十七日目

体が痛い……激しい首の痛みで目が覚めた俺は周りを見渡した。

そうか…昨日ソファで寝たんだっけ?

隣ですやすやと寝息を立てている死神の頭を撫でながら首をさする。


(気がついたらいつも死神を撫でている気がする…ふわふわだから?)


何故かいつも死神を触れていることに気づいた。確かにふわふわで安心感がある。触り心地がとてもよろしい……死神がおきている時に触ったら怒られるんだろうな……


そんなことを考えながら首の痛みが酷かったので湿布を首に貼り付ける。触った手が湿布臭くなったのは言わなくても分かるだろう。


「……? え? なにこれくっさ!」


死神は勢いよく飛び起きて鼻をつまんだ。少し傷つきながらも手を死神に向けてみる。


「え…! なになになに! 怖いんだけど…え! くっさ! 手が臭い!」


無言で死神を追いかけた。まるで幼い頃に戻ったように心が跳ねていた。


「え! 近寄らないでよ! やだ! 臭い移る! やめてよ! もう! やめてってば!!」


鋭い爪で思いっきり引っ掻かれた。まぁ悪戯心が芽生えてしまったのは俺だし…仕方が無い結果だろう。あまり構いすぎないようにしよう……

引っ掻かれた場所を擦り、手を洗った。

洗剤と湿布の匂いが混ざってさらに嫌な匂いになる。


時間が過ぎたら良くなるだろうと思い、ソファに深く腰を落ち着かせてテレビをつけた。ちょうどバドミントンの試合をやっているようだ。

特に見たいチャンネルもなかった俺は無心でテレビを眺めた。


恐る恐る死神が近づいてきてソファの端の方。本当に端の端にちょこんと座り込んだ。少しやりすぎたかな……

だいぶ警戒させてしまっているようで深く反省した。


「なぁ死神……」


「なんだよ……」


ムスッとしたまま不貞腐れている死神に使って話しかけるが、全くこっちを向いてくれない。


「さっきはその……ごめんって。つい悪戯心が湧いちゃって……」


「……ふーん」


全く聞く耳を持たない死神。俺は最終手段をとることにした。


「お前の行きたいところに連れてってやるから機嫌治せよ……」


「ほんとに!?」


見事なまでの手のひら返しだ。俺は行きたい所に連れていくと言ったことを後悔していた。要はどこでもってことだろ?

もし死神が宇宙に行きたいとか言い出したらと思うと……

不安に思いながら死神の返答を待った。

死神はしばらく悩んでからテレビに指をさした。


「テレビの……中?それはさすがに無理があるんじゃないか……?」


俺が引き気味に返事に困っていると死神はほっぺを膨らまして反論してきた。


「ちがう!! アニメの見すぎじゃないの!? このバトミンドン? を僕もやってみたい!」


「スポーツセンターってこと?」


無理なお願いじゃなくて心をなでおろした。今日は平日だから空いているだろうと思い、家を出た。


死神はお出かけ用のカバンを持っていた。今までカバンを持つところなんて見た事がないので、ジロジロと観察をしてしまった。視線に気がついた死神はバッグをマントの中にくるんで次の瞬間にはさっきまでのバッグが消えていた。


(そうやって出し入れしてたのか?便利だな)


スポーツセンターにつくと、色んなコースがあった。

バドミントンや、バレーボールやバスケが選べるらしい。平日なので人が全然おらず、どの台も空いているようだ。


俺は声を潜めて隣にいる死神に話しかけた。


「どれする?」


「もっちろん! これ!!」


死神が指を指したのはバドミントンだった。テレビを見てやってみたくなったのだろうか?他のも面白いからやってもらいたいと思ったが、まぁ、好きな所に連れていくと言ったし……


店員さんにバドミントンの台を借りて、2人分のラケットと羽根を貸し出してもらった。


室内に入ると誰もバドミントンをしている人がおらず、貸切状態だった。


「やったな! 死神! 思いっきりやれるぞ」


「よーっし! いっちょやったるかぁ!!」


ラケットと羽根を持った俺は死神に向かって打ってみた。円弧を描きながら緩やかに落下していく。


ぽとんっ


「「?????????」」


二人の間で落ちた羽根をただただ無言で見つめる……

顔を見合わせたら、お互い理解できないという顔をしていた。


「え? なんで取らないの?」


「え? 僕がとるの?」


「え? 取らないとバドミントン続かないよ?」


「「んんんんんんん????」」


このままじゃらちが明かない。仕方がなく俺はバドミントンのルールを教えることにした。


「いいか? まず……ラケットをこう持って。この羽根をこう」


俺は慣れた手つきでラケットを持ち、羽根を一人で打ってみた。

ネットを超えて向こうのコートに羽根が転がる。


「僕もやる!! まず……ラケットを持って……こう!!」


勢いよく羽根が舞い上がる。天井に着くかの勢いで登った……が、すぐ落ちてきて死神の頭上に直撃した。


こんっ

「痛ー!!!」


見事(みごと)……

思わず拍手しかけた手を抑えて笑いをこらえる。


「もー! 絶対できるようになってやるー!!」


しばらく死神の練習に付き合ってやることにした。何度も何度も練習して次の瞬間。


「いっけー!!」


死神が打った羽根は円弧を描きながら俺のコートに入ってきた。


「やっ……! やったー!!!」


「やったな!!! おめでとう! ようやく! ようやくだよ!!」


俺と死神はお互い抱きしめ合いながら喜びを分かちあった。二時間かけてやっと俺のコートまで飛ばすことが出来たのだ。今喜ばずしてなんになる!

ひっしりと喜びを込めて抱きしめあった……


ピンポンパンポーン

「三番コートの○○様。三番コートの○○様。お時間でございます」


プツッ


………呼ばれた。


俺と死神は顔を見合せながら物足りない感じを胸に押さえつけつつ、のろのろとした足取りでカウンターへ向かった。


「なぁ……もっと遊ばない?」


「大賛成……!!」


俺と死神はスポーツセンターを出てある場所へと向かった。

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