第14話 純白の乙女と小包み

 パン屋の朝は早い。店長夫妻よりは出勤時刻は遅いけれども、それでもきっと、普通の会社員より早起きしていると思う。ふうつの会社員の生活、良く知らないけど。


 何はともあれ、私は休日の終わりは早めに就寝することにしている。真っ白ちゃんとの会議があったこの日もそうだった。


 私がお風呂に入る時に、真っ白ちゃんは帰って行った。というか、消えた。

「じゃあ、私はこの辺で失礼します。明日、また顔を出します」

 真っ白ちゃんはそういうとぴょこんと頭を下げて文字通り霧散した。

 

 入浴がすんで洗い髪をタオルで拭きながら部屋に戻ったときは当然、私一人しか居なかったのだ。スウェットの上下のパジャマ姿だった。ドライヤーをかけて髪を乾かすとベッドに寝っ転がって考え事を、昼間の続きを考え始めた。

 

 それにしても、困ったものだ。私は思った。何とか真っ白ちゃんのお母さんを諦めさせることはできないだろうか。そもそも、なぜ私を恨んでいるのだろうか。まるで私を親の仇か何かだと思っているみたいだが、いくら何でもそれは無い。と思った時に私は昼間の真っ白ちゃんのように短く声をあげた。

「あ」

 そしてやはり真っ白ちゃんのように『あ』を発した状態の口の形のままで固まった。視線が宙を泳ぐ。母親が誰かを恨むとき、それは子供に危害が加えられた時じゃないかと思いついたのだ。


 今までスルーしていたけど、真っ白ちゃんは何で亡くなったのだろうか。

 まだ十代半ばという若さなのに。


「ひょっとして、私のせいじゃないわよね……」

 なんだか怖くなった。自覚しないうちに何か生前の真っ白ちゃんに何かしてしまったのかもしれない。悪意の自覚が無くっても、何かしていたのかもしれない。


 「いやあ、でも……」

 私の独り言は続く。私、そもそも真っ白ちゃんの事知らなかったわけだし。それに私が何か危害を加えたにしては真っ白ちゃんの態度はあっけらかんとしすぎているような気がする。


「ひょっとして……演技とかじゃないわよね」

悪い方へ悪い方へ考えてしまう。私の相談を聞いてくれた真っ白ちゃんの協力的な態度は全部が演技で、実際は何か企んでいるとか。


「ええーそうだったら困る……というか怖い……。いや、仮説だし」

でも。


 真っ白ちゃんの背景がよく分からないことは確かだ。弟の優太宛に届いた小包みをほしががっているのは分かるけど、そもそもなぜ真っ白ちゃんに関係あるものが優太に送られてきたのか。


 優太について質問した時、優太とは知り合いではないと真っ白ちゃんは言ったが、それは本当の事だろうか。知り合いでないのなら、なぜ優太に真っ白ちゃんに繋がりのある小包みが送られてきたのか。


 そもそも、笹宮深雪とは誰か。真っ白ちゃんのお母さんの名前ではないみたいだけど、送ってきたのはお母さんらしい。お母さん、そこまでしたんだと真っ白ちゃんは差出人の名前について訊いた時確かに言っていた。


 お母さんの名前でないけど、真っ白ちゃんが欲しがっている小包みに書いてあった名前。それは……。


「ひょっとして、笹宮深雪って真っ白ちゃんの本名なんじゃないの?」

 あまりにも単純な事に気が付かなかった自分にびっくりしたせいで、ワントーン高い声が出た。


 

 

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