【第46話:研究成果】
オックスは醜悪な笑みを浮かべながら、オレの答えを待っていた。
「さぁどうするつもりだい? もうこうなってしまえば正直私はどちらでもかまわないんだけどねぇ」
もう覚悟を決めるしかない。
だが、今普通に戦いを挑んでも、あの連絡をする魔道具がある限り、オックスに挑むことはフィアたちを危険にさらすことになる。
やはり、そんなことはできない……。
今は従うふりをしてボスと戦い、油断した所で挑むしかない。
ボスと戦いながら隙を伺うことになるので簡単なことではないが、ちょっとでも可能性の高い選択肢を選ぶんだ。
これは先送りじゃない。感情に流されるな。
考えろ。冷静になってチャンスを待つんだ!
「ボスは……オレが倒してやる」
「ほう。ここに来てとうとう覚悟を決めたのかい? まぁ私としてはどちらでもよかったのだが、ボスが邪魔だったので助かるよ」
「……それで、このダンジョンのボスはなんだ?」
さすがにドラゴンをなどと言われれば、勝てるとは思えない。
まず間違いなく無駄死にすることになるだろう。
ごくりと生唾を飲み込み、オックスの答えを待つ。
「ここのボスは、ミスリルゴーレムだよ」
「ミスリルゴーレムだって⁉」
Aランクの中でも上位に分類される魔物じゃないか!?
魔物の中でもゴーレム種は少し特別な存在だ。
遺跡にのみ存在する魔物で、強い力と高い物理耐性を誇る強力な魔物として有名だ。
ただ、魔法に対する耐性はそこまで高くないので、パーティーに魔法使いがいればそこまで梃子摺る相手ではないとされている。
しかし、ミスリルゴーレムは別だ。
強い力と高い物理耐性に加え、非常に高い魔法耐性をも併せ持つからだ。
「そう。ここのボスはミスリルゴーレムですよ。衛兵の一部隊とBランクの魔物を何匹か犠牲にしてようやくそこへ閉じ込める事に成功したんですが、魔物を従えるためのダメージを与えられなくてね」
困っていたのですよと、オックスはまるで他人事のように話した。
やはり無条件でいきなり魔物を従えられるわけではないのだな。
まぁそれでも凄まじく強力なアーティファクトであることに変わりはないのだが……。
「どうしました? 怖気づきましたか? でも、フォーレスト君に選択肢はないんじゃないかな?」
オックスはわざと連絡用の魔道具を顔の高さまで掲げ、覗き込みながら尋ねてくる。
オレが断れないのをわかっているのだ。
「……わかっている。なんとか戦ってみるから、フィアたちに手を出すな……」
くっ……この不味い展開から抜け出す方法が思いつかない……。
Aランクの魔物であるミスリルゴーレムを相手にしながら、オックスたちの隙を伺う余裕なんてあるわけがない。
そもそも勝てる確率の方が低いだろう。
オレの魔法なら絶対に勝てないとは思わないが、生半可な重ね掛けじゃ破壊できないはずだ。
そんな極限状態で周りをみていれば呆気なく命を落とす事になる。
おまけに勝てたとしても、オレは限界まで疲弊しているだろう。
どんどん追い込まれていくな……。
「わかっていますよ。フォーレスト君が私の忠実な駒である限りは手を出さないと誓いましょう」
嘘だ……このままオックスの言いなりになったとしても、約束を守ってフィアたちに手を出さないとは思えない。
いったいどうすれば……そう思っていた時だった。
天井付近にちらりと小さな影が見えた。
やはりそうだ……これは……これに掛けるしかない!!
「……魔法の準備を、バフを掛けてから戦う。それはいいよな?」
「あぁ、もちろんさ~。頑張ってくれたまえよ」
失敗は許されない……ここからは、オレの補助魔法の研究成果を見せる番だ。
まず、バフは有益な魔法なので、その倍率に関係なく上書きが出来る。
「
オレは口では1.5倍と言いながら、最低限の強化である
ただでさえ無詠唱での魔法発動は、かなりの集中が必要だ。
それを口に出して言った魔法と違うものを発動させるのには更なる集中が必要だったが、特訓の甲斐があって上手くいった!
さっきまでオレには
それを体への負荷が少ない1.1倍で上書きしたのだ。
そしてバフとデバフは、基本的に相殺する側が同じ倍率以上の時のみ行える。
あと、これも新たにわかったことだが、受ける側が意識的に抵抗しなければ……バフもレジストされることはない。
「重ね掛け、
もう固有スキルの重ね掛けに関してはわざわざ口にする必要は全くないのだが、ここはあえて口にする。
そして切り札の1.8倍のカードを切ったと見せかけ、
突然、1.5倍で身体を無理やり強化している状態からバフが切れてしまえば身体を動かせないほどの激痛に襲われるのだが、段階を踏むことでそれは穏和できる。
しかし、あくまでも穏和だ。
その上、今回はさらに自分に0.66倍の
「ぐっ……」
練習では自分にデバフの重ね掛けを試したことはなかった。
想像していたよりも、ずっと激しい激痛と倦怠感に襲われ、一瞬視界が暗転しそうになる。
だが、なんとか踏みとどまって意識を保つことに成功した。
「ん…………」
オックスの目が一瞬細まったのが見えた。
気付かれたか……?
しかし、天井付近の影には気付いていない。
今からの行動が、オレの思い違いならこれで詰むことになるだろう。
だけど……
オレは扉に向かって一歩踏み出す素振りを見せたあと、反転してオックスたちに向かって駆け出したのだった。
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