第3話 対応に悩む
「これかよ」
私は呟いた。弟宛の小包みの差出人の名前は笹宮深雪と書いてあった。知らない名前だ。優太の友人知人をすべて把握してるわけではないのだけれど。私は大手インターネット通販サイトで古本を何度か注文したことがある。その経験から、大きさと形、感触、その全てがこの小包みの中身が書を書籍だと知らせてきた。或いは、書籍に似た何かか。
「これをあの子に渡すの?いや、勝手にそんな事しちゃ優太に怒られるし」
そもそもこれがあの子の欲しがっていたものだと確信が持てない。ひょっとしたら後日、また別なものが届くのかもしれず、幽霊の本命はそっちかもしれない。
そもそもあの幽霊の目的は何?私の事を一応祟ると脅してはいるのだし、優太の大切なものを奪って困らせることを企んでいるのかもしれない。良心的な幽霊である保証は何処にもないのだ。
「ううううーん、どうしよう」
小包を開けてしまおうかとも思った。でも、それをやったらあの子に確実に祟られそう。ああ、私は一体どうすればいいんだ。誰かに相談したい……。相談相手が誰かいれば……。
「あっ」
居た。
アヤメだ。
アイツにこの苦悩を話してみよう。アヤメはきっと何かが見えていたんだ。玄関の三和土にスニーカーを踵を踏んだ状態で履いて突っ立って悩んでいた私は、部屋の中へ戻ると、スマホを手に取り、アヤメに電話した。文字でのやり取りはできなさそうだったから。焦って指が上手く動かないことは容易に予想できる。
―志帆ちゃん、やっぱなんかあったんでしょ
―ああそうだよ。アヤメ、あなた何か見えてたね?
―うん、まあ……。
―何が見えたの?教えてよ!
アヤメが見えたのは髪の毛がふわふわの女の子が私の事を一生懸命に、お姉さん、お姉さん、お姉さんでしょ?と問いづづけている光景だったという。それでてっきり私に死に別れた妹でもいるのかと思ったとの事だった。もしそうだったらお墓参りなどの何らかの供養を進めるつもりだったそうだ。ところが私が、妹はいない弟だけと答えたため、何か別の事情があるようだとの配慮から話が続けられなくなってしまったとの事だった。
―それだけ?
―うん、そうなんだけど、それとは別になんかまだある。
―えっ……。あの、どういう……?
―志帆ちゃんの近くに復讐を考えている人がいそうな感じ。怒りが伝わって来る。
―ちょっとなにそれ?幽霊の女の子とは違うの?
―幽霊にしては生々しいから、きっと生きている人間ね。でも、幽霊の女の子の雰囲気に近い物も感じるけど……。何だろう。怒りを感じているのは一人じゃないみたい。大きな怒りを持った人がその怒りを周りに伝染させている感じ。なんか面倒臭い感じもする。
―ええっ勘弁してよ。せめて幽霊の女の子の正体は分からないの?
―幽霊は幽霊としか言えないなあ。ただ、亡くなってそれ程は時間が経っていないみたいね。
―それくらいしか分からないの?私どうしよう。
―うーん、怒りを放っている人は複数いるみたいだけど、行動に出すかどうかはまだ分からないよ。意外とショボイかもしれない。志帆ちゃん、恨まれる心当たりないの?
―無い、と思う。だって私職場と家の往復と、買い物くらいしか出かけないし、学生時代の友達も少なかったし、卒業してからは付き合いないし。まさか、『アルマジロ』の店員仲間に恨まれてるわけではないよね?
―そんなに近い人ではないね。
アヤメがどうしていいか分からないのなら、私は尚更分からない。とりあえず礼を言って一旦通話を終了した。最後にアヤメは励ます様に、できるだけ私も志帆ちゃんを助けるからと言ってくれた。
なんだかぐったりしてしまった。その疲れから温かいホットカーペットの上にひっくり返った。
「私にこれから何が起こるんだろう」
その答えはすぐに出た。スマホに電話がかかってきたのだ。知らない電話番号。出てみると同世代くらいの女性の声だった。その声は言った。
「峯田さん、あなた峯田志帆さんでしょ?久しぶりね!私は昔、あなたにワイセツ行為をされたのよ!今でも恨んでいるから!復讐してやる!」
「……はあっ!?」
私は呆気にとられるしかなかった。
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