微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸

【第1話:追放】

 冒険者ギルドに併設された酒場で、いつものように依頼の後の食事をしていると、オレが所属しているパーティー『猛き大斧』のリーダー、バクスから突然難癖をつけられた。


「え? オレのせいだって言うのか?」


「あぁん? フォーレスト! おめぇ以外に誰がいんだよ? たいして効きもしねぇバフしか出来ねぇ奴が、まだ自分の立場を理解してねぇのかよ?」


「そ、それは……」


「そもそも、なんで補助魔法使いの癖に、冒険者なんかやってんだよ?」


 補助魔法には大きく分けて二つの魔法しか存在しない。

 バフと呼ばれる味方を強化する魔法と、デバフと呼ばれる敵を弱体化させる魔法だ。


 ただ……デバフは強い敵にはほとんどレジストされるし、かと言って弱い敵だと、そもそもデバフをかけてもほとんど意味がない。

 だから、デバフを使っている補助魔法使いはほとんどいない。


 そのため補助魔法使いは、だいたいバフだけを使っているのだけれど、こちらもこちらで問題がある。

 バフの強化を考えなしにかけると、身体が耐えられず、味方に怪我をさせてしまうのだ。


 バフの限界は確認されていないが、普通は1.5倍までしか強化できない。

 その上、1.5倍まで強化する場合は、回復魔法使いが常時回復魔法を掛け続けなければ、途中で身体が持たなくて倒れてしまう。


 だから結局、普通の冒険者パーティーで使われるバフは、長時間の運用が可能で、効果が切れた後も後遺症の出ない1.2倍までで留めておくのが一般的だ。


 そして、これはオレにも全て当てはまる。


 デバフはオレたちのパーティーが戦うような魔物にはすべてレジストされてしまうから全く使わないし、かけれるバフの最大倍率も1.5倍だし、普段パーティーメンバーに使うバフも1.2倍までに抑えて使っている。


 本当は、オレの場合は固有スキルで重ね掛けが出来るのだが、これが全くもって意味がない。

 バフはそもそも1.5倍までしか身体が持たないし、デバフは重ね掛け以前にレジストされる……。


 まぁオレの固有スキルはともかく、これが、この世界において、冒険者の中に・・・・・・補助魔法の使い手がほとんどいない理由で、バクスがなぜ冒険者などやっているのかと怒鳴った理由だった。


 ただ、補助魔法使いが唯一必要とされている場所がある。


「騎士団で採用されるのなんて貴族の出じゃないと無理に決まってるじゃないか……」


 それが騎士団だ。


 騎士団と言っても、騎士ではなく従者としてなのだが、それでも普通の冒険者と比べれば格段に良い待遇だろう。


 冒険者の場合、戦う相手は基本的に魔物なのだが、魔物との戦いにおいては1.2倍程度の能力上昇では大した効果は期待できない。

 だけど、これが国同士の戦い……つまり、戦争などで人と戦うという話になると、この差が大きく生きてくるというわけだ。


 だから、騎士団では一定数補助魔法使いを募集しているのだが、魔法を使えるのは貴族出身の者が多く、平民のオレがそこへ割り込むことは不可能だった。


「あぁ、そんな事は知ってるってーの。でも、それが冒険者を続けている理由か? そんなのオレたちには関係ねぇよなぁ?」


「そ、その代わり! オレは中衛も兼ねて、後衛のローリエを守ったりしてるじゃないか!」


 オレも補助魔法使いとしての能力だけだと役に立たないのはわかっているので、普段から身体を鍛え、中衛として片手剣を持って、うちのパーティーの回復魔法使いであるローリエをいつも守っている。


 そう主張すると、バクスは苛立ちを抑えきれず、舌打ちをし、背中に背負っていた大斧の柄をガツンと床に叩きつけた。


「なっ!? 危ないなぁ! 何するんだよ!?」


「うるせぇ! そのローリエが倒れたのは誰のせいよ? お前が守り切れなかったんだろ? あぁん?」


「そ、それは⁉」


 今現在、ローリエは診療所に入院して治療を受けている。

 数日前、とある依頼で迷宮に挑んだ際、多くの魔物に囲まれ、ローリエを一人で守り切れずに怪我をさせてしまったのだ……。


 しかも回復魔法使いは、なぜか自身には回復魔法が効きにくいため、オレたちは急いで帰還することになった。

 幸いなことに命に別状はなく、数日で退院できるらしいのだが、依頼は失敗となってしまった。


「だ、だけど! あれはオレが危険だと言うのに、バクスが無視して進んだからだろ!!」


 そうなのだ。

 迷宮に挑んだ際に、地図を覚えるのも危険な場所を回避するのもオレの役目だと丸投げしている癖に、そのオレの言う事を聞かずに自分勝手な行動をしたのはバクスの方なのだ。


「人のせいにしてんじゃねぇよ! そもそもお前が俺ぐらい強けりゃ守れたんじゃねぇのか!? 実際、俺が駆けつけて魔物を一掃したよなぁ!」


 くっ……悔しいが、たしかにオレがバクスぐらい強ければ、ローリエに怪我をさせる事はなかったかもしれない。


 バクスは性格は最悪だが、こと前衛としての戦闘能力だけに限って言えば、この王都の中でも一目置かれる存在なのだ。


 実際、若手の中でなら『猛き大斧』は一番の成績を収めていた。


「ほら? 言い返せねぇよなぁ? だからさぁ……お前、今日で首な? 微妙なバフなどもういらないんだよ!」


「え?」


 一瞬、バクスが何を言ったのかわからなかった。

 いや、聞こえてはいたのだ。だけど突然すぎて、すぐに理解出来なかったんだ。


「聞こえなかったのか? お前は首だって言ったんだよ! まぁそもそも、さっきもう受付で追放キックの手続き済ませてきたから、お前はもううちのパーティーメンバーじゃねぇんだけどなぁ! ぎゃはははは!」

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