第2話 対面
妹かあ。そういえば小さい頃、妹が欲しかったなあ。いるのは弟だけど。などと考えながら自宅でごろ寝していた。今は私の家だけど、本当は弟のために親が借りたアパート。弟の優太はアメリカに留学していて、その留守を私が預かっている。パン店『アルマジロ』で働くのは、弟が帰ってくるまでの二年間の予定だった。働いて半年目でアヤメに昨日、いるのかいないのか分からない妹の宣告をされたのだった。
部屋を寝っ転がったまま、部屋をぐるっと見回してみる。弟の選んだ家具に私の私物である衣類や小物が混ざり始めている、いつもと同じアパートの一室だ。モノトーンの中にベージュや生成り色が散見される状況、の筈だった。
モノトーンの白とは違う、透明感がある白い色が私の目の前を漂っている。ふぇっと声が出た。
「え、湯気?」
自分に確認するように言うとその湯気みたいなものは揺らめいて答えた。
「あ、違います。湯気じゃないです」
「ああそう……ああ?」
「お姉さん、あの、便宜上そう呼ばせていただきますけど、優太さん宛になんか届いていませんか?」
「え?いや、別に……無いけど」
私がそう答えると湯気は渦を巻き集まって、人の形になった。真っ白いワンピースを着た、肩までの髪をくるんとカールさせた女の子だ。髪の毛の部分だけに、薄墨のような色が付いている。
「そうですか、良かった。届いたらまた来ます。すみません、どうしても取り返さないといけない物なんです。あ、もし私が来る前に届いたら、絶対にお姉さん見ないでください。もし見たら、祟ります」
「ええ?あの、あなた何?」
「幽霊なんですよ。じゃ、失礼します」
「はあっ?」
「ほっ」
気合の声らしきものを放つと、彼女はぴょこんとジャンプしてその途端に消えた。
私は彼女が消えた部分を五分ほど眺めていた。
「ゆ、ゆーれ……」
頬をつねってみた。痛い。夢ではないらしい。いや、夢だったのでは?頬をつねった今この瞬間に私は目覚めたのでは?
玄関チャイムが鳴った。ああ、良かった。今はとりあえずそれに対応しよう。そう思って出たところ、宅配便のお兄さんが立っていた。弟宛の小包みの配達だった。あの、白い女の子が言ってたのはひょっとして、これ?サインして受け取る。
―絶対にお姉さん、見ないでください。もし見たら、祟ります。
「ええ、いや、弟宛だからもともと見る気ないけど……ん?」
お姉さん?お姉さんって私の事呼んでた?やっと気が付いた。アヤメが言ってた妹らしき女の子って、あの子だ。びっくりした。
でも、一番びっくりしたのは、幽霊らしきものを見ても全然怖がっていない自分自身に対してだった。
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