【第39話:嫌な予感】
メリアを気にしつつ、オレは馬車へと向けて駆けていた。
さっきから嫌な予感がおさまらない。
あの日、パーティーを追放され、幼馴染の裏切りにあった時のような黒いなにかがオレの心を侵蝕していくようだ。
「頼む……二人とも無事でいてくれ……」
祈るように口から漏れた呟きが虚空へと消えていく。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
ロロアも苦しそうだが、走り始めてすぐに
「ロロア、すまないがもう少しの間だけ頑張ってくれ。嫌な予感がするんだ」
「はぁ、はぁ、はぁ……はい! 大丈夫です! 急ぎましょう! ……はぁ、はぁ……」
これで何もなければ、無理をさせたロロアには申し訳ないが、それでもこの嫌な予感が取り越し苦労だったというのなら、後でいくらでも謝ってフォローしてあげよう。
もう少しで着く……。
そこで何もなければそれが一番なんだ。
それから5分ほど走り続けた。
すると、馬車を止める際に目印にした少し大きめの木が遠くに見えてきた。
サラマンダーの元へ向かった時の半分以下の時間で辿り着けそうだ。
「見えた! あの木だ!」
「はぁ、はぁ……フォーレストさん! ここまでくれば私は大丈夫です! はぁ、はぁ……先に、行ってください! はぁ、はぁ……」
もうここまでくれば、ロロアが予期せず魔物に遭遇することもないだろう。
オレはその言葉に甘えて先に向かうため、走る速度をもう一段階あげることにした。
倍率をあげる!
「わかった! ロロアは息を整えつつ後から来てくれ!
漲る力を前へと進む力へと変え、オレは全力で駆けた。
一歩踏み出すごとに景色が後ろに流れていく。
そして……オレの目に飛び込んできたのは……。
「くっ!? 馬車が!!」
破壊された馬車の残骸が散らばる、危惧していた光景だった。
「メリア! フィア! 無事かー!」
辿り着く前から大声で呼びかけるが返事がない!
必死になって自分自身に落ち着けと呼びかけるが、目の前が暗闇に染まっていくような感覚がどんどん濃くなっていく。
焦燥感が……高まっていく……。
「メリア! フィア! 返事をしてくれ!!」
馬車の残骸はもう目の前のところまで来たというのに、未だに返事がない。
そして、二人の姿も。
「……頼む……無事でいてくれ……」
心の底からの願いが口をついて出る……。
まだ二人の安否はわからないが、だがわかった事もあった。
それは、馬車は大きな爆発によって破壊されたのだろうということだ。
それからもう一つわかったことがある。
馬車は粉微塵に破壊されているのだが、まだ時間がそれほど経っていないのか、いまだにところどころがくすぶっており、ちらちらと小さな赤い炎が見えたということだ。
つまり……。
「くそ!! やっぱりサラマンダーか!!」
サラマンダーのような高位の魔物が何体もいるのは考えにくい。
まして人の手によって操られているのなら尚のことだ。
「オレがあの時しっかり止めを刺せてさえいれば……」
後悔と悔しさが込み上げてくるのをぐっと押しとどめ、だが今は、もっとするべきことがあると自分に言い聞かせる。
「まずは、二人の行方を探さなければ……」
この馬車の惨状から、先のサラマンダーとの戦闘において、おそらく最初に放ってきたファイヤーボールだろう。
焦る気持ちを抑えて周りを確認するが、幸いなことに二人の姿も、争って血を流したようなあともない。
ちなみに馬車を牽いてくれた二頭の馬は、目印にも使っていた木の枝に繋がれていたお陰で無事だった。
「だが、それならば二人はどこに……」
と、ここでロロアがようやく追いついてきた。
「はぁ、はぁ、はぁ……ふぉ、フォーレストさん……お、お姉ちゃんやメリアちゃんは……これはいったい……」
息を切らしながら目に涙をためて、オレにそう尋ねてくるロロアにオレはなんて言葉をかければいいのだろうか……。
優しい言葉のひとつでもかけてやりたいところだが、しかし今は、正確に状況を判断して、少しでも早く次の行動に移さなければいけない。
「悪い……オレもわからない。だけど、二人は見つかっていない。まだ生きていると信じて探さそう。オレたちの助けを待っているはずだ。それにこの状況だ。二人は怪我をしているかもしれない。その時はロロア、頼りにしているぞ?」
「は、はい! どんな怪我を負っていたとしても、絶対に私がなんとかしてみせます!!」
「あぁ、頼もしい限りだな。じゃぁ、二人を見つけて救い出し、サラマンダーと、その裏で糸を引いているやつを纏めてぶったおすぞ!」
「わかりました! こんなこと絶対に許せませんから!」
オレ自身いまだに不安な気持ちでいっぱいだが、ここで落ち込んでいれば事態が悪化するばかりだ。
無理やりにでも気持ちを奮い立たせて、前を向かわないと!
「ここに二人の姿が無いという事は、どちらかに向かって逃げたはずだ! まずは二人の痕跡を探そう! 足跡や戦闘の後、他にも何か手がかりがあるかもしれない」
ここに二人が倒れていないのだから、必ずどちらかに移動したはずだ。
もし、他の者に襲われたり、攫われるようなことがあったとしても、なんらかの痕跡が残る。
特にフィアはかなり腕の立つ冒険者だ。
何も出来ずにやられるようなことはないと信じている。
「じゃぁ、私はあっちを見てきます!」
「わかった! オレはこっちを!」
こうしてオレとロロアは、それぞれ手がかりを求め、二手に分かれて捜索を始めたのだった。
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