第11話 限界
「何もしなかったのが、良かったみたいで……」
真っ白ちゃんは弱弱しく笑いながらそう言った。私はお茶漬けを食べながら彼女に向き合っている。のっけた沢庵が美味しい。
「つまりそれは……」
私は沢庵をポリポリ音を立てて食べながら言葉を返した。
「悪意が無いと動けないんですよ。母は。お姉さんが森本さんの行動に対してきちんと筋の通った理屈を見つけずに反撃して、相手を苦しめようとしたらもっと話は拗れていたと思います。でも、お姉さんはあくまで理論的に考えてそうしなかったから、母は付け込む隙を失ったんだと思います」
「妖術って、そんなにショボイの⁉」
真っ白ちゃんはもじもじして、純白のスカートの裾を指でこねながら答えた。
「そうなんです。効く時は効くんですけど、効かないときは効かないんです」
真っ白ちゃんはさらに続けた。
「妖術師がどんどん廃れてしまったのもそのせいなんです。共同体の形がどんどん変わっていくと、人の心理も変わります。つまり、ドライな人が増えたんですね。そうなると悪意で他人に執着する人も減りますから、妖術師は時代が進むにつれて需要が無くなってしまったんです」
「はあー」
私はお茶漬けをかきこんで平らげると感想を言った。
「なんか心配して損しちゃったなあ」
それを聞くと真っ白ちゃんは表情を曇らせた。申し訳なさそうに話を続ける。
「母は諦めないと思います」
「おお?お母さん執念深いの?」
「執念深いっていうか、他人の聞く耳を持たないんです」
「ホオ……」
真っ白ちゃんは説明する
「母は妖術師という特別な才能を持っていた訳ですから、やっぱり選民意識がちょっとありました……。そのせいか思い込んだら一直線って感じで、自分が正しいと思いこんでしまうんです」
「うーん、不安定な能力でも特殊能力は特殊能力だもんなあ……。変に自信が付いちゃったワケね」
「はい」
真っ白ちゃんは俯きながら言った。
「母は諦めずに、次の手段を考えると思います」
私達はしばらく沈黙した。ちょっと空気が重くなる。でも、真っ白ちゃんがぱっと顔を上げて誓うように言った。
「お姉さんの事は、ちゃんと助けます!だから取引の事、どうか宜しくお願いします!弟さん宛の小包みの事、どうかそれは」
「ああ、あの取引か。うん、ちゃんと覚えてるよ。約束だもん。協力して、お母さんを撃退出来たらちゃんとあの本を渡すから。でも……」
一息入れて私は一番聞きたいことを訪ねた。
「お母さんは、なんでそんなに私の事を憎んでいるの?私、身に覚え全然ないから理由を知りたいのよね」
真っ白ちゃんはもごもごと口ごもってしまった。
「お姉さんの前から姿を消すとき、ちゃんと理由を言います。その方が絶対良いです。そうじゃないとあまりにも勝手な理由なので全てが片付かないと許して下さらないかと……」
真っ白ちゃんは涙目になっていた。なんだか可哀相だ。
「うーん、真っ白ちゃんがそう言うんなら良いけど」
一難去ったせいか、余裕ができた私はそう答えた。その時が来たら、寛容になろうと決心して。
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