【第34話:拠点づくり】
久しぶりに家族と、そしてパーティーの仲間と一緒に楽しい時間を過ごした翌日。
オレたちは朝早くに馬車に乗って実家を出て村の外までやってきていた。
これから冒険者ギルドで教えて貰った、衛兵の一部隊が全滅したと思われる場所へと向かう予定だ。
ただ、場所が森の中という事もあり、目的の場所までは馬車で行くことはできない。
そもそも街道からまったく離れた場所であり、村を出てすぐにあぜ道を進む事になる。
それでも馬車に乗って来たのは妹が同行しているという理由が大きい。
ただ、一人納得していない人物が……。
「どうして!? 私も一緒に行くから!」
「だから、フィアには妹を守っていて欲しいんだよ」
オレの立てた作戦はこうだ。
まず目的地近く、馬車で行ける所まで進み、簡単な陣を張って拠点をつくる。
そこからメリアに召喚魔法で
と、ここまではフィアも文句はなかったのだが、もしサラマンダーを発見した場合、オレとロロアの二人で向かい、フィアにはメリアを守るために馬車に残って欲しいと伝えたことに反対しているのだ。
「でも……私がいないと実質フォーレスト一人で戦う事になるじゃない!」
「いや、確かにそうなんだが……」
オレは言うか言うまいか迷ってからもう一度口を開いた。
「サラマンダー相手に限って言えば、どのみちオレだけで戦うことになるだろ?」
「そ、そんなこと……」
「いいや。サラマンダーに近づいて攻撃するのはリスクが多すぎる。それぐらいフィアならわかっているだろ?」
サラマンダーは常に炎を纏っている巨大な魔物だ。
しかも戦闘中はさらに多くの炎を噴出させるらしいので、近づいて近接攻撃を加えるのは難しいだろう。
それに、今回はフィアにまで補助魔法を使う余裕がない。
出来るだけ素早く、サラマンダーに一気に魔法を重ね掛けしないといけないので、自分に最低限の強化をかけるだけで手いっぱいになるはずだ。
だからロロアもついて来て貰うが、かなり距離を取って、危ない時だけ近づくことにしている。
このあたりのことはちゃんと話したので、フィアだって全てわかっているはずなのだが、それでも気持ちが収まらないといった感じなのだろう。
「わかってるわよ……今回に限っては私はいてもいなくても同じだろうって事も……でも、それでもやっぱり同じパーティーの仲間なんだから、何か力になりたいじゃない!」
そんな風に想ってくれていたとはな……。
「そうか……ありがとうな。二人と仲間になれて良かったよ」
「ちょ、ちょっと!? そんなあらたまらないでよ!?」
特にあらたまったつもりはなかったのだが、フィアがそんな風に騒ぎ出すから、なんかオレも変な感じになってしまったじゃないか……。
「へ~、あのお兄ちゃんがね~」
「な、なんだよ?」
なんかメリアの視線が痛い……。
こういうのをジト目と言うのだろうか。
「ふふふ。フォーレストさんもお姉ちゃんも、お話はその辺にして陣の設置をしませんか?」
「あ、あぁ! そうだな! 暗くなる前に終わらせてしまおう!」
陣と言っても、大掛かりなものではない。
魔物が嫌がるとされている
この魔物除けの粉末では、低ランクの魔物の接近しか防げない。
それを補うのが警戒用の魔道具で、これは単純に大きな魔力に反応して光るようになっている。
つまり魔物除けの粉末で低ランクの魔物の接近を防ぎ、それを突破するような大きな魔力を持つ高ランクの魔物の接近は、警戒用の魔道具で事前に察知してあとは自力で対処するといった形だ。
この世界において、魔物が出没する地域を馬車で移動する際にはよくとられる方法だ。
「こっちは終わったわよ~」
フィアは魔物除けの粉末を撒き、ロロアは魔道具の設置、メリアは馬の世話をして貰っていた。
それでオレは、少し早めの晩飯の準備だ。
晩飯と言っても、今晩に限っては村を出る時に買っておいた肉を挟んだパンがあるので、スープを温めるために火を起こしておいただけだが。
「フォーレストさん、こちらも警戒用の魔道具の設置、終わりました」
「二人ともありがとう。で……メリアも終わったみたいだな」
「うん!」
みんな振り分けられた作業が終わって集まって来たのだが、晩飯を食べる前にメリアにお願いしないといけないことがる。
「メリア。悪いが晩飯を食べる前に召喚魔法を頼めるか?」
「そのつもりだったよ~。ちょっと待ってね」
メリアの召喚魔法では、まだ
「
手のひらを上に向けて前に突き出すと、その言葉とともに淡い光が灯り、一羽の小鳥が姿を現した。
ここまでわずか数秒だ。
魔法を扱うには集中したのちに魔力の展開が必要なのだが、小鳥を召喚するまでにかかる時間の短さを考えると、魔法を覚えたてだとはとても思えない早さだ。
「すごいな。もう十分魔法を使いこなしてきている」
「うん。メリアちゃん、凄いよ。私なんて魔法が使えるようになってから、素早く発動できるようになるまで一年はかかったよ」
いや、普通は一年でも早い方だ。
オレは補助魔法が使えるようになってから、毎日へとへとになるまで練習して、それでも一年ちょっとはかかっていた。
「へへ~ん♪ 天才メリアちゃんに任せて♪」
「調子に乗るんじゃない」
「えへへ♪ だって、ずっと今まで隠れて練習してたから、こうして披露できて嬉しいんだもん」
まぁ気持ちはわからないでもないが、あまり褒めすぎて本当に調子に乗って失敗とかされては困る。
「それよりも、少し早いが晩飯にしよう」
我が妹ながら、これから末恐ろしいな。
そんなことを考えながら、オレは取り出したパンに噛り付いたのだった。
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