第9話 作戦会議の続き(または無邪気の証明)
新しく玄米茶を入れた。手のひらサイズのミニ羊羹も幾つかお皿に入れて出した。なんだかアヤメと私ばかり飲食していて真っ白ちゃんに申し訳なくなってきた。
「真っ白ちゃん、ホントに食べなくていいの?」
「はい、見てるだけで美味しいです。」
「そうなの?」
アヤメが驚いて訊く。真っ白ちゃんは頷いて羊羹に人差し指をおいて数秒するとにっこり笑った。
「はい、美味しいです」
「へえ……」
私とアヤメは同時に感心の声を漏らした。
「それなら、形だけでもお茶を置くよ。小さい湯飲みでいいかな。それを時々触るといいよ。ゴメン気が付くの遅くて」
「いえ、いいんです。……わあ、ありがとうございます」
私は可愛い食器があるとつい買ってしまう事がある。真っ白ちゃんに出したお茶も、そんな感じで買った空色に千鳥模様の湯飲みに入っていた。真っ白ちゃんは嬉しそうに両手で包むようにしている。笑顔が可愛い。もっと早く出してあげればよかったけど、飲めない物を出しても迷惑な可能性もあったから。
「それで、話の続きなんですけど」
きりっとした表情になり、真っ白ちゃんが話をきり出した。
「うん」
私達は頷く。
「子供の悪事なんてお互い様、という事に持っていければいいと思うんですが」
「つまり、志帆ちゃんに復讐したがっている森本さんも悪い所があるみたいに話を持って行けばいいのね」
「いやあ、待って待って」
私は頭を抱えた。
「森本さん、そんな悪い子じゃなかった……と思う。今はどうだか知らないけど中学時代は大人しい子だった」
「ああ、でも、完璧にいい子なんていない訳ですから何かあるんじゃないかと」
「それはそうだけど、お互い様って話には持って行けないような……。私は森本さんに何か危害を加えられたことってないんだよね。それこそスカートめくりにも森本さん参加してなかったんじゃないかな。おぼろげな記憶だけど」
「ああ、そうなの?」
意外そうにアヤメが言った。
「あの頃、私スカートめくるよりめくられることの方が多かったんだよね。それがちょっと悔しくて、一度だけ近くにいたおとなしそうな森本さんを狙ったんだと思う」
「ああ、それで……それで志帆ちゃんが悪事を働いたってことになったのかあ」
「うん、大した事してないつもりだけど、相手が悪い事していないのに危害を加えたっていう点では私は確かに悪人なのよね。あの頃はこんなことが起こるとは思ってなかったけど……大人になった今、あの頃を思い出してみると悪意だよなあって。悪気は無かったとか、無邪気さゆえに……って感じの言い訳は無理だね」
「何か、何かありませんか?お姉さんに対してではなく、他のクラスメイトに何かしたとか……きっとあると思いますが」
ひたむきな表情で真っ白ちゃんが言う。だが、私は更に困ってしまった。
「うーん、森本さんとはそんなに親しくなかったし、分からないなあ。それに、森本さんが悪意を持った相手を探すってことはその、今回の件とは無関係な人も巻き込んじゃうかもしれないんじゃない?そんな事をしたら更に私に悪意があるって事にならない?昔の悪意じゃなくって現在進行形で悪意があるって事になったら余計危ない気がするんだけど」
「でも、志帆ちゃんは助かりたいだけで悪意は持ってないけど……。ああ、悪い結果が出る可能性が高いのに、他人に迷惑をかける行動を起こす事自体が悪意になるのか」
「そう、悪気が無かったことは証明できないのよ。しかも、私がワイセツ行為の報復にあっている事を知る人が増えるだけになるかも」
私は腕を組み、唸ってしまった。子供の頃が無邪気だったと証明できない。森本さんも悪意を持つ人だったと証明するのも無理がある。
そもそも無邪気という言葉は謎だ。邪気が無いことを証明することはできないのに無邪気という言葉はあるのだから。
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