第21話 純白の乙女の心のうち

 パンの焼き時間中に手が空く数分間をつぎはぎに使って、考えを私なりにまとめてみた。

 

 どうも真っ白ちゃんは弟の優太に片思いしていた(ひょっとして、今も?)かもしれない事。

 そして私は恋人と同棲していると栗田さんに、妖術師に取りつかれた人に思われていた事。

 

 これはつまり……妖術師お母さんは弟の優太を私の恋人だと思っているのではないかと。そういえば、一連のの騒ぎの発端にアヤメは言っていた。

 女の子が、つまり真っ白ちゃんが「お姉さんでしょ、お姉さんですよね」と私に訴えるように言っていたと。あれは優太に同棲するような恋人がいたら困るからではないのかと。つまり優太にとってのお姉さんですよね、という念押しだったのではないかと思い当たった。


 妖術師お母さんはつまり、私が真っ白ちゃんの恋路を邪魔したと思っている?

 それで私を恨むようになったのではないかと。報われぬ思いを最後まで抱いたまま亡くなった娘のために、私に対して憎しみを抱くようになったんじゃあ……。


 この推理はあっている気がした。

 本人に確かめた方が良いかな。


 本当に栗田さんがパンを買いに来たその日の帰宅後、私は真っ白ちゃんを呼んでみた。丸一日ぶりに真っ白ちゃんの顔を見る。

「あのー、真っ白ちゃん出て来てくれるー?」

 数十秒後天井の片隅から棒にまとめられる前の綿あめのようなもやもやが出て来て、女の子の形になった。


「はい、来ました」

「あのさ、突然だけど消えないで聞いてね。真っ白ちゃんってウチの弟の優太の事、好きだったんじゃないの?」

「へえっ!いいえ、違います。全然、私なんてそんなつもりはなかったんです!」

 真っ白ちゃんは両頬を両手で押さえて見るからに動揺していた。体が温泉の湯気のように広がって薄くなっていく。

「おい!消えないで!」


「は、はっはい!」

「責めてる訳じゃないの!ただ、聞きたかっただけ。今までもうすうす気が付いていたんだけど、確信が無いし、妖術師お母さんと関係があるか分からなかったから訊かなかったの。あの……優太の事好きだった、で正解?」


 数秒の沈黙の後、下を向いて目を泳がせていた真っ白ちゃんはついに認めた。


「はあ、実は片思いしてました。あの、弟さんは私に見覚えは無いと思います。少なくとも、ちゃんと会話したことは無いんです。私が一方的に見かけて好きになっただけで……」

「ああ、顔見知りになれたかなれなかったか分からないくらいの関係?」

「そ、そうです。塾の帰りに電車で時々おみかけしました」

 妖術師の血を引く女の子の幽霊の言葉に、塾という現実的な単語が出てきたのが何だか不思議だった。


「あの、それは別に良いんだけれど、真っ白ちゃんのお母さん、私の事誤解してるんじゃないの?」

「うっ」

 真っ白ちゃんはぴくりと肩を震わせた。

「そ、そうなんです。実は……母は私が弟さんに片思いをしていた事に気が付いて、妖術師の能力も使って色々調べて、弟さんの周囲に親しい女性がいないかを確かめたらしいんです」

「そしたら私が出てきたわけね」

「そうなんです……。全ては中途半端な力を過信した、母の暴走なんです」


 真っ白ちゃんはつぶらな目を潤ませて何度も頭を下げたのだった。

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