【第17話:ありがたい】
ヘルシーな食事を終えたオレたちは、これまたさわやかなハーブティーを飲みながら、依頼についての話をしていた。
蒸し鶏も野菜スープも凄く旨かった。
もう一回食べたいかと言われれば食べたい。
でも……へとへとな今日はお肉が食べたかった。
まぁそれはいい。
普段飲まないオシャレなハーブティーも今はいい。
それよりもゴブリンの集落殲滅依頼の話だ。
「一人で大丈夫って本気で言っているのか?」
バフを貰えればゴブリン三〇匹ぐらい一人で何とかなると、フィアが言い張って聞かないのだ。
「そもそもバフが無くても何とかなると思ってたのよ? それが、さっき1.2倍を貰って確信したの。これ、1.5倍貰えるのなら一人で絶対いけるって」
模擬戦の合間に、フィアにもバフを試しに掛けてあげたのだが、その時の万能感がかなり良かったらしく、ゴブリン三〇匹程度の集落なら一人で突入しても大丈夫だと言い始めたのだ。
これはフィアの個人的な考えだが、バフは貰う側に戦う技術が伴っていれば『化ける』そうだ。
バフで能力が上がっても武器の扱いなどが追い付いていなければ、確かに一般的に言われているように力があがるだけで、魔物との戦いではあまり有効でないかもしれない。
だけど腕が伴っていれば、一般的なバフのイメージよりもずっと強くなれるはずだと。
「しかし、一人はさすがに危険すぎる! オレもサポートで入るからな!」
「いいえ! フォーレストはロロアの守りに専念して!」
確かにロロアを一人にするのは危険だとは思うのだが……。
「お姉ちゃん、私を心配してくれるのは嬉しいけど、パーティーとして一番良い形を考えようよ」
パーティーとしてか。
「それなら、こういうのはどうだ? まず、最初はオレとフィアの二人で奇襲をかける。それで相手が混乱している間は出来るだけ二人で戦って、相手がもし落ち着いてきたら、オレはすぐにロロアを守りにいける位置まで下がるというのは?」
「ん~……それなら、まぁ……」
それでもフィアはまだ少し不満そうだったが、ロロアにジト目を向けられると渋々納得したようだ。
それからもう少し詳しく作戦を練ったところで、今日の話し合いは終わりとなった。
「それじゃぁ出発は三日後で」
明日は必要な物を揃えるため、一緒に買い出しに行き、明後日は訓練場で連携の練習をする事になった。
なったのだが……。
「それで……どうしてついて来るんだ?」
別れの挨拶を交わしたつもりだったのだが、なぜかずっと後ろをついてくるので、振り返って尋ねた。
明日はギルドで待ち合わせって言ってなかったか?
「その……私たちが今借りてる宿があんまり良くないから、フォーレストの宿ってどんなところかなぁって思って」
「……お姉ちゃん?」
ロロアのジト目に怯むと、フィアは大きなため息を吐いてからもう一度口を開いた。
「う……昨日ね。その、絡んできた男を返り討ちにしてぶちのめしたら、揉め事は御免だって今朝追い出されちゃって……てへっ」
「てへっじゃないだろ……。まぁでも、絡まれたんなら仕方ないか。じゃぁオレの泊まってるとこで部屋が空いてないか聞いてみるか?」
オレが今泊っている宿は、ギルドから紹介された宿なので冒険者には比較的寛容だ。
宿の質は正直そこまで良くないが、料金もお手頃だし、これからパーティーを組むのなら同じ宿を利用するのも悪くないだろう。
「いいの!? やった♪」
「ただし、出来るだけ揉め事はごめんだぞ?」
こうしてオレたちは、同じ宿に泊まる事になり、行動を共にする時間が更に増えたのだった。
◆
翌朝、宿の一階にある食堂で朝飯を食べていると、少し遅れてフィアとロロアの二人もやってきた。
「あら? おはよう。フォーレストって意外と早起きなのね」
「フォーレストさん、おはようございます」
「二人とも、おはよう。村にいた時から家の手伝いとかで早起きしてたし、勝手に目が覚めるんだよ」
うちの家は農家なので家族全員が早起きだ。
まぁオレの場合は、妹に起こされて若干仕方なく起きていた所もあるのだが、結局習慣になっていたようで、王都に来てからも早起きは続いてた。
「それで、今日はどこから回る?」
今日は依頼を遂行するために必要な物資の買い出しだ。
今回の依頼は日帰りの予定だが、何か起こった時のために水と食料は余分に買うつもりだし、俺の武器も買わなければいけない。
今まで使っていた片手剣は一応返ってきたのだが、元々数打物だったので買いかえる事にしたのだ。
「まずはフォーレストさんの武器を買いに行きませんか?」
「そうね。シルバーランクにあがった冒険者が、その剣を使っていたら、シルバーに憧れている冒険者から文句言われるわよ?」
そ、そこまでか……結構この剣、気に入って使っていたのだが。
「じゃぁ、まずは武器屋に……」
元々お金が出来たら片手剣は買い換えたいとは思っていたので、素直に武器屋に向かう事になった。
それから朝食を終え、少し雑談してから武器屋に向かっていると、突然声をかけられた。
「あれ? フォーレストくんじゃないか」
聞き覚えのある声にそちらを向くと、そこにはこの街の衛兵隊長の一人、オックスが私服で立っていた。
衛兵の装備を付けている姿しか見たことが無かったので、接近するまで気付かなかった。
「オックスさん。こんにちは。今日は非番なんですか?」
「ははは。私たちにも休息は必要だからね」
「あはは。すみません。それはそうですよね」
「ところで、仲良さそうに話していたその美人さんは誰かな?」
オックスさんの視線を追うと、フィアの事を言っているようだ。
ロロアも凄い美少女だが、美人という言葉はフィアの方が似合うだろう。
「えっと、パーティーを組むことになったフィアと、その妹のロロアです。フィア、ロロア、この人はこの街の衛兵隊長で、オレが囚われている時に良くして貰ったオックスさんだ」
「は、はじめまして。フィアです」
「……ロロアです」
オレにはもうだいぶん慣れてきた二人だが、まだ初めての人は緊張するようだ。
短い言葉で挨拶をしていた。
「へぇ~……良かったじゃないか。まさかこんなに早く仲間を見つけるとは。しかもこんな美人姉妹、羨ましいぐらいだよ」
「ははは。容姿はともかく、オレみたいな奴とパーティーを組んでくれた二人には感謝しています」
「そうかい。とにかく、良かったじゃないか。それで、これから依頼かな?」
それから二、三言葉を交わし、オックスさんとは別れて武器屋に向かった。
こんなオレでも、気にかけてくれる人がいる。
それだけでもありがたいと思った瞬間だった。
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