【第32話:両親】

 なんでもない平凡な一軒家。

 大きくもなければ小さくもない普通の家。


 でも、久しぶりに見るその家はなんだか少し小さく見えた。


「ただいま~♪」


 メリアが元気よく扉を開けたところで、すぐに懐かしい顔が出迎えてくれた。


「おかえ……り……フォ、フォーレストなのかい?」


 母さんの発するその一言に、オレは苦笑いを浮かべながら頷く。


「あぁ……ただいま。母さん」


 しかし、驚き喜ぶ母さんは、オレの後ろから現れたメリアを見ると、少し眉根を寄せて……。


「メリア……あなた、知ってたのに黙ってたわね! もう!」


 またやったわねと口を尖らせた。


「ははは……な、なんのことかなぁ~?」


 妹は人に迷惑をかけるようなイタズラはしないが、ちょっとしたイタズラとか人を驚かせるのが大好きだ。

 そのため、オレも含めて昔からよくこういうことをされていた。


「まぁメリアは後でしっかり絞るとして、フォーレスト……顔を見れて安心したわ。おかえり」


「ただいま。母さん」


「ぇぇぇ……絞るって……」


「あら? 何か文句でも? ……ん? メリアはいいとして、そちらのお嬢さんたちは?」


 メリアから一歩引いた位置に立っていたので気付くのが遅れたのだろう。

 フィアとロロアのことを見つけて尋ねてきた。


「あぁ、紹介するよ。オレのパーティーの仲間で……」


 と言って後ろを振り向くと、オレは緊張した様子の二人に話を引き継いだ。


「はは、はじめまして! フォーレストとパーティーを組ませて貰っているフィアと言います!」


「あ、あの……わ、私は、私はロロアと言います!」


 それにしても二人ともガチガチだな。

 まぁオレも、もし二人の両親と会うとなったら緊張しただろうし仕方ないか。


「二人は姉妹なんだ。依頼ではいつも助けて貰っている」


「「そんなことは⁉」」


 オレの言葉を聞いて慌てて否定していたが、いろいろと助けられているのは間違いなく事実だ。


「まぁまぁ♪ そうなのね~。フォーレストは、のめり込むと周りが見えなくなるところがあるから迷惑をかけるかと思うけど、仲良くしてあげてね~」


「冒険者になるって言いだした時もそうだったもんね~」


 それを言われると辛い。

 実際、その通りだ。


 あの時に両親と妹の反対する言葉に耳を傾けていたら、きっとあんなことにはならなかっただろう。


 だけど……あの時に反対を押し切って冒険者になったからこそ、今のオレがあるし、フィアとロロアにも出会う事ができた。


 そして、あの事件があったからこそ補助魔法の可能性に気付くことも出来たんだ。

 だから反省はするけど後悔はしていない。

 これはオレの中の戒めとして、ずっと忘れずに抱えていくべきことだ。


 ただ、やはり親や妹を心配させたのは悪いと思っている。


「あの時は本当にごめん……でも、後悔はしていないからさ」


「わかってるわ。これでもあなたの母親なのよ? それよりも、いつまでそんなところで突っ立ってるつもり? フィアちゃんとロロアちゃんも入って入って!」


 母さんに言われて、フィアやロロアを玄関で待たせてしまっていた事に気付いて中に招き入れる。


「そうだわ! ちょっとメリア、あなたお父さんを呼んできてよ」


「うん! じゃぁ、お兄ちゃん、ゆっくり家で待ってて! フィアさんとロロアちゃんも自分の家だと思って寛いでね!」


 なんだか二人に主導権を握られ、オレたちはそのあと暫しの間、移動の疲れを癒したのだった。


 ◆


 メリアが父さんを呼びに行ってから約三〇分。

 話し好きな母さんに圧倒されつつも、四人で楽しい歓談の時間を過ごした。


 そして三〇分を少し過ぎたころ、メリアが父を連れて家に帰ってきた。


「ただいま~! 父さん連れてきたよ!」


「フォーレスト! 突然だから驚いたぞ? しかし、良く帰って来てくれたな。元気にしてたか?」


 父さんは村一番の大店で働いているのだが、友人の店なので無理を言って帰らせて貰ったのだろう。なんだか申し訳ない。


「突然でごめん。ちょっと村近くの依頼を受けてね。それで立ち寄らせて貰ったんだ」


 父さんが来てから話そうと思っていたので、依頼についてはまだ母さんにも話していない。

 心配されるのはわかってはいるが、嘘を吐いたり隠したりするのもしたくはなかった。


「父さん、母さん、実はこの街に来ることになった依頼なんだが……」


 だから……オレは覚悟を決めて、依頼の内容を包み隠さず全て話した。




「フォーレスト……あなたがシルバーランクになったというのも驚きなんだけど、その依頼はあまりにも危険すぎるわ」


「うむ……そうだな。フォーレストが街を想う気持ちは親として誇らしいが、余りにも危険すぎる。たとえそれが、補助魔法の新しい可能性を見いだしていたとしてもだ」


 予想通り反対されてしまったが、でも、これは仕方ないだろう。

 親が子供を心配するのは当たり前のことだ。


「でもね。オレがやらなくちゃこの依頼はきっと放置されていたと思うんだ」


 衛兵の一部隊が全滅したんだ。

 余程の事情がない限り、冒険者がこのような依頼を受ける事はないだろう。


 そう言った事の経緯をさらに詳しく説明したのだが、余計に反対が強くなってしまった……。


「衛兵が全滅ですって!? どうしてそんな危険な依頼を受けたのよ!」


「そんなの決まってるだろ。母さんは、自分の故郷が大きな被害を受けるかもしれないというのに黙っていろっていうの?」


 ここまで話さなくても良かったのかもしれないが、親に黙って依頼を進めるのは嫌だった。


 かと言って納得して貰うのが難しいのはわかっている。

 でも、理解はして欲しかった……。


 どう話せばいいかと悩んでいると、そこでメリアが話に割って入ってきた。


「もう……仕方ないわねぇ。本当はもっと勿体ぶっておくつもりだったのに……」


 そう言って、メリアは召喚魔法の事について話し始めたのだった。

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