へえ、いいかもしれないわ。値段は30万、なかなかやるわね。」
俺たち新人だって言ったよな?なのに30万のやつを勧めるとか本気か?俺たちがそれくらいなら払えると踏んだのだろうか。ゆったりした話し方のせいで騙されそうになるがこの爺さんなかなかやるな。
とはいえ書いている性能と値段を比較するとむしろ安いくらいではある。緑魔法特化とかいうピーキー能力なのでその分割り引かれているということなのだろうか。
「この店以外でしたら、同じくらいの値段で全魔法使えるものもありますよ。大きい量販店ならだいたい売ってると思います。本人だけのことを考えるならこちらの方がいいと思いますが、他の人に貸すといったことも考えるとそちらもいいかもしれません。」
やっぱりいい人だろ。他の店のものを勧めるとかなかなかできることじゃない。豊富な知識がある上で客のことを一番に考えているということだ。
「ほうほう、んーでも人に貸す予定もないしこっちの武器にしようかな。」
「じゃあ次私も相談していいですか!」
「はいはい、そちらのお嬢さんはどのような武器をお探しですか?」
_______________________
「なるほど、それなら俺はこれにしようかな。」
ディプラに続きアダマスも相談に乗ってもらった。それで二人とも目星がついたらしい。
「なら最後に俺の相談に乗ってもらっていいですか?まだどんな武器にするかも決まってないんですけど。」
「そういう方も多いですよ。経験からいい武器を勧めさせていただきます。」
「まず、自分は
「なるほど…。」
そうして爺さんは考え込むような仕草を見せた。他の三人はすぐに回答していたのに、やはり難しい相談だったか。
「ちょっと待っててもらってもいいでしょうか。」
難しかったら大丈夫ですと言おうかと思っていたら、そう言われた。そして爺さんは店の奥へと入っていった。
少し待つと中から戻ってきた。なにやら二つの短剣を持っている。
「この武器なんてどうでしょう。どの種類の魔法でも属性として込めることができます。敵によって使い分けることも可能なので貴方にぴったりではないかと思いまして。」
「なるほど、その二つの剣に違いはあるんですか?どちらのほうがいいんでしょう。」
「いえ、この二つに違いはないです。それと、私が提案したいのはこの二本をどちらも持つということです。二刀流や双剣と呼ばれるものですね。」
双剣。考えもしなかった。
「恐らく、
双剣は理論上は強いですが、使いこなせる人はなかなかいません。ですからこれもあまり売れる気配がなくて、奥にしまっていたんです。ですが、貴方なら使いこなせるはずです。」
「何を根拠に?」
「その手のマメは相当な量の練習を積んでないとなりません。そして、その筋肉の付き方も同様です。努力しているのでしょう。わかりますよ。ではもう一度言いましょう。貴方なら使いこなせるはずです。」
本当にわかるものなのだろうか。適当言っているだけの可能性もあるが本当に言っている気がする。そうか、俺なら使いこなせるか。そこまで言われたらやるしかないよな。双剣の
「わかりました。それ、買います。お金下ろしてくるので、待っててもらえますか。」
「私も、これ買います!」
「私もこれください!」
「俺も、お願いします。」
俺が買うと決めたのがきっかけか、全員ここで買うことに決めたらしい。
その後ギルドでお金を下ろしてそれぞれの武器を買った。四人合計で100万を超える出費になったがその分いいものを買えただろう。
ただ冷静になって考えると、あの店これだけで相当な儲けだよな。コスパはいいとはいえ高い買い物だ。もしかしなくても、俺たちに優しくしていたのはこうやって買ってもらうためだったりして。さてはあの爺さんなかなかのやり手だな?
爺さんの真意はともかく、あの人には良い意見をもらった。双剣、俺にあってる気がする。武器は一つじゃなくてもいいのだ。固定観念を壊された気分だ。
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