二十八日目

ピピピッピピピッ


ずっとなり続けるアラームに嫌気がさし、アラームを止めようと体を乗り出しすぎてベッドの上から落ちてしまった。


ゴッ

「いっ……た……!」


肘で受身を取ったから痛みはそこまで無いが、神経が痺れる。

しばらく身悶えしてからアラームを止めた。


「おっはよ!」


まだ痺れている腕を動かしながら声のする方向を振り向いた。

死神はベッドの上で枕を蹴って遊んでいた。あの習性はなんの意味があるのだろうか?俺もたまに猫の癒し動画見たりするが、意味がよくわからなかった。

とりあえず綿が出る前に枕を取り上げて破けても大丈夫なクッションにすり替えた。


「うん。おはよ」


カレンダーを見て今日の予定を確認する。まぁ特にはいつも予定は無いけど、就活始まってからカレンダーに予定を書き込む癖をつけていた。


「えーっと……今日は面接とか会社説明会は特になしか……じゃあまだ寝れるな」


二度寝をしようとベッドに潜り込むと死神が俺の背中の上にのしかかる。


「ねぇねぇ!」


「ん?? どうした?」


この会話の始まり方はだいたいお願いしたいことくらいだろうと思い軽く聞き返した。


「今日合否の発表の日じゃない?」


「ふぁ!?」


ゴンッ

勢いよく頭を持ち上げたので顔を覗き込もうとしていた死神の顎と直撃していい音が鳴った。


「うわ! ごめん!!! 忘れてた!」


痺れる頭を擦りながら携帯を確認する。

メールは……まだ来てないみたいだ。いつ頃来るかわからない緊張が張りめぐる。


背中を叩かれた気がしたので振り返ると死神が顎を擦りながら涙目で訴えてきた。


「あ……ごめん」


ふくれっ面で俺の顔を見ていたが、更にほっぺが膨らんで赤みを帯びる。


「ごめんじゃないって!! 思いっきりぶつかったんだからね! べろ噛まなかったから良かったけど!!」


効果音がつきそうなほど俺の背中を叩きながら怒られる。

容赦ない力で叩かれて、いい加減焦りを感じ始めたので今日はペットショップに行くことにした。

家に死神1人だと寂しいだろうと思い、猫用のおもちゃがないか探してみる。

俺を叩き続ける死神を無理やり制し、出かける準備をした。


「ペットショップに到着! 猫用の意外といっぱいあるな、どれがいいかなーこれとかどうだ?」


俺が猫用のおもちゃを漁っているが、死神が一向に近寄ろうとしない。


「……ねぇ」


「ん??」


「……なんでペットショップ??」


怪訝そうな目で俺をじろりと見た。


そう。死神にはペットショップに行くということは説明していなかったのだ。


「いやぁね? 今朝枕蹴ってただろ? だからストレス発散できるものが何かあったらいいなと思ってさ」


「何度言ったらわかるのさ! 僕は死神だって! 猫扱いしないでくれよ! まったく!」


ブツブツ言いながら、しっぽをくねくね動かしている。

(これは……どういう感情だ??)


何はともあれ死神もおもちゃを選び始めた。ボール系より人形系が好きらしい。

おもちゃは死神に任せて俺はおやつコーナーを眺めていた。


〜♪

電話だ。

一旦ペットショップを出て死神にも見える位置の椅子に座って電話に出る。


「もしもし?」


「お忙しいところ恐れ入ります。私、広告会社人事部の松島と申します。先日は面接にお越しいただきありがとうございました。こちらの電話番号であっていますでしょうか?」


「!?」


驚きのあまり携帯を落としそうになった。急いで深呼吸して電話口に耳を当てる。


「はい!! こちらであっております!」


声が緊張で震えるが、必死に平静を装う。


「ありがとうございます。面接の件でお電話致しました。ただいまお時間よろしいでしょうか?」


「はい! 大丈夫です!」


「厳選なる審査の結果、採用内定が決定致しましたのでご連絡致しました」


「ありがとうございます!」


採用内定!? 嬉しい!! 今すぐ踊り出したいほど嬉しいがまだ電話中なので我慢する。


「また詳細につきましては、メールをお送り致しますのでそちらの確認をお願い致します。なにか今聞きたいことや、不明点などございますか?」


「ありがとうございます! かしこまりました! 不明点はございません! これまで培ってきた経験を活かし、弊社に貢献できるよう尽力致します! 今後ともよろしくお願い致します!」


「こちらからは以上でございます。また、何か質問等ございましたら人事部の松島宛にご連絡ください。それでは失礼致します」


「失礼致します」


ープツッ


やったよ……

やったぁーーー!!!!!!


叫びたい感情を必死に抑えて体全体で表現した。携帯を握りしめる力が必然的に強くなる。ニヤケが止まらず、手で口を抑えてペットショップに戻る。


「あ! おかえりー! どこ行ってたの?」


死神はひとつのおもちゃを握りしめておやつコーナーで座り込んでいた。


「ん? また後でな」


死神と一緒に喜びを分かち合いたかったが、今はまだ喜びに浸りたかったのでまた後で教えることにした。


「にやにやしてどうしたのー?」


何かを察したように死神も顔を緩ませて聞いてきた。ニヤケが止まらず顔が赤くなる。


「また後で言うから!! そのおもちゃにするのか?」


「うんっ! あ、いや、別にどれでも良かったんだけど……君が買ってくれるって言うし、それなら好意に預かろうかなと思って適当に選んだだけなんだからね」


そんなに大切そうに抱き抱えてなにが "どれでも良い" だよ(笑)

典型的なツンデレをかましだした死神をいじろうとするが、これ以上いじったらまた拗ねそうな気がするので適当に返事してお会計した。


家に帰ると早速ビニールからおもちゃを取り出してあそび始めたが、おもちゃを持ったまま俺の目の前に座り込んだ。


「さっきは何があったの?」


家に帰ってもニヤケが止まらない俺の顔を死神もつられてにやにやしながら覗き込んできた。


「実はな……」


携帯の内定メールを開いて死神に見せる。


「内定もらいました!!」


「おおおおぉーーー!! おめでとう!!」


死神も一緒になって合格を喜んでくれた。俺はにやける顔を抑えず、一緒になって笑い、踊った。


嬉しくて嬉しくてたまらない。やっと俺を見つけてくれる会社に出逢えた。


その日は一日中死神と喜びを分かちあった。


明後日から仕事が始まる。ブラック企業じゃないことを心から祈った。

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