第17話 素朴な疑問

 「はあ……」

 私は溜息をついた。真っ白ちゃんのお母さんは、小ネタで私の事を追い詰めたいらしい。私は三和土で靴を脱いで部屋に上がり、バッグを投げ出すと座り込んだ。


 真っ白ちゃんのお母さんは妖術を使ったせいで血圧が上がっているに違いない。


「あの、ダイジョブですか……?」

 真っ白ちゃんが天井の片隅から綿あめが完成するようにシュルシュルと出て来て形になった。

「あー来てくれたんだ。ひょっとして、見てた?」

「途中からですが、見てました」

「じゃあ、助けてくれたって良くない?真っ白ちゃんが現れてそれは私のお母さんの悪だくみですって説明してくれればいいのに」

 真っ白ちゃんは困った表情になった。


「それは……そうなんですけど、もし相手の幽霊が私がお姉さんの家にいると母に伝えたりすると、もっと話がややこしくなると思うんです」


「なんで?」

「母が怒ります。私がお姉さんを頼ってるって分かったら母はなりふり構わず怒り狂うと思います」


「ほう。娘が敵の味方をしているってことになるから……?」


「まあ、それもあるんですけど、うちの母の場合はさらに、なんで私を頼らないのよって私に対しても怒ると思います。すみません!結局、私、母を避けたくて、今日助ける勇気が出なかったんです」


 真っ白ちゃんのお母さんは毒親と表現していいかどうかは分からないが、かなりめんどくさい人らしい。めんどくさい性格に妖術師の能力がプラスされて今回のような問題を起こしているのだろう。


「お母さん、面倒な人なの?」

 確認の意味で訊いてみる。

「はあ、面倒見がいい面倒な人です。私が死ぬ前、病気の時とかは本当に献身的に看病してくれたので、その点では幽霊になった今でも感謝しているんですけど」

「そっか。家族って難しくなっちゃうことがあるんだね」


 そもそも、お母さんが私を敵視している問題だって、真っ白ちゃんが仲裁してくれれば話はもっと簡単になると思う。真っ白ちゃんは幽霊だけれど、お母さんも妖術師でただの人間ではないのだから話も受け入れやすいだろうし。


 でも、出来ないのだ。幽霊になった後でも、真っ白ちゃんにとってはお母さんはややこしい存在らしい。


「でも、びっくりしたよ。おまわりさんがいきなり部屋の中に座ってたんだから。あんな風にはっきり見える幽霊もいるんだねー」


「ああ、さっきの幽霊の人は職業に思い入れがあったからです。だから亡くなった後も警察官の姿でいるんです。きっと職務に忠実な人だったんだと、それで制服姿の時の存在がはっきりしてるのではと」


「そっか。じゃあ、真っ白ちゃんはそのワンピースに思い入れがあるの?」

「え?」

「そのワンピース、お気に入りだったとか。真っ白で可愛い格好してるなっていつも思ってたけど」


 私の質問を聞いた真っ白ちゃんは眉間に皺を寄せてぎゅっと両手を握り合わせる、少し強張った仕草をした。表情は悲しそう、困ったの両方に見えた。


「これは、死んでから着せてもらったんです。母が、どうしても着せたいってお棺の私に……。しょうがないですね」

 真っ白ちゃんはそういうと悲しげにため息をついた。

「そう?似合う服を着せたってことなら理解できるけど」

 そう考えるのが自然だと思い、私はそう言った。


 その時、スマホが鳴った。アヤメからだ。

 ―もしもし、志帆ちゃん!

 ―おう、アヤメ、どうした?

 ―なんだか予感がする。昔この辺りで事件を起こした連続ひったくり犯が捕まったぽい。なんだかそんな波長が来てる。

 

 タイミングが良すぎる話題にアヤメのそういう所は良く知っているとはいえ、さすがに驚いた。

 ―え?ニュースでやったの?

 ―多分これからやると思う。明日くらいにニュースにはなりそう。それを志帆ちゃんに知らせないといけない気がしたんだけど、志帆ちゃん心当たりない?

 —……ある。

 さっきのおまわりさんの幽霊が知りたがってる事を私がアンテナにしてアヤメに流してしまったとか?よく分からないけど心当たりには違いなかった。




 

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