【第33話:平和なひと時】

 メリアは自分が召喚魔法が使えるようになったこと、そしてこの数日、村の周りをずっと探していたにもかかわらずサラマンダーなど一度も見ていないことなどを話していった。


「はぁ……メリア、黙っていて良い事と悪い事があるぞ」


「そうよ! 召喚魔法のことはともかく、そんな危険な情報を掴んでいたのなら、どうして母さんたちに相談しなかったの!!」


「ご、ごめんなさい……でも、サラマンダーなんてどこにも居なかったから!」


 常に火を纏っているサラマンダーなら、夜に探せば見落とす事はないはずだ。

 だから、メリアの考えは理解できなくもないが、やはり相談ぐらいはしておくべきだっただろう。


 だから……オレに助け船を出せとジト目で見つめて訴えられても困るんだ……。


「しかし、サラマンダーがいないということはダンジョンに戻ったと考えていいのだろうか? 見つからない場合、フォーレストたちはどうするつもりなんだ? 見つからない場合は何をもって調査終了となるんだ?」


 父さんの言う懸念はオレも感じていた。

 正直、村を救う事で頭が一杯だったのもあり、まさかサラマンダーを見つけられないかもしれないとは考えていなかったからな。どうするべきか……。


 オレのパーティーは戦闘に関しては比較的バランスは良い方だと思うのだが、偵察や斥候に長けたメンバーがいない。


 あまり巻き込みたくはなかったが、こうなるとやはりメリアを頼るべきなのだろうな。


「メリアにサラマンダーの捜索を手伝って貰おうと思ってるんだ。それでも見つからないようなら、冒険者ギルドに状況を報告して判断を仰がないといけないと思う」


 いることを証明するより、いなくなったことを証明する方がかなり難しい。


「任せてよ! 毎日練習したお陰で小鳥ピッチュちゃんを飛ばせる範囲もかなり広くなったし、時間もかなり長時間でも大丈夫になったから!」


 母さんが凄く何か言いたそうにしているが、実際役に立つ提案なので眉間に少し皺を寄せて黙っているみたいだ。

 メリアが少し勝ち誇った顔をしているが、これは後でこってり絞られるパターンだな。


 オレは変わらない家族のやり取りを見て、なんだか暖かい気持ちになった。


 だけど……それなら尚の事、この依頼をしっかりこなさなければならない。

 サラマンダーがいるのなら退治し、いないのなら隅々まで探しつくして安心させてあげなければ。


 そんな風に決意を新たにしていたのだが……。


「いろいろ大変そうなのはわかったけど、まずは食事をして、移動の疲れを癒しなさい。フィアちゃんとロロアちゃんは好き嫌いとかない? あ、荷物はそっちに置いていいわよ。それから……」


 母さんに話の主導権を奪われ、まずは移動の疲れを癒す事になったのだった。


 ◆


 久しぶりに母さんの料理に舌鼓をうち、ゆっくりしたのち、フィアとロロアの二人に少し村を案内する事になった。


 もちろん妹のメリアも一緒だ。


「へぇ~、こうして見ると、やっぱり小さな街とあまり変わらない感じね。正直、もっと田舎を想像してたわ」


「お姉ちゃん、失礼だよ!」


「ははは。かまわないさ。王都に出てわかったけど、田舎には違いないしな」


「いいなぁ~。私も王都行ってみたい!」


 そんな会話をしながら向かっているのは、この村で一番いろいろな店が集まっている大通り。

 村の中央の広場から四方に伸びたその道が、この村で人が一番集まっている場所でもある。


「あっ! あそこだよ! フィアさん、ロロアちゃん、ここのケーキがすっごく美味しいの!」


「ケーキか~。暫く食べてなかったが、たまにはいいな」


 オレも甘いものは好きだし王都には評判のケーキ屋などが何軒もあるが、砂糖などの甘味料は少し値が張るので、今までは金銭的にも食べようとは思わなかった。


 でも今は懐には余裕があるし、甘いものは疲れを癒す効果があるとも聞く。

 英気を養うためにも……というのは大袈裟だが、今日ぐらいは良いだろう。


「お兄ちゃんの奢りだし、いっぱい食べようね♪」


「わっ♪ フォーレストの奢りなの! じゃぁ私もいっぱい食べよっと♪」


「あの……いいんでしょうか?」


「お、おう! 気にせずいっぱい食べてくれ!」


 ま、まぁ今日ぐらいは……。


 でも、お金はあるけど、普段から全額持ち歩いているわけではないので、ちょっと足りるか心配になってきたな……。


「わぁ♪ 凄く可愛い店ですね!」


「そうでしょ! 二ヶ月ぐらい前にオープンして、その時から可愛い店だなぁって気になってたんだけど、そこで出すケーキも美味しいって評判になっててずっと来たかったんだ~♪」


 たしかに外観も可愛らしい作りをしている。

 この村では珍しい真っ白の漆喰の壁に、赤く塗られた扉や窓枠。

 店の中に入ってみれば、ドライフラワーなども飾られており、かなりセンスの良い人が店をだしているように思える。

 しかし、王都でならよくみかける程度の大きさなのだが、この村には不釣り合いの広さだ。


 そんな風に店の中を興味深く眺めていると、暫くしてから女の子が元気な声で出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ~! 四名様ですね! こちらへどうぞ~♪」


 オレより少し上に見える女の子はそう言うと、光の指し込む窓際の席まで案内してくれた。


 ◆


「美味しい!! なにこれ!? 王都の有名店のケーキより美味しわよ!」


「わぁ……お姉ちゃんの言う通りだね……これは、美味しい……」


「ん~♪ 私も早く稼げるようになって通わなきゃ!」


 三人が興奮気味に叫ぶのもよくわかる。

 あまりの美味しさに、オレもあっという間に食べきってしまった。


「店員さ~ん! これ! これもう一つお願いします♪」


「フィアさんずるい! 私も同じ物を♪」


「ふふふ♪ だって、美味しいんだもの♪ あっ……ロロアももう一つ食べられるわよね? じゃぁ、さらにもう一個追加で!」


 結局その後、フィアとメリアは更にもう一回ケーキのおかわりをし、最後に全員で紅茶をおかわりした所でようやく落ち着いた。


「いや、確かに凄い美味しかったが、よく三個も食べられたな……」


 オレも凄い美味しかったので結局もう一回おかわりしたのだが、ちょっと甘さがきつくて二個が限界だった。


「だって美味しかったんだもん♪ お兄ちゃんたちと違って私はまだ稼ぎがないから、次いつ来れるかわからないし~」


「ん~、じゃぁ母さんにいくらかお小遣いを預けておくから、また間空けてから母さんと食べに来るといいよ」


 直接メリアにお小遣いを渡すと毎日来そうだからな……。


「う……嬉しいけど、複雑……」


 こうしてその日は、この後も村を少し案内し平和な一日を送ったのだった。


 しかしオレは、この平和なひと時が、なぜかまるで嵐の前の静けさのように感じ、その日一日どこか落ち着かない気分だった。

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