第4節「戦闘と不穏」2

 それから二度ほど似たような戦闘を繰り返した。慣れてきたのかほとんどのラットスウォームが原型をとどめたままで倒せるようになった。でも相変わらず俺の出番は少ない。


「そういえばフィスィちゃん、その杖いいですね。」


「ふふん、そうでしょ。サロスが買ってくれたんだ。合格祝いだって。」


「そうなんですか!それで、そんなサロスくんが持ってるその短剣は?」


「これはフィスィにもらったものだよ。同じく合格祝い。」


「二人で渡しあったってことですか!」


「そういうこと。で、そういうディプラも聞いてほしそうだから聞いてあげるね。その杖はどうしたの?」


「えへへ、これも二人と同じようにアダマスが買ってくれたんですよ!合格祝いだっ…て…。待ってください?フィスィちゃんとサロス君はプレゼントを渡し合って、アダマスも私に買ってくれて、それなのに私何もしてないんですけど…。えっどどどどうしましょう!あ、あ、アダマスごめんなさい!絶対、絶対なにか買いますから!ほんとちょっとだけ、待っててください…。」


「落ち着いて落ち着いて。俺は別に気にしてないから。」


「私が気にするんですよ!私だけ何もしてないなんてそれじゃクズみたいじゃないですか。」


「そんなことないと思うわよ?」


「うん、俺たちが勝手に買っただけだから。」


「慰めの言葉は不要です。そう、これは私が悪いんです。」


 動揺したディプラにアダマスがぽんと肩をたたいた。そして嫌な笑みを浮かべた。


「そこまで言うならそれ相応のプレゼント、期待しておくよ。」


「くっ、ここぞとばかりにハードル上げましたね。ええわかりましたよ。あっと驚くようなプレゼントを探しておくので足を洗って待っているがよいです!」


「それをいうなら首だろ。何だ足を洗うって。はっ!もしかしてアダマス、なにか犯罪を犯しているのか?おい!無駄な抵抗はやめて大人しく自首するんだ!」


「してるわけないだろ!なんて酷い風評被害だ。」


「ごめんごめん。」



「一応あっちにいるっぽいけど、話終わった?」


「お待たせ、待った?」


「待ちましたけど?」


「あ、ごめん。ほんとうにお待たせ致しました。」


 フィスィさん、敬語になると怖いよ。


「お待たせです。時間的に今日最後ですかね?」


「そうしておくか。」


「それでいいよ。」

「私も大丈夫。」


「ではさっきと同様に俺の火魔法からで。」






「なんか今までより増えてません?」


「今回は40匹くらいかな?多い。」


「でも問題無いだろ。【ファイア】」


 そういってアダマスが火を放ったものの、数の違いによるものか少しだけ取り逃しが出た。


「「【ウィンド】」」


 それを俺とフィスィが倒すことで対処した。


「【ウォーター】お疲れ様です。」


「すまん、火力調整ミスって少し取り逃した。」


「【ウィンド】大丈夫よ。サロスが嬉々として処理してたから。」


 ディプラとフィスィはそれぞれ後作業に取り掛かりながら話をする。


「うるさいなー。やっと出番だと思ったんだよ。多分フィスィだけでも大丈夫だったろうけどいいだろ。」


「はいはい、お疲れ様。」


「今日はこんなもんで帰りますか。結構討伐できたみたいだ。」


「そうね。まだまだいるっぽいしまた受けましょう。」


「賛成です。パターンがしっかりしてきたので次はもっと数を増やせると思います。」






_______________________






「お疲れ様です。こちらが報酬になります。」


「「「「ありがとうございます。」」」」


「四人で依頼をこなされたんですよね。今後もそのメンバーで依頼を受けられますか?」


「はい、そのつもりです。」


「それでしたら全員のギルドカードをお預かりしてもよろしいでしょうか。それでパーティー登録しておきます。そうすれば、いちいち全員で受付にお越しになられなくてもこちらの方で処理しておくことが可能となりますので。」


「「「「わかりました。」」」」


 それは便利。試験に合格したおかげか。FランクとDランクの扱いが違いすぎる。



「はい、こちらがギルドカードの返却と、こちらが今回の報酬になります。Dランクになって今日が初依頼ですか。それでこの量は相当凄いです。さらなるご活躍を心待ちにしております。」


 褒めてモチベを保たせるタイプの人だ。社交辞令だろうけど悪い気はしないよな。礼をして報酬を受け取る。



「これを4人で割るか。あまり稼げないんだな。」


「そうだね。でもFランクの時よりかはマシかな。」


「でも一匹当たり40ケルマで、一日働いて一人あたり約5000ケルマ。受付の人がこれでも多いって言ってたけど、それが本当なら世知辛い世の中だよ。」


「はじめはこんなもんなんだろうね。そうそう、4人で割るって言ってたけど俺とフィスィはまとめてで大丈夫だよ。どうせ家計はまとめてるし。」


「そうなんですか?」


「うん、一緒に住んでるしね。」


「同棲ってこと!?」

「フィスィちゃん聞いてないですよ!?」


「聞かれてないから言ってないだけよ。」


「い、いつからですか?」


「結構前よ。ここに来る前からそうだったから。」


「わあ」


「そういうわけだから、基本はフィスィに渡してくれたらいいかな。フィスィに渡せなそうだったら俺でも問題ないよ。」


「あ、ああ。わかった。二分の一の方が分けやすいしな。こっちはこっちで分けておくことにするよ。はいこれ今日の分。」


「どうも。それじゃ、また明日。」


「また明日ー!」


「「また明日。」」






「同棲までしてて何もしていないとか、いよいよヤバさが増してきたな。」


「そう、ですね。さすがに奥手とかでは済まないことが確定しちゃいました。」


 アダマスとディプラはサロスに届かない声で話した。






===============

補足

 ケルマ=円でお考え下さい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る