第22話 失敗談・困る

 真っ白ちゃんはスカートの裾を指先で捏ねながら話を続けた。

「私、お母さんの誤解をこのままにして置いたらいけないと思って、幽霊になってから一応、間違いの訂正に行ったんです。姿を見せるとまたお母さん騒ぐから、何とかして顔を合わせずに真実だけを伝えようとして」

 そこまで言うと真っ白ちゃんは両手で顔を覆った。この反応は……ロクなことにならなかったと私は予想した。


 そしてその予想は当たった。


「お母さんにお姉さんは悪くないってことを伝えようと念を送ったんです。幽霊になっても私にできるのはそれくらいで……。そしたら誰かに念を送られてるってお母さんは妖術師だけあって気が付いて、お姉さんが自分と同じような特殊能力を持っているんじゃないかと疑い始めて……。私が送った念をお姉さんからの反撃だと思いこんじゃったんです……。昨日の事です」

 私はクラクラしてきた。


「最悪じゃん」

「はい。拗れさせてしまいました」

「お母さん、こう言っちゃなんだけどタチ悪い……」

「はい……お姉さんはそう思って当然です」


 妖術師お母さんの能力がショボイ事が救いだった。大掛かりな事は出来ないのだろうけれど、とりあえずめんどくさい事はしてくるだろう。


「お母さん、どうすれば止められるだろう。あの、職場に森本さんと一緒に来た栗田さんって人にあったけど、まだなんか変だったよ。栗田さんの中で、過去と現在が混ざってるって感じ」

「それは、まだうちのお母さんの影響があるんだと思います」

「それに、私がオトコと同棲してるって事になってたし。あれはお母さんの思い込みを頭に吹き込まれたんだろうなあ」

「すみません、本当に……」

 真っ白ちゃんはしょんぼりしていた。私は真っ白ちゃんには腹は立たなかった。むしろ妖術師お母さんの引き起こした災難に共に耐える同志のような気持を持った。


「ああ、栗田さんがお母さんの妖術にかかっているなら、朝に私が言った事がお母さんに届くかも。単に弟の部屋を借りてる姉だって分かってくれたらそれですんじゃうんじゃないかな」

 真っ白ちゃんが安心した顔を見せると思ったら違っていた。相変わらず目を伏せたまま暗い表情でポツンと言った。


「そう上手くいくかどうか……」

「そう?」

「お姉さん今言ったじゃないですか。うちの母がタチが悪いって……。そうなんですよ、タチが悪いんです。母の欠点はただ一つ、自分の事を疑わないんです。自分に絶対の自信をもっているんです。私が弟さんと付き合えなかった原因は、誰かが悪質な邪魔をしたせいだと思い込んで、その思い込みにも絶対の自信を持っているんです」


「……自分に自信があるのも度が過ぎると考え物だね」


「はい。私の事も、優れた母親である自分が育てたのだから、優れた娘になるに違いない、そんな優れた娘が好きな人と付き合えないなんてありえないって、私の事まで母の自信の配下に入れられてしまったんです。私が死んじゃったら現実の私が見えなくなった分、余計に私を美化しちゃって……」

 真っ白ちゃんはそう言って、はあ、と溜息をついた。

 

 スマホが鳴った。電話の呼び出しベルだ。当たるに違いない悪い予感がした。

「はい、もしもし」

―私よ。森本小百合

―あーやっぱり。

―あなた、弟の恋路を邪魔した小姑だったのね。

 

 まだるっこしい。私は瞬間的に決意を固めてしまった。

―ちょっと、お母さん聴いてる?笹宮さんだか知らないけど。

―は、何よいきなり……。

―八つ当たりはやめてってこと!これは悪意じゃないわ!正当な怒りよ!

―やはり、あなたは特殊能力があるのね。

 森本さんの声ではない、女性の声が電話の向こうで響いた。

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