【第12話:赤い髪】

「つ、疲れた……」


 オレは宿屋のベッドに身体を預け、一言呟いた。


 あれから集まっていた冒険者に向けて色々と説明してみたのだが、その時点で逃げるように離れていった奴も多く、オレの話を聞いてくれていた奴も、どこか疑い深げだったので、もう本当になるようにしかならなさそうだ。


 結局、お金こそ預ける事は出来たが、依頼も仲間の相談もできず、その日は冒険者ギルドで紹介して貰った宿にさっさと向かって休むことにし、今に至るという訳だ。


「しかし、これからどうするかなぁ……」


 オレは薄汚れた天井をぼんやり眺めながら一人また呟いてみるが、口に出してみた所で何かが思いつくわけもなく……。


「そもそも『断獄のフォーレスト』ってなんだよ! 怖すぎだろ!」


 二つ名とか本当に一部の一流の冒険者にしかつかないものだし、ちょっとだけカッコイイとか思わないでもないが、あまりにもオレに不釣り合いだ。


 それから暫くうだうだと色々考えていたのだが、やはり疲れていたのか、いつの間にか寝てしまっていた。


 ◆


 翌朝、いつもより少し早く起きたオレは宿で朝飯を食べると、すぐに冒険者ギルドに向かう事にした。


 一人で出来る依頼を何か受けるつもりだ。


 天気も良く、徐々に目覚め始めた街の様子に、ちょっと気持ちが洗われる。


「今日から新しい一歩を踏み出すんだ。頑張らないとな」


 冒険者ギルドに着くと視線が集まった気がしたが、自意識過剰なだけだという事にして、気にせず受付へと向かう。


 依頼を貼りだす掲示板があるので、そこでめぼしい物を見つけて持って行けば早いのだが、全ての依頼が張り出されているわけではないので、受付で実力にあったものを斡旋して貰う事もできる。


 今まで受ける依頼はバクスが独断で選んできていたので、オレが依頼を選んだことは一度もないのだが、だけど実際にはオレが依頼書を渡され、下調べから必要な準備まで全てやっていたので、そこまで戸惑うようなことはないだろう。


 ただ、今オレは一人なわけで、どのような依頼が適当なのかが判断がつかない。


 という訳で、掲示板の方には向かわず、受付へと向かったのだが、


「あっ、フォーレストさん! おはようございます!」


 今回も偶然シリアが受け持っている受付だったようだ。


「おはよう。昨日は、騒ぎになってしまって、すまなかったな」


 オレが悪いわけでは無いと思うが、昨日はちょっとした騒ぎになってしまったので、一言謝っておく。まぁ原因がオレなのは間違いないしな。


「そんな! フォーレストさんは悪くないですから!」


「そ、そうか。まぁそう言って貰えると助かるよ。それで早速なんだが、オレ一人で出来るような適当な依頼を斡旋して貰えないか?」


 シリアが大きな声を出すから、危うくまた注目が集まる所だった……。

 今は朝の混雑する時間で他の冒険者も忙しい奴が多いので助かった。


「ソロ依頼ですか。ちょっと待ってくださいね~」


 手元に依頼書の束をいくつか取り出すと、慣れた手つきでぺらぺらとめくっていく。

 すると、一分も経たないうちに三枚ほどの依頼書を抜き出した。


 え? もう見繕ったのか?


 あまりにも早いのでちょっと驚いていると、オレの様子にも気付かず説明をし始めるシリア。

 意外と受付嬢としては優秀なのかもしれない。


「とりあえず三つほど選んでみたので、まずは軽く順に説明していきますね。まず一つ目はゴブリンの集落の殲滅で……」


「ちょっと待てぇ!?」


「え? どうされたのですか?」


「オレは、一人で出来る依頼を・・・・・・・・・と頼んだのだが?」


「はい。だからゴブリンの集落のせ……」


「だから、ちょっと待てって! どうしてそこでゴブリンの集落の・・・殲滅依頼になる!? オレにあった依頼を紹介してくれ」


「はい。ですから、シルバーランク冒険者向けの依頼から、比較的難易度の低いものを選んでみたのですが?」


 はっ!? そう言う事か!?


「り、理由はわかったが、出来ればもう少し難易度の低いものはないか? ソロでの依頼は初めてだし、普通にブロンズ向けの依頼を頼む。まだオレ自身どこまでやれるか自分の実力を測りかねているんだ」


 そう言って、別の依頼を探して貰おうと思ったのだが、そこで後ろから声をかけられた。


「ねぇ。あなたが『断獄のフォーレスト』かしら?」


 振り向くとそこには、二人の女性の姿が。


 一人は、女性としては長身の、燃えるような赤い長い髪の冒険者。

 背に槍を携えていることから、槍使いだと思われる。


 もう一人は、その背に隠れるようにしている同じく赤い髪の女性……というか少女で、少し短めの髪を左右で束ねた冒険者。

 こちらは短い杖を腰に差している。

 攻撃魔法を使う魔法使いは長い杖を、回復魔法を使う魔法使いは短い杖を用いるので、恐らく回復魔法使いだろう。


 ちなみに杖を持たないのは、補助魔法使いぐらいだ。


「……二つ名を貰うような立派な者じゃないんだが、確かにオレがフォーレストだ」


「そう。あなたがねぇ~。ふ~ん……」


 いったいなんだ? 舐め回すようにこちらを見てくるが、あまり敵意のようなものは感じない。


 オレに何の用だろうかと考えていると、その疑問はすぐに次の一言で解消された。


「ねぇ、フォーレスト。私たちとパーティーを組んでみない?」

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