第19話 レーダー人間・アヤメ
仕事が終わり、店を出た。お客さんが少なるなる時間帯は店長夫妻だけで切り盛りできるので、レジの北村さんも帰宅する。
私とアヤメは早速、お巡りさん幽霊に犯人逮捕の報告をしようと彼が出没しそうな場所を回ることにした。ただ単純にメモした場所を順番に回るのは効率が悪すぎる。こういった時にアヤメは頼りになる。『アルマジロ』からちょっと離れた横断歩道のある交差点で信号待ちをしながら、大まかな場所を決めることにした。
「分かるかもしれない。場所を言っていって」
そう言い出したので私は従った。スマホを取り出して、メモを読み上げる。
「三丁目の歩道橋近く」
「いや、それでは分からない。ここからどっちの方向だっけ」
「あの歩道橋にはあっち側に向かうと、出られる」
私は南側の車道の向こうを指さした。冬が近づく今頃は、空はほぼ夜の色合いだ。
「あっちには特に違和感は無いなあ。他はどこ?」
「一丁目の河川敷。今度はあっち側」
私は東側を指さした。
「うーん、違うなあ」
信号が青になっても私達が話し込んで渡らないのを見て周囲にいた数人の人がちらりと見て行った。ちょっと取り込み中の二人組にしか見えないのだろう。まあ、実際にそうなのだから。
「市役所の近く。二丁目だね。あっち」
私が指さした方をアヤメは凝視した。
「うん……。違和感が無いのに違和感が……。行ってみた方が良いかな」
「よし、良かった。割と近いし歩こう」
「節約だね」
私達は再び信号が青に変わっていた横断歩道を渡り、夜道をせっせと歩き出した。
やがて市役所の近くに着く。市役所の大きな建物の陰になってしまっているような住宅街からもちょっと距離がある様な、そんな一角が目に入った。
「あそこ、いってみよう」
今度はアヤメが指さした。そのままそこに近付く。
「うん、ひったくりとか、幽霊とか出そう」
アヤメの後を追ってせかせかと私も歩き出す。
着いた。
さてどうしよう。
「いないね」
「いると思うんだけどな」
「呼べば出てくるかな」
「私達、呼び出す能力は無いような気がする」
顔を見合わせて……と言っても暗くて表情は見えにくかったんだけれど、私達は数秒沈黙してしまった。
「やるだけの事はやったから良いのかな。お巡りさんの事を見過ごすつもりはなかったんですよって感じで」
私は思わずそんな怠けグセを出しそうになった。
「いや、それはどうだろう」
アヤメは不安げだ。という事は、やっぱりやり遂げないとマズい事になるのかも。
破れかぶれで私は思いついた。
「アヤメ、話そう」
「なにを?」
「犯人逮捕のニュースの事を」
私はスマホのローカルニュースのサイトを見ながら話しだした。
「この辺で犯行があったのねー」
「え?ああうん」
棒読みっぽい私の発言に戸惑いながらもアヤメは相槌を打ってくれた。
「五年間捕まらなかったのよね」
「そうだよね、ひったくり」
私につられるようにアヤメも棒読みで合いの手を入れてくれる。
「犯行の動機は遊ぶ金欲しさで、偶発的に犯行に及んでたんですって」
「逮捕時点で二十八歳ですって二人とも」
「とにかく捕まったから」
「このニュースを知りたい人がいるみたいだから教えにきましたー」
「そうか……つかまったかい」
穏やかな男性の声が周囲に響いた。一度ご対面したことがあっても幽霊の声がいきなり聞こえるとびっくりして、私たちはお互い手に手を取って固まった。
「教えてくれて、どうもありがとう」
再び、声が響いた。その直後、つむじ風が起こった。私達二人と比較すると大きい風の塊がぐるぐる回りながら空に向かっていく。
ちょっと離れた住宅の庭木がゆったりと揺れるような勢いだ。
やがてそのつむじ風は落ち葉を巻き込んでまっすぐ天に上って行った。
「よかったのかなあ」
「……うんよくやったと思うよ、私達」
つないだ手を緩めながら私たちは再び、顔を見合わせた。暗がりで見えにくくても気配で見合わせたことは分かった。
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