第13話 休日の会話 その2

 玄米茶を飲み干した後、私は部屋でゴロゴロしながら過ごした。


 高い空の下、ベランダに干した洗濯物が微風に揺れているのが見える。感想する季節だから、乾くのは早いだろう。


「ねえ、真っ白ちゃん居る?」

「はい、居ますよ」


「私思い出したの。幼稚園の頃の悪事を」

「いや、それはさすがに大丈夫かと」

「でも聞いてよ」

「はあ」

「幼稚園の頃、ピアニカの演奏を失敗したのを他の子が失敗したかのように誤魔化そうとしたんだけど。まあ。バレて私が怒られたんだけど」

「それくらいならそんなに悩まなくても」


「私が悩まなくても、私が濡れ衣を着せた子はどう受け取ったかは分からないのよね。それがきっかけで一生人間不信に苦しむという可能性もあるにはあるわけだし、私に対する悪い印象は今でも残ってるかもしれない」


「そんな事言ってたらキリがないですよ。悪意を全く持たない人は居ません。悪事を働く可能性が完全にゼロパーセントという人は存在しないんです。だから」

 真っ白ちゃんはそこで言葉を区切り、私の視線を追うようにベランダを見た。真っ白ちゃんの目には空気の動きである秋風が見えるのかもしれない。足を投げ出して座っている真っ白ちゃんは、純白のフリルのついたワンピース姿という事もあって、ちょこんと座っている人形を連想させた。



「だから、妖術師が昔は活躍したんです。いえ、昔だけじゃないですね。現に母は今の時代でも術が使えているのですから」

 そう続きを呟いた真っ白ちゃんは、何だか寂しそうだった。

「妖術師の悪意はどうなるんだろう」

「え?」


「あ、今なんとなく思った。自分自身の悪意を利用したら無限に妖術が使えるようになるんじゃないの?自分の意志で悪意を持ち続ければいいんだから」

「あ」

 真っ白ちゃんは『あ』と発音した口の形のままで目を見開き、まじまじと私を見つめ返した。やがて言葉をつづける。

「そういう方法も聞いた事があります。母はそうするかもしれません」

「あ、やっぱり」

「お姉さんの友人知人からとりつく人を選ぶよりそっちの方が効率がいいです。お姉さんの周囲の人から選ぶとなると、どうしても虱潰し的な手間をかけることになるわけですし」

「そう来るか」

「でも、そうすると……」

 真っ白ちゃんの表情が強張る。妖術師が自らの悪意を原動力にするのは、よほど恐ろしい事が起こるのだろうか。


「お母さん、かなりヤバい力を発揮するとか?」

「いえ、もっと単純に……」

 真っ白ちゃんは言い淀んだ。


「それは体力的に結構きついんです。だから妖術師が自分の悪意を使う事は少なかったんです」

「ああ、身を削るみたいな……」

「カッコよく表現するとそうです」

「あの、ひょっとして私、真っ白ちゃんのお母さんと共倒れするとか」

「うーん、今の時代でそこまでの強大な力を発揮できるかどうか……。なんだかんだ言って母も現代社会で育ってはいるので……。ただ一つ、確実に言えます」


「なに?」


「母の血圧が上がります」

「そんだけかい!」

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