第24話 小包の中身

 真っ白ちゃんが電話を切った後、私にスマホを返した。私が無言で受け取ると真っ白ちゃんはポツンと言った。

「すみません……」

「いや、謝らなくてもいいよ……」

 二人して数十秒突っ立ていた。


 その数十秒間で私の頭の中には色々な思考がぐるぐる回っていた。


 妖術師お母さん、娘への思いが暴走してしまっていたんだ。我が子が亡くなって遺された日記を見て娘の片思いを知ったら、なりふり構わなくなってしまったのか。問題のある性格のせいもあるのだろうけど、それだけでは無かったのだ。

 亡くなった家族の日記を見たのは正解だったのだろうか。もし私が同じ様な立場になったらどうするのだろう。あまり読みたくない気もするけど……。

 

 ん?日記?


 私の脳裏に自分が十代だったころの記憶がよみがえる。お洒落な文房具の大型店舗でノート売り場を眺めていたことがあった。そこにはハードカバーの可愛い表紙が付いた日記帳が売られていた一角があった。あまりに可愛いので日記なんか三日坊主になってしまう私でもうっかり買ってしまいそうになったものだ。

 私が十代の時でもとっくに世界は二十一世紀に入っていたし、日記もデジタルで記録する人が増えていたと思う。

 でも、たとえ古い生活スタイルでも女の子にはそういった可愛い物に惹かれる年頃があるのだろう。


 その時も迷ったけど結局買わなかったし、それからは日記帳なんてものには縁のない生活をしていた。私は。

 

 そう、私は。でも、真っ白ちゃんは?


「あのさ、真っ白ちゃん、小包みの中身、真っ白ちゃんが欲しがっていてお母さんが送ってきた小包みって、ひょっとして日記帳なんじゃないの?」

「うあ」

 真っ白ちゃんは変な声を出した。私の予想は当たったらしい。


 ハードカバーの日記帳、中身は書きこめるノート使用になっていても、構造は本と変わらない。包装紙で覆ってしまえば、持った時の感触はハードカバーの書籍そのものになる。


 妖術師お母さんは、娘の日記帳をその片思いの青年に送ってしまったのだ。


「そんな事されたら私でも化けて出るわ……」


 真っ白ちゃんはへなへなと座り込んだ。すると空気を含んだスカートが膨らみ、優しい風が吹く。


「そうなんです……。私がどれほど思っていたか、優太さんに伝えなきゃって変な使命感を持っちゃって。でもそんな事されても男の人からすれば怖いだけじゃないですか。会話ができなかっただけならまだしも、怖い存在として優太さんの記憶に残るのは辛くって……。何よりも恥ずかしいですし……」

「だから中身を見たら祟るって私に言ったのね。そりゃそうだ。私が真っ白ちゃんでも祟るよ、それは」


 私はカクン膝の力が抜けて真っ白ちゃんの隣に座り込んだ。


「お姉さんは日記に興味を示さないってことも考えたんですけど、でも肉親である母が日記を読んじゃったくらいですからお姉さんに対しても警戒しないとって思って、あんな風に脅したんです。すみません……」

 真っ白ちゃんは涙声になっていた。


「返すよ、日記帳。あれは一刻も早く真っ白ちゃんに返した方が良い」

 私は真っ白ちゃんを安心させたくて、そう言った。

 そして、言葉通りに心を決めていた。

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