十七日目(遊び編)

「よっしゃ来たぞー!! 遊び尽くしてやる!!」


着いたのは近場のゲームセンター。最近リニューアルしたらしく、建物がすごく大きい……

中にはUFOキャッチャーや、音ゲームはもちろんのことボウリングや、ダーツなども遊べるフロアも設備されていた。


「さて! 何から遊ぶか!」


「あれやって見たい!!」


まず目に飛び込んできたのはUFOキャッチャーだった。


女の子が必死になって黒猫のぬいぐるみを取ろうとしていた。

アームが寸前のところでぬいぐるみがつかめず落下する。

お金を大切そうに握りしめてコインを投下する。

すごい集中力で絶対にとってやると言わんばかりの気迫を放っている。


俺と死神もその女の子から目が離せずにいた。心の中でずっと声援を送り続ける。


(がんばれ……あと少し……がんばれ……!!)


アームがぬいぐるみをがっしり捕まえた。


(よしっ! そのまま持ち上がれ! いけ!!!)


アームはぬいぐるみを持ち上げ運んでいく……が寸前のところでぬいぐるみが落下した。


「っあー!!!! おしい! あとちょっとだったのにー!」


つい大声で叫んでしまった。周りからいっせいに注目を浴びたが、それでもお構い無しに両替機に直行し、千円札を崩し、急いでさっきの女の子のところに向かった。


「ちょっと失礼するね? 君このぬいぐるみが欲しいの?」


にこやかな笑顔を貼り付けて話しかけたが、内心不審者扱いされそうで膝から下の震えが止まらない。

しばらく女の子は考えた素振りを見せて小さく頷いた。


「そっ……そそそっかぁー!! よ……よぉーっし! お……おおお兄さんが取ってあげよう!」


震える声を気取られまいと張り切って頑張ったが帰って緊張してどもってしまった。


「え……? いいの??」


女の子が期待の眼差しで見上げてくる。これは……取るしかないでしょう……


「え! ええ! ちょっと待っててね!」


俺はUFOキャッチャーに五百円を入れてボタンに神経を込めた。絶対に負けられない勝負。いくらか買っても絶対にとってやる!!


矢印を移動させながらぬいぐるみの位置関係。角度をくまなくチェックする。

大人気ない?んなもんかんけーねぇーんだよ!!

次の矢印をUFOキャッチャーの横から覗き込みながらぬいぐるみに合わせる。


「よし!! ここだ!!」


勢いよくボタンを押す。アームがゆっくりと降りていき、ぬいぐるみを掴んだ。

(いっけぇー!!)


ぬいぐるみが落ちないことを祈りながらボタンを連打する。

アームはぬいぐるみを運びながら取り出し口前に移動し……寸前のところでぬいぐるみが落下した。


「なんでだよ!! 今の行ける流れだったじゃんかぁ!!」


悔しさに地団駄をふむ。大丈夫……大丈夫だ! まだあと五回はチャンスがある!!


「なぁーに! 今のはただのじゅ……準備運動さ!! こ……ここから本気を出していくぞぉー!」


苦しい言い訳をしながらストレッチの素振りを見せる。後ろから死神が必死に笑いをこらえているのが聞こえた。

(いいだろ! 別に! 取ればいいんだから!)


俺は再びUFOキャッチャーに向かって全神経を集中させた

ボタンを押す。横を確認しながらアームを合わせる……

またダメだった……

もう一回挑戦する……

ダメだった

もう一回……

もう一……

………


やっとの事で無事黒猫のぬいぐるみをゲット出来た。あれから何回か両替機を往復したが……それは見なかったことにしといてくれ。


「はい! お嬢ちゃん! これプレゼント!」


「いいの!? ありがとうお兄さん達!」


笑顔でぬいぐるみを受け取って俺と俺の後ろを見た。手を大きく降ってお辞儀を繰り返す女の子を見て、心が和んだ。


「……???」


「お兄さん達って言った??」


「言ったねぇ……」


もしかしてあの子は死神が……見え………

死神をチラ見すると少し驚いた顔をしていたが内心嬉しそうに笑っていた。


「あ!!!」


俺はふと何かを思い出したように声を上げる。


「ごめん! 死神! あの女の子に夢中で! つい本来の目的忘れてた!!」


死神はゆっくりしっぽを振りながらいいよいいよと手を横に流す。


「代わりに僕にも何かぬいぐるみをとっておくれよ!」


死神はにやにやしながら俺に挑戦状を突きつけてきた。


のぞむところっ!!


取れやすそうな台を探し、一回挑戦してダメそうなら台を変えるを繰り返した。その時にふとあるガチャガチャに目が止まる。


(あれってもしかして?)


俺は財布から三百円を取りだし、そのガチャガチャを引いた。中身を取り出してみると……


「うーん……シークレットの宇宙人が欲しかったけど……ナメクジ型かぁ……」


猫にかぶせる様のずきんを引いていた。お目当てが来なかったのは残念だが……死神は不思議な顔で覗き込んでくる。


「それ何?? なんか変な形」


「これ? これは……」


死神を手招きして呼ぶと、目を瞑るように指示した。その瞬間に死神の頭にさっき当たったナメクジ型のずきんをかぶせる。


「こうするんだよ!!」


「うううわぁぁぁ!!!」


死神は悶えるようにして必死に頭から外そうとするが、しっかりと紐で結んであるのでなかなか取れない。

「いぃぃやぁぁぁだぁぁぁ!!!!」


ずぽっと勢いよく脱ぎ捨てて俺に向かって投げつけてきた。思いっきり毛を逆立てて威嚇の姿勢をとる死神。


「ごめんって! もうしない! もうしないから!!」


鋭い眼光に当て付けられた俺はまたやってしまったという罪悪感が芽生えていた。今朝も死神を怒らせたばかりというのに全く俺は学習しない……


自分に嫌気がさしながらも死神のご機嫌をとるためにゲームセンターで遊び尽くした。

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