【第36話:切り札】
陣を離れ、ロロアと二人で歩くこと30分ほど。
教えて貰った辺りに近づくと、何かがオレたちの前を横切った。
「ん? こいつはメリアの……」
前を横切ったのは、メリアが召喚魔法で呼び出した
「わ。ピッチュちゃんですね!」
そのピッチュは、オレたちの頭の上を何周か回るように飛ぶと、ある方向に向かって飛び去っていった。
といっても、少し離れるとまた戻ってくるので、どうやらオレたちをサラマンダーの元まで案内しようとしてくれているようだ。
「ロロア、どうやら案内してくれるようだ。ついていこう。少し急ぐぞ?」
「わかりました! さすがメリアちゃんですね」
ロロアの了承を得ると、オレは軽い駆け足まで速度をあげ、ピッチュの後を追い始めた。
そこまでの速さではないので、これならロロアも問題ないだろう。
しかし、メリアに教えて貰った場所まであとわずかなはずだ。
いつサラマンダーと遭遇してもおかしくない。
いつ遭遇しても大丈夫なように、最大限に警戒を強めておこう。
そうして警戒を強めてからすぐ、少し走った時だった。
「なんだ? 旋回をしたまま移動しなくなったぞ?」
ピッチュが旋回を続けて移動をしなくなってしまった。
オレたちが遅れそうになると旋回して戻って来てくれていたが、今は同じ場所をただずっと旋回している。
「いったいどういう意味だ?」
「あっ、フォーレストさん、もしかして、もうこの先にサラマンダーがいるんじゃないでしょうか?」
「なるほど。確かにそうかもしれないな」
しっかり者のメリアの事だから、いきなりサラマンダーの近くまで案内せずに、ロロアの待機場所でまずは旋回させていると考える方が自然だ。
しかしそれなら、もうここで戦う準備を済ませてオレだけ移動した方がいいか。
普段のメリアなら、このあたりの話も先にしていたのだろうが、サラマンダーがすぐに見つかるとは思っていなかったから、ここまでの細かい話は詰められなかった。
「じゃぁ、ロロアはここで待っていてくれ。オレはバフを掛けてさらに進もうと思う」
「は、はい……本当に気を付けていってくださいね」
「任せてくれ。無理だと思ったらちゃんと逃げるから」
「無理な時は絶対にそうしてください。私の元まで戻って貰えれば絶対に治してみせますから!」
「その時は頼む。じゃぁ、行ってくる! ……
普段は1.2倍までに抑えているので、実戦で1.5倍を使うのは久し振りだ。
漲る力に一種の全能感のようなものを感じる。
だが、これは所詮人として考えた場合だ。
もともと人より数段優れた身体能力を持っている魔物と比べたら、少しその差が縮まっただけに過ぎない。
オレはその事を肝に銘じつつ走り出したのだった。
◆
走り出してすぐの出来事だ。
思わず身を竦めてしまいそうになる恐ろしい魔物の咆哮が響いた。
「っ!? これは……サラマンダーか……」
聞こえてきた咆哮は、まるですぐそばで吠えたように間近で聞こえてきた。
もう、すぐそこにいるのは間違いない!
あとは出来るだけサラマンダーにバレないように補助魔法の届く位置まで忍びより、一気に
相手が身体の異変に気付く前に出来るだけ回数を重ねておきたい。
「⁉ ……見つけた……」
薄っすらと燃える炎を身に纏い、威風堂々と佇むその姿は、まるでドラゴンを想起させた。
しかし、伝え聞くような激しい炎ではない。
はっきりと視認できるのは背中辺りの炎だけだ。
ただ、これはまだ戦闘状態に入っていないからだろう。
「そろそろ覚悟を決めるか……」
サラマンダーが
「だが……最初は気付かれないように……」
勝負だ! なんて気合いをいれながらも、見つからずに補助魔法が届く範囲まで近づくことが出来るかが戦いの勝率に大きく関わってくる。
今は恰好なんてつけている場合じゃないからな……。
だが、ここは森といっても木々の間はかなり開けており、下草もそれほど生えていない。
移動はしやすいし、戦闘になった際も戦いやすそうではあるのだが、その代わりに隠れる場所がほとんどない。
オレは緊張で額に汗を浮かべながら、サラマンダーの死角に入るように大きく迂回し、その後方へと回り込み近づいていく。
ここまでは順調だ。
それに運の良いことに、サラマンダーの斜め右後方には大きめの木が一本生えている。
あの木の影に辿り着ければ……そう思い、一息ついた瞬間だった。
「っ!?」
まさか……気付かれていたのか!?
突然、サラマンダーがこちらを振り向いた。
しかも、その大きく開けた口には……既に火が蓄えられていた。
「いきなりかよ!?」
もう隠密行動は意味がない。
オレはそのまま横に走り出すと、川に飛び込むように前方に身を投げた。
「っ!?」
その瞬間、オレが元いた場所を真っ赤な何かが通り過ぎていき……熱波を散らしながら爆発した。
だが、何かなんて確認しなくてもわかっている。
「あぶねぇ……初撃がファイヤーボールって……」
こうしてサラマンダーとの戦闘は、いきなり奴の切り札ともいえる攻撃から始まったのだった。
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