【第6話:簡単な事】
診療所に連れ戻されると、鍛錬用と思われる器具が散乱している広い部屋に連れていかれた。
どうやら診療所と言いつつ、実質はただのクランのアジトのようだ。
おそらくローリエが回復魔法が使えるので、国に申請して、お金でも不正に受け取っているのだろう。
たしか回復魔法使いが診療所を開くと、いくらかお金が貰えるとか聞いた気がするしな。
そんなどうでも良い事を考えていると、いきなり顔面に衝撃が走り、一瞬意識が途切れた。
「ねぇ、ローリエ? こいつもう壊れてない?」
どうやらローリエ以外に一人いた女性は、水系統の魔法を使える魔法使いのようだ。
全身がずぶ濡れになった自分の身体を見て、ぼんやりとそう認識する。
それにしても、1.5倍の
痛みでまったく身体が動かない。
「ほんとね……。いい気味だけど、なんかムカつくわね。フォー。あなた、何か抵抗の一つでもしようと思わないの? 優等生くんな所が嫌いだったんだけど、これじゃぁ、いじめ甲斐がないじゃない?」
くそっ、好き勝手言いやがって……そもそも、身体が動かないから抵抗したくても出来ないんだよ!
もう、このまま暴行でも何でも受け入れよう……。
自暴自棄になり、そんな諦めの覚悟を決めた時だった。
「ねぇ、フォー? もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
その一言で、今まで完全に冷め切っていたオレの心に、憎しみと言う名の炎が灯った。
「なん……だと……」
「あらぁ? 良いわね! その眼! そういう目をした奴の心を折った時が一番ゾクゾクするのよ!」
ふざけるな……ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなっ!!
怒りに身をまかせ、身体を起こす事までは出来たものの、立ち上がるのがやっとの状態だ。
「ほらぁ~? 頑張んないと、うちのクランメンバーに妹を襲わせちゃうぞ? ふふふ」
「おぉぉ! 良いじゃねぇか!!」
「ローリエの村まで馬車で三日ぐらいだろ? 今度、依頼ついでに行こうぜ!」
許さない……許さない許さない許さない許さない許さない!!
こいつらだけは、許しちゃダメだ!
「ふざっ……けるな!!」
考えろ……考えろ考えろ考えろ考えろ!!
どうすればこいつらを……殺せる?
「こいつ殴っても全然応えねぇな? もしかして、さっき限界超えてバフかけてたからか?」
名前も知らない。さっき会ったばかりの男。
そいつが何気なく漏らした言葉。
「限界を…超えて……」
なんだ……あるじゃないか。
簡単な事だったんだ。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
でも、タイミングだ……。
この人数を相手にするには、仕掛けるタイミングを間違うと、オレが反撃されて死ぬことになるだろう。
だからオレは、笑いながら殴り掛かってくる相手の隙を伺い、ひたすら耐え続けた。
きっと、本性を現したあいつなら……だから、その機会を待つんだ!
「あははは。あらぁ? 怪我が酷くなってきたわねぇ? やさしいこのローリエ様が治してあげるね~?
殴られ、蹴られ、怪我が酷くなってきたところで、ローリエが軽傷のみを治療できる回復魔法をかけてきた。
どうしてオレの怪我を治したのかって? そんなのわかりきっている。
「ローリエちゃん、酷いなぁ。これじゃ、フォーレストが永遠に殴られ続けることになるぞ?」
チャモの言うように、オレをもっといたぶりたいのだろう。
でも……その油断が命取りだ。後悔させてやる!
「
だから、このバフを使う時は回復魔法とセットで使わないといけないんだが……回復魔法使いって、回復魔法ほとんど効かないよな? ローリエ?
「え? な、なにを……ぎゅふ!? ぎゃぁ!? い、痛い!? 痛い痛い痛いいだいいだい!?」
身体はまだあまり動かないが、魔法を使うのには関係ない。
何が起こったのかわからず混乱する他の奴らに向かって、オレは片っ端からバフをかけていく。
「
「
さすがに何度もかけていれば、からくりはバレる。
「そいつを止めろ~!! そいつが限界越えのバフをばら撒いて……ぐぁっ!?」
「
まだ一〇人ほど残っているが、バフは発動して効果を発揮するまで一瞬だ。
近づこうとしてくる奴から順にどんどんばら撒いていく。
「くそっ!? バフにそんな使い方が!?」
「焦るな! バフで人が死ぬことはないって聞いた事がある! 痛みにさえ耐えられれば、こいつを殺すことぐらいわけないはずだ!」
どうやら向こうも、もうオレを殺すつもりらしい。
いいね。その方がこちらもスッキリ殺せるよ。
「な、舐めんじゃないわよ!! スキル範囲化!
範囲化スキルか。
魔法使いなら誰もが使えるスキルだが、自分に効果が無いのに、この場面で冷静に皆を回復してくるとは……。
「おぉぉ! 痛みが引いた! やっちまえ!!」
その点は褒めてやるよ……最
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