第23話 妖術師とのケンカ
怒りをぶつけたものの、すぐにちょっと後悔してしまった。こんな事言って、大丈夫なのかな、私。
でも賽は投げられた、というか自分で投げてしまったので、こうなったら言葉での対抗を続けるしかない。
―笹宮さん、でしょ?妖術師の。あのね、もう私に八つ当たりをするのは止めていただきたいの!
―なぜ私の名前を知ってるの!
―小包みに名前を書いて送ってきたのはそっちじゃない!
―あっ。でもなぜ送ったのが私だと!
―ぐっ。あの小包みが来てから面倒が起こり始めたんだから、大体想像ついて当然でしょ?
真っ白ちゃんが私の味方をしている事に気付かれないように慌てて取り繕った。真っ白ちゃんをちらりと見てみると、両手のを合わせて指を組んで、お祈りのポーズをしていた。実際、ポーズだけでなく、本当に祈る気持ちなのだろう。表情で分かる。
―貴女が私の娘の恋路を邪魔したんでしょ!あんな良い娘が想いを拒絶されるなんてありえないわ!
―邪魔してませんってば。弟は娘さんの事をよく知らなかったし、そもそも娘さんだって話しかけたことも無かったのよ!
―貴女になんでそんなことが分かるの!娘がそう言った訳では無いでしょうが!
実際に娘である当人に直接教えてもらったのに、それを言えないのがもどかしい。
しかし、私は真っ白ちゃんを巻き込まないように気を付けつつ反論を続けた。
―それは貴女だって同じでしょ!娘さんが言ったんですか?両想いの筈なのに私に邪魔されたって。違いますよね!私を弟の同棲相手と勘違いしてたくらいなんですから。よく知らないのに首を突っ込んできてトラブルを起こしてるのは貴女の方よ!
二、三秒の間。荒い息遣いの後、お母さん妖術師が反論してきた。
―私は母親なのよ!娘の事は母親が一番よく知っています!私が間違えるわけないでしょう!
―どういう理屈よ!それ!
「お母さんは全然私の事、分かってないのよ!」
真っ白ちゃんがたまりかねたように私の手首を掴んでスマホを自分の口に寄せて、叫んだ。うわあっと私は思ったものの、声は出なかった。これはヤバいと思い、硬直してただ真っ白ちゃんを見た。渾身の一声を発して力尽きたのか、真っ白ちゃんは私の手首を放して脱力して座り込んだ。
―深雪、深雪なの?今の声……。娘は死んだのに……。
向こうで動揺した声がする。
―え、いやあその……妖術師さんなら幽霊とか分かりますよね。
―幽霊……。なんで敵であるあなたの所に深雪が……。
―それは、私が敵じゃないからだと思います……。
―どうして……。
―えーっとですね、妖術師さん。今のお嬢さんの言葉、聞こえましたよね。本人がお母さんは娘さんの事を理解していないと言っているんですけどね。
十秒ほどの沈黙。
―そんな……。そんな筈ないわ。あの子の最後の望みを叶えるために、お棺に入れる時にウエディングドレスになりそうな服まで着せてあげたのに……。
―へ。ウエディングドレス?
私はそういうと弾かれたように真っ白ちゃんを見た。純白で更にフリルが付いたワンピース。確かに、ベールを被ればウエディングドレスでも通用しそうだ。真っ白ちゃんは頭を抱えて私の視線を受け取っている。
―深雪の最後の望みは、幸せな結婚よ!私は確かに確認したのよ。あの子は日記にそう書いていたわ!それなのになぜ深雪はお母さんに向かってそんなことを言うの。お母さんどうしたら……。そこの峯田さんに何か吹き込まれたの?
うーん、やっぱりそう来るかというのが私の正直な気持ちだった。
―ええとですね。娘さんはお母さんのそういうところが辛いらしいです……。
「お姉さん、代わってください」
真っ白ちゃんはそういうと怒って頬をふくらませて手を差し出した。。私は速やかにスマホを渡した。
―もしもし、お母さん、私よ。幽霊になった深雪。お母さんが余計な事をしたから、私が後始末をするために、こちらのお姉さんに自分から近付いたの。お姉さんは悪くないんだからね!お母さん、死んだ人のことだって、そっとしておいた方が良い事があるの。お母さんはそれを分かっていない。それを言いたかったの。じゃあね。
真っ白ちゃんは通話を終えた。
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