第18話 見えない者へのアンテナ
再び『アルマジロ』の調理場である。私とアヤメはシナモンロールに使うシナモンシュガーのペーストを柔らかくなるように練っていた。蜂蜜が使ってあるのだ。シナモンロールはスイーツ系のパンの中で近頃の人気だ。シナモンドーナツも人気があるので店名をシナモンに変えたらどうかとちょっと思ったりする。
私はアヤメに相談していた。もちろん昨日のお巡りさん幽霊の事と、ひったくり犯逮捕の事だ。念のためインターネットのローカルニュースのサイトを見てみると、やはりヤツラは逮捕されていたのだった。アヤメに教えてもらわなければ、地方ニュースをチェックしない私は気が付かなかっただろう。
「あのお巡りさん幽霊、ちゃんと知る事ができたのかな」
私は溜息まじりに言った。
「うーん……」
アヤメは困ったというようにそう軽く唸る。
「教えてあげた方が良いかな」
「うーん」
やはりアヤメは返事の代わりに唸っている。
「私考えたんだけどさ、生きている人間の情報を幽霊に伝えられる人って少ないんだと思う」
「まあ、そりゃあ……」
「だとしたら、教えてあげないとあのお巡りさんずっとこの世に未練を持ったままさまよい続けるんじゃないかと」
「でも、ローカルニュースはテレビとかで何かの拍子に見えるかも」
「そうだけど……。そんなに都合よく地方ニュースのテレビを観ている人の所に居合わせられるかなあ」
「うーん……。でも、教えるにしたってどうやって?真っ白ちゃんに頼んでみる?」
「実はもう、頼んである」
アヤメはシナモンシュガーを練る手を止めた。
「覚悟、早っ」
「うん。だってさ、悪意と認識されることを私がやったら、たちまち妖術師お母さんのエジキになるのよ。お巡りさん幽霊が犯罪者を捕まえられなくて悩んでいるって、私はちゃんとわかってるんだから。そういう人に……まあ、幽霊だけど、あえて情報を教えなかったらそれは悪意認定されると思う」
「それは、そうだけど……。具体的にどんな方法があるの?」
「真っ白ちゃんのアドバイスではお巡りさん幽霊はひったくり犯が出た道路に行けば会えるんじゃないかって。そこでローカルニュースサイトをスマホで見せればお巡りさんを救えるんじゃないかと」
「ああ、お巡りさん幽霊は地縛霊に近い感じなんだ。でも犯行があった道路ってどの辺かわかる?」
「うん、警察署ホームページで注意喚起のお知らせのページに載ってたから。急いでメモした」
「ああ、出没する場所っていうか、狙いやすい所って決まってたんだ」
「そう。アヤメがそこに一緒に行ってくれると助かるんだけど。私だけだったらお巡りさんの幽霊に気が付けないかもしれない。うちに来た時、あのおじさんが見えたのは、妖術が使われていたおかげだと思うんだ。真っ白ちゃんと関るまで私幽霊見た事無かったんだし。アヤメは分かりそうだもの」
「私も幽霊は真っ白ちゃん以外見えないのよ。何かの気配というか、波長がとらえられるだけ。ていうか、真っ白ちゃんは付き添ってくれないの?」
「うん、お母さんに幽霊になってることがバレるのが怖いんだって」
「うーん……」
アヤメは再度唸った。そして呟いた。私達のシナモンシュガーペーストは滑らかになっている。
「ややこしい関係の母と娘ね」
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