花は還る

街に出て、死神と遊んだ場所はもう巡ったから、逆に行きたい場所を見て回る。


クレープ屋、ドーナツ。死神と食べたかったな。


映画にショッピング。行きたかったな。


街以外で行こうと思えばどこへでも行けた。海外も行ってみたかったし、水族館にも動物園にも、行きたかった。


ゲームセンター。スーパー。本屋。ペットショップ。

街には色んな場所がある。


俺はふとペットショップの前を通りかかった。犬や猫がケージの中で楽しそうに遊んでいる。


黒猫のことを思い出し、涙が込み上げてきた。


さっさとこの場を離れようとしたその時だった。


目の端に黒いものが写った。


俺はペットショップを二度見する。猫のケージの中に黒いこがいる。


俺は恐る恐るペットショップに近づき、ケージを覗いた。


「!? この目!」


そう。その黒猫は青色とオレンジ色のオッドアイだったのだ。もしかしたら死神かもしれないと思い、マジマジとそのこを見る。


死神の方は気づく気配がなく、他のこと遊んでばかりいる。


「可愛いですよね。あのこ」


後ろから声をかけられた。


店員さんが後ろから覗き込むようにして話しかけてきていた。


「え? あ……」


「あ! 驚かせてしまいすみません。この黒猫ちゃんのこと見てたんですよね? さっきから圧がすごかったので(笑)あ! 悪い意味じゃないですよ! 実は、このこ昨日来たばかりで、少しお兄さんだけど……良かったら抱っこしてあげてください!」


「あ……はい」


俺は死神に似た黒猫を抱っこした。

柔らかい。ふわふわしてる。触りごこちは同じだった。でもこのこが死神だと言いきれない……ただ同じ毛並み。ただ同じ目だから死神という訳では無いことはわかっていた……

分かってはいたけど……


俺は涙をポロポロとこぼした。


「えっと……すみませんこのこを……」


そう言い、お姉さんに渡そうとしたが、俺の腕から子猫はなかなか離れたがらない。その時だった……


チリンッ


「?」


鈴の音だ。

一体どこから……

俺はその黒猫の首を触った。


……ある……ついてる。


俺が死神にあげたはずの猫型の鈴の首輪がついていた。


「あれ? そのこそんなのつけてたかな? すみません外しますね。このこまだ家族がいないので」


「いえっ!!」


バッ


お姉さんが猫の首輪を取ろうと手を伸ばしたが、俺は遮った。


この子は死神だ……間違いない。




「このこにします!」


そう言い、涙を拭った。




……そして黒猫との新しい生活が始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺と可愛い死神 @vulpe245

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ