【第38話:魔法の光】
まばらな木の間を抜け、ロロアが待機しているところまで戻ってきた。
しかしオレの心配をよそに、それ以上なにも起こらなかった。
「フォーレストさん!! お怪我はありませんか!?」
オレの姿に気付いて駆け寄ってくるロロア。
倒せたかどうかよりも、オレの身体を心配してくれるその優しさに、何だか少し救われた気分だ。
「あぁ、大丈夫だ」
だけど、その「大丈夫」という言葉とは裏腹に、オレの顔は冴えない。
それはそうだろう。
あと少しで勝てるところまでサラマンダーを追い詰めたというのに、わけのわからない
いや……逃げられたのかどうかすら定かではない。
何がおこったのかわからないのだから……。
わかっているのは、ただサラマンダーがオレの目の前で忽然と消え去り、掴みかけた勝利も一緒に消え去ってしまったということだけだ。
「でも……いったい何があったのですか? 倒せたのなら……」
とロロアは、そこで言葉を切った。
たぶん、倒せたのならもっと嬉しそうにしているでしょうしって言いたかったのだろうな。
どうやら気を遣わせてしまったようだ。
「悪い、ちゃんと説明しないとだな」
オレは重い気持ちを一旦横に置き、サラマンダーとの大まかな戦いの内容を話し始めた。
◆
最初、サラマンダーを追い詰めたところまでは嬉しそうに話を聞いていたロロアだったが、サラマンダーが突然魔法の光に包まれ消え去ってしまったことを聞くと、驚いた表情をみせて、表情を曇らせた。
「そんな……いったい何が起こったのでしょう?」
「いろいろ考えてはいるんだが、オレにもさっぱりわからない……」
可能性の話だけをすれば、いろいろとあるのかもしれないが、本当に何も手がかりがないのだ。
「ん~……話を聞く限りだと、まるでメリアちゃんの使う召喚魔法みたいですね」
何気なく発したロロアのその言葉に、オレはなにかひっかかっていたものが取れたような感覚を覚えた。
「はっ!? そうだ!! あの消え方はまるでメリアがピッチュを消す時そっくりだった!」
だが……。
「そっくりだったが……召喚魔法でサラマンダーなんて呼び出せないはずだ」
昨日の雑談の中でメリアから聞いた話だが、人に仇なす魔物は召喚魔法で呼び出す事はできないと言っていた。
その話が本当なら、サラマンダーは絶対に呼び出せないはずだ。
せっかく謎が解けたかと思ったのだが、結局振り出しに戻ってしまったか。
そう思い、落胆しかけたのだが……。
「フォーレストさん、あの、私……魔物使いの中には、そういう魔物を使役する人もいると聞いた事があるのですが、その可能性はないのでしょうか?」
「ん~、どうなんだろう……」
そういう話はオレも聞いた事がある。
だが、サラマンダーのような高ランクの魔物を使役できるものなのだろうか。
それに魔物使いはメリアのような召喚魔法使いとは違い、魔力を使って使役はできても魔法を使うことは出来ないはずだ。
「やはり情報が少なすぎるな。ただわかっていることは、サラマンダーが消える間際に見た光は間違いなく魔法の光だったということ。それと恐らくこの件には……」
そう……この件でわかったこともある。
それは……。
「人が関わっているだろうってことだ」
オレのその言葉に、ロロアが息を飲むのがわかった。
正直オレもあまり考えたくなかった。
でも、これは状況的に間違いないだろう。
「あまり嬉しくない状況になってしまいましたね……」
「そうだな。サラマンダーの討伐をするだけでも命懸けの依頼だというのに、下手すると相手をするのは魔物だけじゃなくなるかもしれない」
誰の仕業か、どうやって魔物を召喚魔法のように消し去ったのか、何もわかっていないが、
そうなると、やはりやったのは人だ。
人が関わっているというより、人が裏で糸を引いていると考えるべきだ。
「誰かが仕組んだ可能性が高そうですね……」
人が絡んでいる、もしくは人が裏で糸を引いている前提で動くなら、最悪のケース、最悪の能力も想定しておいた方がいい。
そして、まずは疑わし能力が……。
「残念ながら、その可能性が一番高そうだ。それと……召喚魔法のように消し去ることが出来るのなら……
「!? だ、だからメリアちゃんがいくら探しても……」
「その可能性が高いと思っている。だけど、オレも召喚魔法や魔物使いに詳しくないからな。メリアに聞いてみた方がいいだろう」
「そうですね。メリアちゃんなら何か気付くこともあるかもしれないですし」
調査対象であり、討伐対象でもあるサラマンダーがもう見当たらないのだから仕方がない。
一度陣に戻って、そこでメリアの意見を聞いてみるのが良いだろう。
「はっ!? ………………」
オレはある事実に気付き、空を見上げて視線を巡らせる。
しかし……そこに探すものの姿はなかった。
「フォーレストさん? ど、どうしたんですか? ……あ、ピッチュちゃん……」
オレがサラマンダーと戦い始める時には、安全な距離をとって上空を旋回していたのは見ている。
いなくなったのだとしたらその後だ。
「ロロア! 陣まで急いで戻るぞ!」
「は、はい!」
オレたちはこの不安が思い過ごしである事を祈りつつ、フィアとメリアの待つ場所へと駆けだしたのだった。
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