【第52話:勝利の行方】
ゴーレムの拳が振り下ろされ、砕かれた地面が轟音と共に爆散する。
それを距離を取ってなんとか躱し、次のミスリルゴーレムの攻撃に備えて身構える。
基本的にミスリルゴーレムの攻撃は至ってシンプルだ。
それは拳による攻撃。
しかし、その質量と力が生み出す威力は凄まじかった。
「くっ!? いよいよシャレにならない力になっきたな!」
「ちょっと~! これ掠っただけでおしまいよ! 気を付けなさい!」
さすがに前衛としてはフィアの方が一枚上手だ。
オレがギリギリで躱しているミスリルゴーレムの攻撃をまだ少し余裕を持って躱していた。
「わ、わかっている!」
もう既にミスリルゴーレムには10を超える
ただ、ゴーレムの動作が魔力によるところが大きいのか、実際の倍率ほどにはスピードが上がっていないのが救いだろうか。
と言っても、掠れば死か致命傷が待っている。
一時たりとも油断できない状況だった。
「
なんとか隙をついて三連続のバフをかけることに成功するが、また目に見えてゴーレムのスピードが上がった気がする。
ミスリルゴーレムは普通の魔物以上に謎の多い魔物のため、本当にこれでダメージが入るのか不安になってくる。
「くっ……いい加減壊れろ!!」
「きゃ⁉ あ、あぶなかったわ……」
そしてオレ以上に、至近距離で戦っているフィアが辛そうだ。
今もスピードがあがったためにミスリルゴーレムの攻撃をよける余裕が消え、破壊されつくした地面に足をとられそうになっていた。
しかし、そこですかさず回復魔法が飛んできていた。
「お姉ちゃん!
「ロロア、ありがと!!」
ただ、もう戦い始めて一〇分は経過しており、一向に終わりの見えない状況に焦りが出始めていた。
「お兄ちゃん! 向こう側に魔物がいないのは確認したわ! 移動して大丈夫よ!」
「わかった! ここももう地面がボロボロだ。フィア! 向こうにゴーレムをひっぱっていこう!」
あまりにもミスリルゴーレムの攻撃に威力があるため、一撃ごとに地面が破壊され、暫くすると周辺の足場がなくなってしまう。
そのため、メリアには索敵してもらっていた。
ダンジョンを徘徊している魔物がいない方向を確認してもらい、一定時間ごとに戦いの場を移動するためだ。
「そうね! 足場がこれじゃ、避けれる攻撃も避けれなくなっちゃうわ! じゃぁ、次の攻撃を避けたら移動しましょ!」
「わかった!」
こうしてミスリルゴーレムとの戦いは、激しさを増していった。
◆
さらに一〇分ほどの時間が経とうとしていた。
そして、ここに来て恐れていたことが現実味を帯びてきてしまった。
「不味いな……」
思わず口からこぼれた小さな呟きだったが、こういう時に限ってフィアに拾われてしまう。
「ちょ、ちょっと! 不味いってなにが不味いのよ!」
今の所、何度か危険な場面はあったものの、順調に戦闘は続けられている。
しかし、ここまでミスリルゴーレムが頑丈なのは予想を遥かに超えていた。
ミスリルゴーレムが強化されたことで、バフをかけるのが難しくなってきたことが大きい。
このペースだと不味いかもしれない。
今さら隠しても仕方ない。
オレはその理由をそのまま皆に聞こえるように大声で叫んだ。
「オレが限界まで魔力を込めて放つバフの効果時間は……三〇分なんだ!」
「え!? ちょ、ちょっと! あとどれぐらい残ってるの!?」
「そ、そんな……」
フィアとロロアの二人が焦るのも当然だ。
三〇分を過ぎてしまえば、今までの戦いよりもずっと早いペースでかけ続けなければ永遠に勝てなくなってしまう。
そして、オレたちの残りの体力や魔力を考えれば、それはほぼ不可能だろう。
「すまない。さすがに正確な時間まではわからない」
魔道具の時計はそれほど高くないので持っているが、ここまで戦いが長期戦になるとは思っておらず、正確な時間は計測していなかった。
まぁ、そもそも時間を確認するような余裕もないのだが……。
「残りの時間はあと七分だよ! 身体能力向上の重ね掛け回数は17回! だいたい1000倍ぐらいだよ!」
自分の妹ながら優秀過ぎて恐ろしいな……。
正確な残り時間がわかるだけでも助かった。
しかし、1000倍など未知の領域だ。
これほどのバフの負荷がかかっていても耐えられるものなのか……。
本当に倒せるのかと不安が脳裏をよぎる。
もし三〇分を超えてしまうようなら、撤退戦なども考えなければならない。
そうなると更に厳しい戦いになるだろう。
そう思った矢先だった。
「きゃぁ⁉」
ミスリルゴーレムが破壊した岩の欠片が後方で索敵をしていたメリアに直撃してしまう。
「メリア⁉ 大丈夫か!?」
妹の額から垂れる赤い雫に動揺したのが不味かった。
「フォーレスト!」
「フォーレストさん!」
今度はオレに向かってミスリルゴーレムの拳が迫っていることに気付くのが遅れてしまった。
フィアとロロアの悲鳴のような叫び声を浴びながら、オレは死を覚悟した。
避けられない!?
そう思ったオレは咄嗟に盾を身構え……無意識のうちに補助魔法を唱えていた。
「
「お兄ちゃん逃げて!!」
無理だ。ゴーレムの身体が大きいから、そこまで早くないように感じるが、単純な速度はオレを上回っている。
「……
無駄だとわかっていつつも盾を掲げ……凄まじい衝撃を受け流そうとし、次の瞬間には数メートル後ろに吹き飛ばされていた。
「か……はっ……」
左腕に激痛が走り、一瞬の浮遊感のあと、地面にぶつかり全身を強く打つ。
胸の空気が全部押し出されたような苦しみで息が出来ない……。
「フォーレスト!?」
「お兄ちゃん⁉」
遠くでフィアとメリアの悲鳴のような声が聞こえる。
だが激痛に耳鳴りが加わり、上手く聞き取れなかった。
ただ……次の瞬間にはオレの体は優しい光に包まれていた。
「
痛みが急速にひいていくが、みんながオレに注力してしまうと戦いの均衡がくずれてしまう。
だけど、そんな心配は不要だった。
「よくもフォーレストを!! 私が相手よ!!」
フィアがすかさずオレとミスリルゴーレムの間に入り、槍を構えるのがまだ霞む目で確認できた。
「あれ? お兄ちゃん……もしかして……」
しかし、そんな追い詰められた状況の中でメリアの静かな声が響く。
「な、なんだ?」
その異変はオレもすぐに気付いた。
ミスリルゴーレムが動きを止めていたのだ。
「はっ!? フィア!! 離れろ!!」
オレの言葉に反射で飛び退き距離をとるフィアの目の前で、ミスリルゴーレムに無数の罅が入り……そのまま細かい欠片となって崩れ落ちたのだった。
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