第2節「別れと出会い」3
「よかったね。探し求めてた仲間ができたじゃん。」
「探し求めてたってなんだよ。それにあくまで臨時だけどな。」
「まあまあ、性格の良さそうな二人だったし、パーティー組み続けるとまではならなくても友達として関係は続けていけそうな感じだったでしょ。」
「それもそうだな。まあ明日のことは明日考えることにして、宿でも探すか。」
「そうだね。」
この辺は冒険者が多いため、長期にわたって泊まるための宿が多くある。自分たちに合った宿を探して数千里(1時間程度で色々見て回った)、値段の割に清潔感があって良さそうなところを発見した。
「すいません。二人用の部屋って空いてますか。」
「二人部屋ですね。空きの方ございますよ。ベッドはダブルかツインのどちらの方がよろしいですか。」
「ツインでお願いします。」
「はい。こちらでどのくらい滞在される予定ですか。」
「長期宿泊プランで、とりあえず一ヶ月でお願いします。」
「かしこまりました。1ヶ月で7万ケルマになります。Dランク以上のギルドカードをお持ちですか?
「いえ、持ってません。」
「それでしたら料金先払いのみの対応になりますのでご了承くださいませ。」
「わかりました。はいこれで。」
「7万ケルマちょうどお預かり致します。こちらお部屋の鍵が二つになります。失くされますと再発行費用として1万ケルマ頂戴いたしますのでお気をつけください。それではごゆっくりお過ごしくださいませ。」
ここは最安値というわけではなかったが、受付の人の対応も良かったので満足している。そして部屋へと向かう。
「うん!結構綺麗に清掃されてるみたい。」
「これは良い宿を見つけたかもね。満足満足。」
「早いとこ荷解きとか済ませちゃいましょう。」
「そうしよう。やれることはやっちゃいたい。」
そうしてある程度の生活基盤を整えていった。
「今日はまだ時間はありそうだけどどうする?」
「俺はちょっと訓練場へ行ってみようかなと思ってるよ。」
「そうなんだ。私は近くで売ってるものとか見て回ろうかな。」
「おお、良さそう。後でどこが安いとか教えてもらおうかな。」
「わかった。それじゃ、行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」
_______________________
ギルドの隣に訓練場というところがある。これは自主的に鍛錬するための場所だ。だったら鍛錬場なんじゃないかと思うかもしれないが俺もそう思う。なんか訓練って言い方は部隊とかに使うイメージがあるし。ともかくここでは魔法を使うことが可能で、的なども用意されている。
多くの人が使う場所なのでお世辞にも設備が整っているとは言いづらいが、無料で使わせてもらえることを考えると十分すぎるくらいだ。
俺には休んでいられる暇なんてあるわけがない。だから今日もここへ来た。冒険者として、万能魔道士である俺が究極魔道士である彼女と共に活動していくためには自分の実力を高める必要があるだろう。そのためにはどうすればいいか。魔導検査の日からずっと考え続けていた。そして一つ思いついたことがある。
なぜ究極魔導士が強いのか。それは一種類の魔法に自分の持つ魔法の才のほとんどをつぎ込むことができるからだ。一種類の魔法で魔法適正が100の人と50の人がいれば(練度の違いはあれどほとんどの場合で)100の方が強い。
つまり、自分の持つ120の数値をどれだけ生かすことができるのか、ということが重要なのではないだろうか。そしてそれを仮定したとき、万能魔導士である俺が究極魔導士に対抗するためには、自分の持つ魔法すべてを有効活用しなければならないだろう。
要するに、魔法の同時使用こそが俺が目指すべき姿なのだ。同時使用が可能であるという前例は存在する。しかし、別の魔法を同時に使うということは難易度が高く、相当鍛錬を積まなければならない。俺が目指すのは6種類の魔法を同時に使用すること。それがどれだけ途方もないことかは分からないがやるしかない。
俺が冒険者になったのはフィスィに守ってもらうためではない。彼女を守るためなのだから。そのためにはなんだってやってやる。
さてと、そんなこんなで自己鍛錬に来た。そこそこ周りに人もいるが気にしてられない。自宅でも少しだけ練習を行い、自分に白魔法でバフをかけながら他の色の魔法を簡単に使うということはできるようになった。ただ、体を動かしたり魔法を放つといったことはここで無いと行えない。
【身体強化】
まずは自身の体を強化する白魔法をかける。俺は究極魔導士と違って威力のある魔法が使えないから手数で勝負する。すると必然的に前衛を張らなくてはならない。そのため戦闘では動きながら魔法を放たなければならないだろう。常時身体強化をかけてながら動いてほかの魔法も発動できたならば有利に戦えるはずだ。
【ファイア】
赤魔法で右の手のひらに炎を生み出し、それと同時に走る。少し不安定になったが、ある程度続けるうちに少しずつ安定してきた。
【ウォーター】
青魔法で左の手のひらに水を生み出す。二つごときで満足していられない。まだまだ上を目指すべきだ。走りながら同時に三つの魔法を使う。ゆっくりしてられるような余裕なんてないから最高効率で成長しなければ。
そうはいっても三魔法同時はなかなかうまくいかない。何となくできそうな気配はある。あと一歩というところまではきている気がするが、とにかく白魔法の身体強化に意識を割かなければならないのが痛い。そこに集中すると火と水を同時に維持できなくなってしまう。無意識レベルで身体強化をできるように、何度もこれを繰り返す。
「できた!」
思わず声が出た。時間にして10秒ほどの短い間であったが確かに白赤青の魔法を同時にできた。まだまだ実践レベルではないができるのとできないのでは大きな差だ。後はこれを続けるだけ。反復練習あるのみ。
「え、もうこんな時間?」
またしても思わず声が出た。周りを見渡すとつい先ほどまでいたはずの周りの人がほとんどいなくなっていた。日はもうほとんど落ちている。やっべぇフィスィには軽ーく見てくるくらいの言い方しかしていなかったはずだ。心配してるかな。
まあキリもいいだろう。これからの鍛錬方法の目途も立った。自己鍛錬はこれまでにして早く帰ろう。
「ただいま。遅くなってごめん。」
「おかえりー。遅くなるだろうとは思ってたから大丈夫だよ。」
「わかってたの?遅くなるって言ったっけ?」
「言ってないよ。でもどうせ鍛錬に集中して時間を忘れてたんでしょ。サロスはよくそういうとこあるから遅くなるかもなーって思ってた。でも次はないように気を付けるように。」
「はい!気を付けます!」
こりゃあ俺のことを俺よりもわかってるな。
「どうせまた時間を忘れて没頭するんでしょうけど。」
俺への信用がない(泣)。仕方のないことではあるが言い返せなくてつらい…。もう絶対こんなことはしないぞ。(フラグ)
「ごはんあっためるからちょっと待ってて。」
そう言って彼女はコンロで火をかけた。明らかに俺一人の分ではない。
「え、もしかしてまだ食べてない?」
「うん、待ってたよー。」
「マジか…ごめん。」
「こらこら私が欲しいのはごめんじゃないよ。謝ってほしくて待ってたんじゃないから。こういう時はありがとうでいいんだよ。」
「…うん。そうだね。ありがとう。」
「はーいどういたしまして。さっ食べよ?」
本当に彼女には頭が上がらない。彼女のために明日からも頑張らなくては、そう決意しなおした。
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