【第15話:模擬戦】
相対してみて初めてわかった。
フィアの実力は本物だ……こうして向かい合っているだけでも、バクスやチャモからは感じなかった重圧のようなものを感じる。
「いつでも初めていいわよ!」
フィアから掛けられた声に、オレはもう一度気合いを入れ直してから、開始の声をあげた。
「それじゃぁ始める! いくぞ!
開始と同時に、切り札の一つである
「へぇ、一瞬で発動するのね! いいじゃない!」
攻撃魔法や回復魔法は、発動するまでにある程度の時間集中する必要があるが、補助魔法はかなり短い時間で発動する事ができる。
そして、さらに訓練を重ねれば、このように瞬時に発動することが可能だった。
「あまり余裕ぶっていると、足を掬われる事になるぞ!」
バフは魔物との戦いではあまり有利には働かないが、一対一の対人戦となると話は別だ。
しかも、今回のような短期決戦で、後の事を考えなくて良い場合は特にだ。
オレは盾をひき気味に構え、守りを固めながら、まずは正面から挑むことにした。
だが……。
「ぐっ!? は、早い!?」
なんて踏み込みの速さだ!?
実力の持ち主だと聞いていたので、槍を突くスピードは想定していたのだが、その踏み込みの速さは想像を遥かに超えるものだった。
守りを固めていた事もあり、なんとか盾で防ぐことには成功したが、一瞬で態勢を崩されていた。
「凄いじゃない! まさか初見で私の突きを防がれるとは思わなかったわ!」
「凄いのはそっちだろ……最大のバフを掛けているのに、いきなり負けるところだったぞ。正直、驚いた」
油断していたつもりはないが、これはフィアの認識を改めないといけない。
よくオレにスピードを自慢していた双剣使いのチャモより、遥かに速かった。
「これで驚いて貰ったら困るわ。次は単発で終わらないから覚悟してね」
「どこまで出来るかわからないが、オレも食い下がってみよう。これでも守りはそれなりに得意なんだ」
もともと槍と片手剣との戦いなので、こちらから攻めるのは不利だ。
なら、防御に徹して粘ってみせよう……いや、勝ってみせる!
「いくわよ! はぁぁっ!!」
裂帛の気合いと共に突き出された突きを何とか盾で防ぐが、余りにも早すぎて綺麗に受ける事ができない。
一度目の焼き直しのようにまた体制を崩され、今度は追撃が飛んできた。
「くっ!? まだだ!!」
二段、三段と繰り出される突きに、緩急を付け、更にはコンパクトなスピード重視の薙ぎ払いを織り交ぜて攻撃するフィアに、オレはあっという間に防戦一方となった。
ギリギリのところで防げているが、このままではいつかやられてしまう。
しかし、とてもでは無いが、剣を繰り出して反撃する余裕がない。
無理やり片手剣を振るえば、隙を突かれてあっけなく負けてしまうだろう。
「っ!? フィア! もう一度確認だが、魔法ありで戦っていいんだよな!」
「えぇ、もちろんよ! 魔法使いのあなたに不利な接近戦で戦っているのに、魔法を使うななんて言わないわ!」
だけど、そう言いつつもオレに魔法を使う隙を与えまいと、果敢に攻めてくる。
使えるものなら使ってみろという事か。
でも、それは補助魔法の勉強不足だ。
もちろんバフの重ね掛けをするつもりはない。
確かに勝てるかもしれないが、そんな事をすれば出来たばかりの大事な仲間を傷つけてしまう。
オレがするのは……無言のままの魔法発動だ。
『
「え? これってバフ!? 言葉にしないで魔法を!? きゃっ!? い、痛い!?」
フィアは、突然身体能力が強化された事に驚き、そのあと遅れてやってきた過負荷による痛みに混乱していた。
でも、さすがフィアだ。
すぐさまバックステップでオレとの距離を取ると、痛みに耐えて態勢を立て直した。
だけど、オレのしようと思っていたのはこれだけではない。
もう一度無言で発動した魔法は……相対する
「かはっ!? 今度はなに!? え? きゅ、急に力が……か、身体が!?」
急激な身体能力の上昇。
そして、その状態に慣れないうちに一瞬で解除されれば……。
「まずは、オレの勝ちかな?」
身体の変化に対応できず、膝から崩れ落ちたフィアに即座に近づくと、その首元へそっと木剣を触れさせた。
「うそ……私、負けちゃった……」
バフがかかっている状態で相対するデバフを掛ければ、レジスト判定前に相殺されることは、既に自分の身体で試して確認済みだった。
そして、その確認をした際に気付いたのだ。
バフとデバフを連続で喰らう事の怖さに。
普段仲間にバフを掛ける時は、必ず声掛けをしてから行うのだが、これは、不意にバフをかけられた際に、急激な能力の上昇に対応できず、思わず動きを止めてしまったりするためだ。
つまり逆に言えば、これは有効な行動阻害になるのではないかと。
まぁ自分の身体の能力がいきなり上昇したり、その上昇分が突然消え去ったりすれば、混乱するのは当たり前だ。
そして、ここからは完全にぶっつけ本番だったのだが、もしこれを1.5倍で行えばどうなるか。
その結果がこの勝利だ。
限界倍率のバフによって全身の痛みが発生し、ようやく身体が対応して力が漲った瞬間を狙ってデバフを掛けることで、一時的にだがフィアの身体のコントロールを完全に失わせることに成功したのだ。
ギルドマスターに言われてから、昨日色々と考えていたのだが、ここまで上手く行くとは思わなかった。
全て予想通りの結果になったと思い、喜んでいたのだが……。
「も、もう一回勝負よ!!」
フィアがとんでもない負けず嫌いで、この後何度も模擬戦をさせられることになる事までは予想出来なかった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます