第8話 作戦会議
「わあ、白くてふわふわ!真っ白だあ~」
アヤメが純白の乙女を見た第一声だ。子猫か子犬でも見たような感想だけど、当の白くてふわふわなのは幽霊だ。私とアヤメと純白の真っ白ちゃんの三人で、妖術師に対抗するための作戦会議を開くことになった。
「乗りかかった船でしょ?助けてよ。幽霊のコは若すぎて頼りないし」
職場で放った私の言葉だ。半ば逆ギレに近い私のセリフだったけど、アヤメは快く承知してくれた。アヤメ、こんなに優しいヤツだったのか……。
「ありがとう。助かるよ……」
ホロリとしそうになりながらも、とっさにお礼を言った。
会議の場所は、私が住むアパートだ。そこにアヤメを連れてきて真っ白ちゃんと引き合わせた時、あのような感嘆の声を発したのである。
今日は冷えるので、ホットカーペット加えてエアコンのスイッチも居れた。加湿器もONにした。寒くなると電気代がかかるなあと変に暢気な事を考えた。
「お茶入れるよ。うち、玄米茶しかないけどいいかな」
「ありがとう。お構いなく」
「私は幽霊なので飲めないからご遠慮します」
「ああ、そうなのか。了解」
玄米茶を持ってきてテーブルを囲み早速、会議を開くことになった。
「どうすればあなたのお母さんである妖術師は諦めてくれるの?」
私は切り出した。
「説得です」
「え、そんだけ?」
「真っ白ちゃんが戦ってくれるんじゃないの?幽霊の特殊能力とかで」
意外そうにアヤメが口を開く。
「えっ。そんな強力なもの、私持ってません」
「そもそも説得が通じる相手なら、他人を操ったりしないと思うけど」
脱力しそうになりながら、私はそう結論づける。
「……」
「……」
「……」
それもそうだとみんな思ったらしく、三人で二十秒ほど黙ってしまった。仕方がないので私が話し始めた。
「具体的に、どんな説得が効きそう?」
「証明するんです。スカートめくり、お姉さんに悪意が無かったという事を」
「えっ私が中学生の時、悪意が無かったことを証明しなくちゃいけないの?」
「それは難しいわ。無いことを証明するのっていわゆる悪魔の証明じゃない?」
表情を曇らせてアヤメが言った。アヤメはさらに続ける。
「そもそも、なんで悪意が無かったことを証明すれば、妖術が解けるの?」
「母の妖術は他人の悪行に対抗するためにあるんです。お姉さんが昔、悪事を働いたと認識した時点で妖術が発揮できます。スカートめくりが悪事じゃないと証明できれば母は妖術を使う根拠が無くなります」
それを聞いて私は唸ってしまった。
「スカートめくりって、悪事かそうじゃないかと言ったら悪事じゃない?他人の下着を無理やり周りに見せる行為な訳だし」
「うーん、私もそう思う」
アヤメが同意した。
「でも、子供時代にスカートめくりをしたことがある人って結構いますよね。それを悪事だと認識したらきりが無くなりませんか?大人って子供の悪事を悪事と思わない事が必要な時もあると思うんです」
「つまり、私の中学時代の悪事を見逃してもらえるだけの理屈を用意すれば何とかなるかもしれない?」
「そうです。お姉さん、母を説得しましょう!」
こうして私は、理屈をこねなくてはならなくなった。ちょうど良くなった玄米茶を、猫舌の私は一気に飲み干したのだった。
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