【第42話:ダンジョンへ】

 オックスからも聞いたが、あの後、冒険者ギルドからも『薔薇の棘』がしでかした数々の悪事について詳しく説明を受けていた。


 何人もの人が騙され、財産を奪われ、奴隷におとされ、亡くなっている。


 その中にはフィアとロロアのお兄さんと、そのパーティーメンバーたちも……。


「んぅうぅぅ!!」


 口を塞がれて何を言っているかわからないが、フィアが我慢できなくなって暴れ出した。


 だが……拘束され、槍を奪われているこの状況ではどうすることもできなかった。


「ちっ!? この餓鬼!」


「フィア!!」


 思わず駆け寄ろうとするが……。


「動くな! 動くとこいつらを殺すぞ!」


「ぐっ……」


 どうやら火傷の治療を終えてから捕まったようだが、身体はまだ万全じゃないのだろう。

 フィアは大した抵抗も出来ず、オックスの部下に呆気なく制圧されてしまった。


「こいつらの命は私が握っているということを忘れないようにな」


 悔しいが今は我慢するしかない……。


「わ、わかっている……指示に従うから、三人に乱暴はよせ……」


「それが賢明だよ」


 オックスと話していると、部下と思われる一人が話に割って入ってきた。


「隊長~話が長いですよ~。さっさとそいつを殺して王都に帰りましょうよ」


「せかすな。こいつは油断ならないし、冒険者ギルドにも疑われているからな。ダンジョンに連れて行って魔物に殺させる」


 なるほど……それですぐに襲ってこなかったのか。

 でもそう言う事なら、不確定要素の魔物が加わるダンジョンで勝負をかけた方がいいかもしれないな。


「ん~、面倒ですねー。しかし、サラマンダーをこんな短時間で倒すなんて、とんでもねぇ餓鬼ですね……」


「まったくだ。おい! みんな補助魔法の範囲内に近づくなよ! もしこいつから近づいてきたら、見せしめに妹の腕を叩き斬れ!」


 くっ……オックスにはオレの強さの秘密を知られてしまっている。

 その弱点とも言える部分も含めて……。


 あの時、素直に全部話してしまったことが悔やまれる。


 そもそも人数も相手の方が多い時点で分が悪い。

 オックスの衛兵部隊全てが悪事に手を染めていたのではなさそうなのが救いだが、それでもオックス以外にも五人はいる。


 それもヘタな冒険者よりも腕が立つだろう衛兵の男たちが五人だ。

 特に対人に関しては冒険者よりも衛兵の方が多くの経験を積んでいるのだ。


「さぁ、フォーレストくん、今から私の指示に従って貰うぞ? 文句はないね?」


 ……悔しいが今は打つ手がない。


 こうなると、切り札の全能力向上フルブースト1.8倍を使ってしまったのは失敗だったか。


 いや……あの時使っていなければフィアの命が危なかったし、使ったこと自体は正しい選択だったと思う。


 だが、ロロアの回復魔法が期待できないこの状況でバフが切れると、オレは間違いなく身動きできなくなって詰んでしまう。


 出来るだけ素直に指示に従って素早く進んだ方がいいか……。


「おい! 返事はどうした!! こいつらがどうなってもいいのか!!」


「わ、わかった。指示にはちゃんと従う……」


 指示に従って大人しくしたからといって、オックスたちがフィアたち三人を解放してくれるとは、さすがにオレも思わない。


 だけど、今打てる手がない以上、とにかくこれ以上状況を悪化させないようにしなければ……。

 仕掛けるとすればやはりダンジョンだ。


「ん~、やはりフォーレストくんは良い子だねぇ。君なら仲間を見捨てられないと思っていたよ。自分が見捨てられて酷い目にあったんだからねぇ。はははははは!」


 悔しいがオックスの言う通りだ……。

 オレは絶対にフィアもロロアもメリアも見捨てることなんて出来ない。


 だがあの時……同時にオレは学んだんだ。


 絶対にあきらめない!

 折れない!

 不可能を可能にしてみせる!


 悔しさに臍を噛み、口の中に鉄の味が広がる。


「……それで、そのダンジョンへと行けばいいのか?」


「なんだ? 面白くないね。もう少し悔しがるかと思ったのだが……まぁいいか」


 今は言いたい事を言わせておいてやる……でも、今のうちだけだ……。


 オレは暗い気持ちに侵蝕されそうになるのを踏みとどまり、冷静さを保ちつつ、そのまま指示を待った。


「そいつだ。君の左手にいるそいつ。そいつが今から案内する。君は十分な距離を保ちつつ、そいつの後に続くんだ」


 こうしてオレは、オックスの指示に従い、ダンジョンへと向けて歩き始めたのだった。


 ◆


 オックスの部下たちに囲まれながら、森の中を歩くこと30分ほど。

 その場所は突然現れた。


「こ、これは……」


 ……すごい……。


 こんな状況じゃなければ、きっと冒険心をくすぐられて興奮していたことだろう。

 さっきまで遠目には何もなかったはずなのに、ある場所を踏み越えた瞬間、突然目の前に古びた遺跡のようなものが現れたのだ。


 いにしえの魔法でつくられた結界か何かだろうか。

 オレには想像もつかないような魔道具の技術が使われているのだろう。


「そっちだ。そこにダンジョンの入口がある」


 オックスの指し示した場所を見てみると、そこには古びた遺跡には似合わない荘厳な扉があった。


「ここからはお前が先頭だ。その扉を開けて入れ」


 ダンジョンに挑戦するのは冒険者としての夢の一つではあったが、まさかこんな形で実現するとはな……。


 出来れば希望に満ちた気持ちで、チャレンジしたかった。


 いや……そんなことよりも、ここからが勝負だ。

 中に入ればオックスたちは、なんらかの方法で魔物を使ってオレを殺そうとしてくるはずだ。


 たぶんチャンスがあるとすればその一度きりだ。

 そこを逃せばオレは魔物に殺され、こいつらのことだから、フィアたち三人は奴隷か何かとして売り払われるだろう。


 でも、絶対にそんなことはさせない……。


「わかった……フィアたちには手を出すなよ」


「ははは。ここに来てもそんな口が叩けるとはな。まぁでも、手だしはしないさ。大事な人質だ。ただし、君が言う事をちゃんと聞いている限り・・・・・・・だけどね」


「……わかっている」


 なんとか……ここでなんとかしなければ……。

 絶対に三人を助けて、この窮地を乗り切ってやる!

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