【第31話:冒険者ギルド出張所】

 馬車に乗って四人で中央広場まで移動すると、冒険者ギルトへとそのまま向かった。

 デルナークの村の冒険者ギルトは正式には出張所なのだが、村は王都などに比べて土地に余裕があるので、建物の大きさだけは他の街の冒険者ギルドと遜色はない。


 まぁただ、そこに集まる冒険者の数はかなり少ないのだが。


「あら? 人が少なくて、空いてていいわね」


「お姉ちゃん、そういうこと大きな声で言わないで……」


 姉妹のやりとりに苦笑いで応じながら、受付へと歩いていく。

 すると、奥にあるカウンター越しに少し年配の受付嬢が声を掛けてきた。


「あら? 見ない顔ねぇ。いらっしゃ~い。今日はどのようなご用件かしら?」


 オレは王都に移動してから冒険者登録をして、それ以来ずっと王都で活動していたので、ここの冒険者ギルドにはほとんど来た事がない。

 顔を知らないのも当然だろう。


「はい。実はこの依頼の件でお話を聞きたくて……」


 オレはそう言いながら、銀色に輝くギルドカードと依頼書の写しを手渡した。


「え? その若さでシルバーランク……」


 王都の冒険者ギルドではもう顔を覚えて貰ったので、このような反応をされることはなくなったのだが、久しぶりの反応になんだかちょっと照れくさい。


「あ、ごめんなさいねぇ。それで、こっちは依頼書かしら?」


「はい。この依頼について一通りの情報をお願いします」


 一応、王都の冒険者ギルドでも説明は聞いているのだが、詳細な情報などは現地の冒険者ギルドの方が持っている場合も多い。

 ここへの移動中に新しい情報が入っている可能性もあるので、まずは冒険者ギルドへ話を聞きにきたという訳だ。


「わかったわ。ちょっと待ってねぇ」


 そう言って依頼書に目を通すと、今度は目を見開いて驚いた表情で固まった。


「……ほ、本気なの? この依頼がされた経緯とかちゃんと説明受けてる?」


 心配そうに尋ねてくる受付嬢に、問題ないと軽く王都で受けた時のことを説明する。


「そ、そう。この村の出身だったのね……」


「はい。活動していたのは王都ですが」


「ん~、この街のことを想って受けてくれたのなら、もうこれ以上は何も言えないわね」


「ちゃんと危険なことも承知の上で受けた依頼なので、そうしてくれると助かります」


 その後、どの辺りで衛兵隊が全滅したのか、ダンジョンが発見された場所はどの辺りなのか、今は被害は出ていないのか、サラマンダーの目撃報告は? など一通りの話を聞いた。


「ん~、特に新しい情報などはないか……」


「ある程度の正確な場所の確認が出来ただけでも良かったんじゃない? それに……メリアちゃんが探すのを協力してくれるみたいだし、まずは作戦を練り直しましょうよ」


 フィアが言っているメリアの協力というのは、さっき馬車に乗っている間に後ろで何か話していたことだろう。

 詳しくは聞いてないのだが、どういうことなのかはだいたい想像がつくし、まだ召喚魔法のことを隠したいという事だから、確認はここを出てからでいいだろう。


「そうだな。わからないからこその調査依頼なわけだし仕方ないか」


 それからいくつか更に確認をしたあと、オレ達は礼を言って冒険者ギルドを後にした。


 ◆


 冒険者ギルドを出たあと、両親に挨拶しないわけにはいかないので、もう一度馬車に乗って自宅へと向かった。


 その道中、オレは御者をしながら後ろに乗る皆とこれからの話を詰めていた。


「じゃぁ、まずはオレの家に馬車を預けて昼食を食べたら、さっそく向かってみるか」


「え!? 今日、家に泊まらないの?」


 メリアが驚いて尋ねてくるが、黙って頷きを返す。

 これは元々フィアとロロアの二人とも話し合って決めていたことだ。


 決めていたことなのだが……。


「いいじゃない。今から探しに行っても出来る事は限られているし、今日は実家に泊まったら?」


 と言って、反対されてしまった。


「そうですよ。メリアちゃんが協力してくれる事になったんですし、私たちが闇雲に探し回るより良いと思いますよ」


 冒険者ギルドを出て確認したのだが、やはり予想通り、妹の召喚する小鳥を使ってサラマンダーを探して貰おうという話だった。


 あらかじめ空から偵察できるのならば、見つけてからその場に急行するという選択肢が取れる。

 当初は自宅に馬車を置いていくつもりだったが、メリアを連れて行けば馬車をメリアに預ける事ができ、離れていればメリアの安全も確保できるので、現場少し手前まで馬車で向かうのが良さそうだ。


 やはり作戦をもう少し練り直した方がいいだろう。

 そのためにも行動は明日からの方が良い。それはわかっている。


 わかってはいるのだが……。


「まぁ確かにメリアの協力をえられることを考えれば、その通りなんだが……」


 正直に言うと、両親や妹の反対を押し切って冒険者になって家を飛び出しておいて、簡単に騙されて死にかけたこともあり、あまり親に合わす顔がない……。


 一晩泊まるという事になれば、否が応でも長時間親と話す事になる。


「そういうのは先延ばしにすると、ずるずるといって余計に会いづらくなるから観念しなさい」


「いくら無事な連絡を受けていても心配されていると思うので、私もしっかり会って話をして安心させてあげた方が良いかと……」


 正論を言われて返す言葉がない……。


「観念して怒られてね。お・兄・ちゃ・ん」


「わ、わかった……」


 こうしてオレ達は、そのまま皆で自宅へと向かったのだった。

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